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福島復興あれこれ:国際研究(教育)拠点のこと・続

 昨日の続きです。
 国際研究(教育)拠点をめぐる様子がおかしい、もっといえば「異様」になっている、と私がずっと言っている背景をもう少し書いておきます。

 福島民報に載っていた記事です。
 民報に限らず、民友も同じようなことをいつも書いているので、福島県(県庁・県政)の姿勢はこのようなものであると伺われます。

 これを読んで、福島県外の方は「?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな話あったっけ? あるいは、こんなでかい話だったっけ? くらいの印象でしょうか。
 そう思われるは、福島県以外の報道、ブロック紙の河北新報も含めて全国紙の伝えるトーンが、県内報道と大きく異なるからです。福島県外の人たちは、こういう計画があること自体、ほとんど知らないでしょうし、知っている人でも、福島県内の報道を見ると、あまりのテンションの高さにびっくりされるのではないでしょうか。

 参考までに、河北新報でいちばん新しく触れてあるのは、検索をかけるとこの記事で、復興相の被災地視察にあわせてさらりと触れてあります。

 だいたい福島県外の全国紙の報道は、こんな様子で、政府の動きを淡々と伝えているのに対して、福島県内の報道では、復興庁の計画にさえ盛り込まれていない、いやに具体的な、壮大な話がどんどん出てきて、話がふくらんでいく傾向が強いです。ですが、続報を見ていると、県内報道で報じられた「具体案」が、その後の復興庁の計画では、まったく盛り込まれていなかったり、軌道修正されてトーンダウンしていたり、となっていることもたびたびあります。
 福島県内外での、温度差が非常に大きいのです。

 全国紙と福島ローカル報道を見比べていると、同じ話なのかな? と思ってしまうくらい報道が違い、最近は、よく眩暈がしてきます。県内報道は、霞ヶ関の流れ的にそれはありえないでしょう、という「願望」が盛り込まれていることも多々あり(強固な縦割りや予算割、省庁間の関係などを無視した話が多く出ている)、報道内容に不安を感じることも少ならからずあります。

 国際研究機構にまつわる報道は、ここ2〜3年ほど、ずっとこんな調子です。
 なぜこんなことが起きるのかといえば、情報源の違いでしょう。福島県内二紙は、県庁・県政方面をもっぱらの情報ルートとして報道していると思われます。ですから、その報道内容は、県庁・県政側の認識を反映していると理解しています。

 全国紙側は、霞ヶ関、復興庁に当然取材しますから、そちらがわの温度感を反映した扱いになります。大きく報道されることがあまりないのは、復興庁側の温度感を反映していると思われます。

 そもそもでいえば、先日紹介した記事にありますが、国際研究拠点構想は、2014年の経産省の有識者委員会に記載されたところがスタート地点でした。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/140623/report_01f.pdf

 ところが、アイデアは出されたものの、その後は塩漬け状態で、前に進むことはありませんでした。所轄省庁が決まるわけでもなく、予算がつくこともありませんでした。経産省の有識者委員会での議論で出てきたアイデアですから、他省庁は当然、するとしたら経産省だろうと思っていたでしょうし、実際、普通に考えればそうなのですが、経産省は避難指示解除にていっぱいでそこまで手が回らなかった、というところではないでしょうか。

 そのまま放置されていた国際研究拠点計画が、表に出てくるのは2019年。今度は復興庁が担当と決められました。復興予算を所轄しているのは復興庁なので、復興予算で作るなら復興庁、といったところでしょう。当時は、復興庁の10年目以降の存続さえどうなるかわからない状態でしたから、突然おはちが回ってきてびっくりしたのではないでしょうか。

 普通であれば、そのまま塩漬けにされていてもおかしくなかった国際研究(教育)拠点計画が、突然、日の目を見ることになったのは、避難指示は解除したものの、人も戻らず、避難区域の復興がうまくいっていないことが明らかになってきたからだろうと思います。

 「福島復興」は「国策」ですから、なにがなんでも失敗したとみなされるわけにはいかない。県庁・県政サイドも、国政側がそう思っているのは知っていますから、強気に出ます。県知事に、「福島復興は失敗しました」とでも言われようものならば、政治的には大失点になりますし、国内の関心が高い時期には政権がひっくりかえったかもしれません。(いまは関心が薄れているので、別に復興が失敗した、と言っても「やっぱりそうなんだ」くらいの印象にしかならないと思いますが)

 政治的に、「国策は失敗していない」とみなされるためのプロジェクトとして、国際研究拠点は必要とされた、ということだと思っています。

 ところが、だからと言って、予算がなんとかなるわけではありません。いまの日本の財務状況のなかで、新たな恒常的な予算を措置するのは、並大抵のことではできません。このあたりは、霞ヶ関を取材されている報道関係者ならば、イロハのイでご存じだと思います。有力国会議員であったとしても、動かすのは難しいでしょうし、ましてや、福島県選出議員の政治力は強くありません。
 復興庁としては、自分達は所詮、期限付きの省庁、期限と予算がある間、決められたお仕事はしますが、その後のことのお約束はできませんし、それをなんとかしろと自分達に言われても…、それにそもそもこの話は経産省が持ってきたんだから、なんで自分達がここまで苦労しなきゃならないの…?くらいの感覚ではないでしょうか。
 そこに、地元の霞ヶ関事情をわかっていない人たちから突き上げがどんどん来る、政治サイドは「国策だからしっかりやれよ」とは言って口は挟むものの、誰も汗はかかないわ、調整ができるわけでもないわ、財務省を動かせるわけでもないわ、ヒアリングにまわった先々では「いやー、この計画どうなんでしょうね…、復興の力にはなりたいけど組織がどうなるかわかんなきゃね…」と渋い顔をされるわ、という状態でしょうから、担当者の方には、少しばかりお気の毒になります。

 これまでも、選挙前になると拠点計画は、地元側から「あれもこれも、もっともっと!」と要望が出て、国政政治側が「よっしゃよっしゃ、あれもこれも、世界に冠たる国際拠点だ!」とどんどん盛り上げて、選挙が終わったあと、復興庁の出してきた計画を見るとトーンダウンしている、ということの繰り返しでした。

 県庁・県政側は、国政側が選挙対策として、無責任に薪をくべたものをそのまま信じているのではないか、という気がしてなりません。
 強い縦割りと財務省の大きな権限が支配する霞ヶ関のなかで、所轄省庁が定まらず、予算目処もつかない計画が大きなものになることは、「ありえない」という次元で考えにくいです。
 考えられるとすれば、規定の既存組織の予算から大きく逸脱しない範囲で運営維持していくことになるでしょうが、縦割りの厳しさから考えると、各省庁がそれぞれ背後にある既存組織の統合がうまくいくとは、到底思えません。

 イノベーション・コースト構想との一体化は進められているので、復興庁なき後は、経産省がひきとるつもりなのかもしれませんが、経産省も既に外郭団体をいくつも抱え、研究機関としては大きな産総研を持っています。拠点をどこまで維持できる体力があるのかは、はなはだ疑問です。
 適正な規模にして、地元側が引き取るという選択肢もないわけではないでしょうが、福島県内の行政は、霞ヶ関の省庁の縦割りの硬直性よりもひどいんではないか、というほど硬直的なところも多い上に、そこに田舎のメンツと利権争いもかかわるということで、地元側に引き取ると、さらに悲惨な状況になることは目に見えてます。

 なんにせよ、この夏の参院選と、秋にある県知事選のあとには、また大きく変わるのではないでしょうか。
 地元住民のなかで期待している人は、ほとんどいないです。強い期待を抱いているのは、それによって予算とポスト(出向先、天下り先)を得たいと思っている、自治体関係者くらいだと思います。

追記:
もうひとつ怖いと思うのは、これだけ実態が空虚であるにもかかわらず、内閣総理大臣を主務大臣とする特殊法人として法的に位置づけるなど、枠組みだけはどんどん肥大化していっていることです。その割に、政治的には腰を入れる様子はまったくみられず、国政的には、徐々に「お荷物」ないしは「放置」案件と思われているのだろうと思いますが、これだけ実態と枠組みが乖離してしまうと、地元側の期待を煽られた人たちもいますし、軌道修正もきわめて難しいでしょうし、いったいどうなるんだろう、という不安感しかありません。

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