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ニュース✔︎:東電経営陣への13兆円賠償判決ICRP放射線防護の倫理基盤の思い出

 ここのところ原発や福島関係のニュースが多くなっていて、時間が動き出したのだという気がします。コロナの3年間の社会の停滞、その間に漫然と一部の人たちだけが盛り上がって勝手に決めてしまった復興政策のツケは今後、誰の目にも顕になることだろうと予測しています。
 すべてのニュースは追えないので、ふたつだけ拾っておきます。東電の株主が、旧経営陣に、東電に与えた損害を(東電に)賠償するよう経営者の責任を問うた裁判で、東京地裁が13兆円の賠償を命じた判決が出ました。地裁判決なので、このあと、控訴審、上告審までいくのではないかとは思いますが、個人に対しては過去最高の賠償金額になるとのことでした。

 法的な解説は詳しい方に譲るとして、この裁判だけではありませんが、公判を通じて繰り返された経営陣のあまりに無責任な抗弁が東電への信頼を回復不可能なものに失墜させた、ということも指摘しておくべきではないかと思います。
 私は、お人好しなので、事故が起きた直後は、事故を契機に政府・東電が反省し、自分達の体質を一新し、信頼できる態勢に生まれ変わるなら、それはそれで許容してもいいのではないかと思っているところもありました。ところが、一連の東電のかかわる裁判での弁論内容のあまりの無責任ぶり、面従腹背な主張、とりわけ旧経営陣の厚顔無恥ともいえるような主張を見て、絶対に信用ならない、と思うようになりました。もともと東電に対して強い怒りを持っていた人にとっては「火に油」でしたでしょうし、こうした側面は、社会的にも見逃すことができない大きなものであったと感じています。
 いまでも東電は解体した方がいい、と私が思うのは、これらの裁判を通じて知れ渡った東電の組織としての無責任ぶりに対しては、今後どれだけ時間が経とうとも信頼は回復不可能であると判断しているからです。

 国際政治学者武者小路公秀氏がお亡くなりになられました。一度だけお目にかかったことがあり、その時のことはとても印象深く覚えています。

 ICRP(国際放射線防護委員会)は、2018年に「放射線防護の倫理的基盤」という勧告を公刊しています。それに先立って、世界各地でワークショップを開いています。これは「倫理」は文化的基盤によって異なるため、さまざまな文化的差異を踏まえた上で、普遍性をもつ放射線防護の倫理的基盤を構築するためであったと聞いています。

https://www.icrp.org/docs/ICRP_P138_Japanese.pdf

 私は、2015年に開かれた日本(福島)でのワークショップに参加し、プレゼンテーションを行いました。その後のワークショップは、一般公募の方もおいでになっていての議論が行われたのですが、そちらに武者小路さんもおいでになっていました。(巻末のワークショップ参加者リストのなかにお名前が入っています。) 全体議論のときに、西欧文化基盤の倫理と、アジアや他文化での倫理の基盤の差異についてあざやかにご指摘になり、海外からの参加者が言葉どおり目を見張って、書き逃すまいとあわててメモをとる手を走らせていた姿を思い出します。
 ICRPの138勧告は、西欧伝統だけに依らない文化的差異への配慮も行われたとてもよくできている内容だと思うのですが、非西欧文化への目配りは武者小路さんのご指摘によるところも大きいのではないかと思っています。
 恥ずかしながら、私は武者小路さんのことを存じ上げなかったのですが、私の書いていた論文を読んでくださったとのことで、とてもよかった、という趣旨のお声がけをいただきました。今にして思えば、どういう点をよかったと感じられたのかもっと詳しく伺っておけばよかったと悔やまれます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/47/2/47_78/_article/-char/ja/

 当時の私は、「なぜあんな有名人がここに…」とざわつく会場の方から、武者小路実篤の甥御にあたられるとうかがい、「武者小路実篤」はペンネームじゃなかったのか!などと、どうでもいいことに頭をとられているくらいには、ものを知らなかったのです。
 ICRPとの付き合いを通じて、いろいろな方とお目にかかる機会を得ましたが、武者小路さんの、「専門知」とは違う全人的な意味合いでの学殖の深さは、わずかな時間のふれ合いでしたが、他にない経験として記憶されています。お声がけくださってありがとうございました。

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