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雑感

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日記のようにその時々の感じたことを書きます。予告なく削除することがあります。
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記事一覧

2024年頭所感:漂泊の時代のはじまりに

 年明けに年頭所感を書くことを恒例にしていたが、年越し直前に風邪をひいてぐずぐずとしているうちに、能登の大地震が起き、正月という雰囲気でもなくなってしまった。それでも、節目ということで書いておくことにしたい。  2023年の後半は、修士論文の追い込みに加えて、OECD/NEAのワークショップ参加、ダイアログの開催、ICRP2023への参加と札幌のリスク学会でのセッション準備に、細々と締め切りや大学院の単位取得授業もあり、正直、自分でも乗り切れるかどうか不安だった。  それで

雑記:「デブリに触れた水」を広めたのが私であるという風評に対する反論

 「デブリに触れた水」という言い方を私が広めたものであるかのような主張がXを中心に広げられているようです。中心となっている方のnoteを引用し、私が掲載した反論をnoteにも掲載しておきます。  私の反論を受けて、一部、記事を修正していただきましたが、それでも、私へのレピュテーション・ダメージ(風評被害)を与える効果はある、と認識しています。  まずは、当該となっている朝日新聞のインタビュー記事を全文読んだ上で、ご判断いただきたく存じます。  こちらが、中心となっている方

雑感:著書を出した後に変わったこと

 2019年に著書を出した後、初対面の人にたまに「知っています」と言われることがある以外は、特段生活に大きな変化があったわけではないのだけれど、ひとつだけ、はっきりと変わったなと思うことがある。  わたしの原発事故の後からの一貫した姿勢は、その場所で暮らす生活者を尊重し、支援する、ということだった。とは言っても、別にここで暮らさなくてはいけない、と思っていたわけでもない。  原発事故のあとの福島は、はっきりいって大変だった。放射能だけではない。とにかくひたすら、いろいろと

雑感:美容院での喫水線をめぐる会話

 年齢を尋ねると、彼は28歳だと答えた。  10席ほどの椅子と鏡が並べられた店内は、ひととおり席は埋まっているものの、高い天井と全面ガラス張りになった壁のおかげで、混み合っている感じはしない。それでも、パーティションで区切られているとはいえ、耳をすこしそばだてれば、臨席の会話はまる聞こえだ。そんなことはおかまいなしに、彼は話し続ける。  だって、ちょっと関係あるとかじゃないですよ、もうあの人たちズブズブじゃないですか。信じられないですよね。日本の中心の人たちがあんなズブズブ

雑感:パンドラの箱の底で

 現実世界で「パンドラの箱を開けた」という表現が比喩ではない場面は、そうそうお目にかかることはないだろうけれど、ましてやそれが、全国民の面前で展開される、なんてことは、何事も隠微に済ませることをよしとするこの国では、もっとないことだろう。  統一教会という団体名は思いもつかなかったけれど、いま盛んに報じられている政治とカルトとのつながりについては、やっぱりそうだったか、という納得感しかない。2016年、谷垣氏が事故で倒れた頃から急速に強まっていた異様な気配は、国政の中心がこ

雑感:いわゆる「民主主義の危機」

 昨日の事件について、判を押したように「民主主義の危機」というコメントが並ぶニュースをひととおりチェックし終えてみて、どうにも釈然としない。  ひとつには、安倍氏の業績について触れた記事の多くで、ローカルニュースは別として、東日本大震災と原発事故について触れていないからだ。安倍氏率いる自民党が2012年の選挙で圧勝を収め、その後も、圧倒的な長期政権を築くことができた背景には、まちがいなく東本大震災と原発事故によって、日本社会が激しく動揺したことがある。当時の民主党政権の頼り

お知らせと雑感:ユリイカ2022年7月号「特集*スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ」に寄稿しました

既に発売になっている青土社の『ユリイカ』に寄稿しました。 アレクシェーヴィチの『チェルノブイリの祈り』と私が原発事故後に測定の活動をしてきたことについて自由にエッセイに書いてほしいというご依頼でしたので、そういう内容になっています。 著書の『海を撃つ』に書いた内容とかぶってはいますが、時間が経過したぶん感じることが少し違ってきたという点、そしてアレクシェーヴィチの『チェルノブイリの祈り』に共感すると同時に、そこはかとなく覚える反発についても書けたかなと思っています。 今回

雑感:電力危機と原発事故

やにわ「電気が足りない」という騒ぎになっている。だが、原発事故以降、エネルギー問題に多少でも関心を払ってきた人ならば、なにをいまさら、というところだろう。 日経あたりには、エネルギー政策の怠慢によって電力供給不足に陥る危険性について、もう何年も前から切迫感のある記事が繰り返し掲載されていたし、安倍政権時代、世耕経産大臣のときにエネルギー政策の見直しについての委員会が開かれたものの出てきたのは骨抜きの内容の提言で、どうするつもりなんだ、という指摘も多くなされていた。その頃には

雑感:末続プロジェクトの記録誌を作成中

 末続プロジェクトの記録誌を作りたいと思い立って早3年。なんだかいろいろともたついてしまって、予定がすっかりのびのびになっていたのだけれど、ついにできあがりそうだ。  わが戦友ジャック・ロシャールと出した論文はあるのだけれど、これは学術誌にのった文章なので、一般には読みやすくはない。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/56/1/56_39/_pdf  住民の人たちの視点もいれて、もっとプロジェクトの全体が見える読み物にし

雑感:3年が過ぎたあとに

戦争であれ、災害であれ、事故であれ、既存の社会秩序を揺るがす大事象が起きた後は、「復興」が課題になる。住まいや生存を保障する最低限のインフラを立て直すまでは、「復興」が意味するところは、それほど疑問になることはない。 問題は、その後だ。そこからどうすべきかは、できごとから3年め頃が大きな転機なのではないかと思っている。人間の感覚の問題だ。 3年までは「それ以前」の世界を鮮明に思い出すことができる。3年経過すると、それがどのようなものだったかが、記憶は曖昧になりはじめ、しだい

雑感:情動の思考

フランスの哲学者ドゥルーズの著書のなかに『情動の思考』という小著がある。よく知られているフェリックス・ガタリとの共著ではなく、ファニー・ドゥルーズ、ジル・ドゥルーズの共著となっていて、夫婦の共著であるようだ。(詳細は知らない/覚えていない。) 私がこの本を読んだのは、学生時代だった。その厚みだけで圧倒され、中身も暗号文を解読するかのように読み解かなければなにが書いてあるのかさっぱりわからないドゥルーズの主著に比べれば、びっくりするくらい普通の言葉で書かれていて、とても読みや

雑感:リスク社会におけるノリのよさ

放送大学の大学院の授業をぼちぼちと受けている。テキストや講義のレベルは高いと耳にしていたのだけれど、確かに、受講科目のテキストをざっと見てみると、とてもよくまとめられているように思える。内容が濃くてページ数に比して読むのに時間がかかるため、油断できない。(いい内容の本は、一言一句覚え込むまで読みたくなって逆に読めなくなる悪癖が出ないように気をつけなくては。) リスク学系の内容を学んでみると、自分が震災後にやってきた活動は、リスク学でいうところの、市民参加型の意思決定のあり方

雑感:お知らせとご挨拶

お知らせしましたように、4月から放送大学大学院修士課程に入学しました。奈良由美子先生の研究室でお世話になります。私のこれまで行ってきたことを整理し、さらに深めていくことができそうで、とても楽しみです。 リスク学領野の方で、こちらをご覧になってくださっている方もいらっしゃるのではないかと思いますが、今後、すれ違ったり、交流させていただくこともあるかと思います。なにとぞよろしくお願い申し上げます。 (私の文章は「強い」のですが、実際のコミュニケーションでは、文章ほどキツくないの

雑感:戦争の熱狂と過去

世界の関心はウクライナ一色で、メディア空間はその話題でもちきりだ。私のnoteもウクライナのゼレンスキー大統領のドイツ演説についての記事がいちばんアクセスが増えているので、どこでもきっとウクライナ関係の話題がいちばんアクセス数が伸びているのだろう。 戦争はインテリを熱狂させるものなのだ、と思いながら眺めている。退屈な日常の世界に突然あらわれた非日常の世界に高揚し、また、政治や背景など知識人にとって関心の高い議論材料には事欠かないし、戦局が動くごとに景色も変わるので、いくらで