ニュース✔︎:規制委 処理水放出計画認可
原子力規制委員会が東京電力の処理水放出計画を認可しました。
規制委の認可は、処理水放出計画の技術的側面の審査のみを行うもので、よほどのことがなければ認可がおりないことはないため、予定どおりということになります。このあとは、福島県と双葉大熊両町による了解になりますが、福島県が、国に対して意見することは考えられないので、そのまま了承ということになるのではないでしょうか。
河北新報に相双漁協の新組合長のインタビューが出ていました。
福島県沿岸の漁業は、大きく、北側と南側のいわきとに分かれます。 相双といわきとでは、漁業者の平均年齢も主力魚種も違ってきます。(いわきは小さな漁港がいくつもあるため、漁港によって主力魚種も操業海域も違うので、ちょっと説明不足の説明なのですが。)
「国による一括買取」を主張される政治家さんは多いですが、現実的な側面からしても、経済の健全性の側面から考えても、あまりよい意見であるとは思えないです。
カツオやサバなどは冷凍できるけれど、ヒラメやカレイはそうはいかない、とのことです。こうしたことを含めて、きちんとステークホルダーと意思疎通ができているのか(おそらくできていないのだろう)と感じさせます。
以下は、今後の核心となる問題になります。
このままのやり方だと、処理水海洋放出を決定した時のように、一方的に政府が「理解を得られたとみなす」と宣言して放出を強行するというやり方しかなくなると思います。そうすると、矛を収めていた人も「また一方的に決めるのか」と、今度は本格的に腹を立てることになります。不信はぬぐいがたいものになります。
こうなると、たんに怒りを誘うだけでは済まない大きな影響を呼び起こすことになる危惧が強いです。さらなる風評の拡大です。風評は、リスク管理者に対する不信が強いところで大きくなるという特性があることは、先行研究で指摘されています。また社会的な混乱が大きくなればなるほど、風評が大きくなるのは当然と言えるでしょう。
一方的な決定で不信を強めれば、風評も大きくなることが予測され、そのことがさらなる不信と憤りを呼び、さらに風評が拡大する、といった、不信と風評の負のスパイラルシナリオが発生する可能性も現実味を帯びてきます。
実利的に考えた時に、一方的に決めることは、かんたんでもっともやりやすいように思えますが、波及的影響を考えた時には、もっとも事態をこじれさせて難しくして場合が多い手法です。利害関係者がさまざまにおり、それぞれの利害が大きく反している場合は、特にそうです。
いつかは誰かがなんらかの判断しなくてはならないというのは、当然のことです。しかし、社会へ与える影響を最小限に抑えるべく、判断に至る前に十分にステークホルダーと意思疎通ができたのか、社会に対して説明責任を果たせたのか、透明性を確保しているのか、しっかりと態勢を整えるべきではないか、というのが私がずっと指摘していることです。
これは処理水に限らない、原子力施設や廃棄物の問題、さらには、科学技術と社会、「トランス・サイエンス」の問題全般として捉えることができます。以下の論文は、リスク学の観点から、現在の日本の科学技術と政策のギャップを論述してありますが、実感としても非常に納得ができます。
「科学と政策の間のギャップの 可視化と橋渡し ―リスク学の知見の貢献 」
処理水問題もまったく同様で、「科学」を隠れ蓑にして、本来向き合うべき現実的な問題から目を逸らし続けているように思います。そしてそれは、第一原子力発電所の事故をおこした社会背景とまったく同一のものではないでしょうか。目を逸らし、現実に向き合う対処から逃れようとしているのは、政府だけではなく、社会、国民側も同じです。そうやって、対処すべき課題から目を逸らし続け、その間に、どんどん現実の事態は悪化していき、ますます解決が難しくなり、結果として損害は拡大し、社会は停滞する、といったことを繰り返してきたのが、過去30年の日本であるように私には思えます。30年の停滞の結果は、すでに社会にあらわれてきています。「失われた30年」を、この先、さらに「失われた50年」にするつもりなのかどうか、それが問われているのだと思います。
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