見出し画像

ときのそら 3ndアルバム『Re:Play』私的レビュー

はじめに

このnoteは、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」に所属するバーチャルアイドル[ときのそら]さんの3rdアルバム「Re:Play」の主観且つ私的レビューです。

毎度のことながら低レベルな内容かつ主観モリモリですが、暇つぶし程度になれば幸いです。

尚、今回のアルバムはフルカヴァーアルバムとなっている為、前回の2ndアルバム『ON STAGE!』私的レビュー時とはちょっと趣向を変えて、「原曲」や「過去の歌ってみた動画」を踏まえて今アルバムではどのようなカヴァーになっているのかと言う点についても書いていきたいと思います。


2021年11月24日にビクターエンタテインメントからリリースされた、[ときのそら]さんの3rdアルバム「Re:Play」

Twitterのハッシュタグ「#ときのそら聞いたよ」で多くの感想を見ることができます。

また2022年1月22日(土)には、「Theatrical Cover Live」と銘打たれた3rdライヴ『Role:Play』が東京・大阪同時公演で開催されることが決定しています。興味がある方は、チェックしてみてください。


さて、今回のアルバムはレビュー対象として「通常盤」を選択して、まずはアルバムの物理的な部分を見ていきたいと思います。

※以下、敬称略。

アルバムジャケット

3rdアルバムのジャケットは過去のアルバムと同じく[おるだん]氏によるイラストとなっている。これまでのジャケットのデザインとは異なり、サイバーチックなデジタル空間の中に[ときのそら]がちょこんと浮いているような構図となっている。バーチャルアイドルらしい表現だと思うと同時に、カヴァーする15曲を前にした彼女の「控えめで楽曲に対する真摯な姿勢」がそのちょこんとした姿勢で表現されているようにも思えた。

また、彼女の周りを囲うような装飾がネオンサインのようにも見えて、ベストヒットUSAのオープニングのような懐かしさも感じた。今回洋楽曲のカヴァーは含まれていないが、80年代の歌謡曲も含まれていることが感じさせた懐かしさなのかもしれない。

歌詞ブックレット

ブックレットを開いての第一印象は「シンプル」そのもの。[ときのそら]のアーティスト写真などは一切なく、彼女を連想させるものは歌詞が記載されたページの背景に「星」や「髪飾り」などの彼女の衣装の一部を思わせるデザインが、そっと印刷されているのみである。

だが、今回はカヴァーアルバムであることを考えると、このシンプルさも「カヴァーさせてもらった曲へのリスペクト」とも受け取ることが出来る。ブックレットのデザインにまで彼女が関わっているかは不明だが、もし関わっていなかったとしてもそれは「制作サイドの彼女への理解の深さ」がにじみ出ている部分なのかも知れない。

今作もSpecial Thanksとして※「そらとも」がクレジットされている。この感謝に、より多くの応援や声援で応えて行きたいと思う。

※「そらとも」=「ときのそら」のファン呼称。

次からは各楽曲についてのレビュー。

M01. HOT LIMIT

収録曲が発表された時点で誰もが少なからず衝撃を受けたであろう、T.M.Revolutionの『HOT LIMIT』。

アルバム発売日が2021年の11月24日という寒さが増してくるこの時期、
記念すべきフルカヴァーアルバムである3rdアルバムの1stトラックに、
夏を刺激する生足魅惑のマーメイドがやってくるという確信犯のスタイルは誰が想像できたであろうか。

原曲はT.M.Revolutionの代表曲の一つと言ってもよく、寧ろ令和のこの時代でも「夏の代表曲」として多くの人に聞かれている曲だと思う。歌詞の内容は端的に言えば煽情的であり、深読みすれば「そういう風にも」受け取れるコンプライアンスに配慮が必要な内容となっていて、真夏の南国ビーチの魅惑的で湿度の高そうな情景が描き出されてくる。

この曲に対して、[ときのそら]の歌唱は「海開きを楽しみにしていた」かのような健康美溢れる歌声の表情で歌っており、原曲よりも湿度と日差しは控えめだが、これから始まる夏を満喫しようという中高生の時期の高揚感のような情景が思い起こされる。とは言え曲中の「酔わせて とろかして」の部分は曲全体の健康美とは異なる魅力で表現していて、彼女の歌唱表現の幅の進化にも気付かされる一曲となっている。

M02. ロマンスの神様

熱い風の誘惑にココロまで脱がされた後は急転直下、アルバムリリース時期に相応しい「冬の女王」の代表曲の一角で、今でもウィンタースポーツの時期には耳にする事も多い、広瀬香美の「ロマンスの神様」。

実はこの二人、同じビクターエンタテインメント所属であり、レーベルメイトという事になる。その縁もあってかレーベルメイトとしてもアーティストとしても大先輩となる広瀬香美から、ニュース記事へのコメントやツィートなどを頂いており、リアルとバーチャルの間に音楽と言う橋が架かっていく様子を見ることができる。

原曲は「冬の代表曲」のイメージが強いが、「Boy meets girl」な恋愛ソングである。恋に恋しているときの高揚感と不安感が織り交ぜられた歌詞がジェットコースターのようにアップダウンするメロディーに乗り、ラスサビのハイトーン領域は「ロマンスの神様」への感謝となっていて、幸せ絶頂ここに極まった終わり方となっている。

[ときのそら]のカヴァーは、信じがたい話ではあるが、原曲よりキーが上がっており、その影響で高揚感が強調されたミックスとなっている。
ただ歌声の表情は「1番は若干不安があり」、「2番は楽しさが溢れた感じ」、「中盤からラストは幸せ満載」と言う風に曲中の物語の進行に合わせた変化が付けられている。記憶の限りでは、曲中で変化が付いたのは初めてだと認識しており、曲の展開に合わせて進む彼女の幸せ感が増していく歌声が楽しめる。

M03. ファンサ

怒涛の連続季節ソングの後は、アイドルソングの定番…と言うよりは「アイドルという立場の存在が決意表明する際の定番ソング」と言った方が良いかも知れない、HoneyWorksによる「ファンサ」。

曲の主軸は、ステージ上のアイドルから客席のファンへ向けた一種の宣言。
だが曲中にはその煌びやかな光景の代償、客席からは見ることが出来ない苦労や理不尽な言葉の暴力という、代償の一言で片づけられない苦悩が歌われている。

この曲で描かれている存在と同じく、[ときのそら]もアイドルである。
今回のカヴァーでは、彼女は敢えて「曲中の誰かの感情」を歌声に載せていないように聞こえる。彼女の素の歌声と言うか、彼女の想いが歌詞と完全に同化しているからこそ、歌声の表情も何色にも染まらない[ときのそら]そのものが現れているのかも知れない。

自分の色で曲を塗り替えるのもカヴァーとしてはアリだし、全く別の方向に持っていくのもカヴァーとしてアリなのであれば、曲の物語に同化するのもカヴァーとして成立すると思わせてくれる。

M04. MASAYUME CHASING

4曲目はアニメ「FAIRY TAIL」のOP曲のひとつ、BoAの「MASAYUME CHASING」。

「夢を追いかけて」「現実にしていく」そんな思いの込められた新たなアッパーダンスソング

上記公式MVの概要欄より引用

先の引用の通り、前向きな歌詞がダンサブルなオケに乗り、新たな物事に挑戦しようとするときの一歩目の踏み出しが軽やかになりそうな曲となっている。

ではこの曲はどのようなカヴァーになっているのか。
[ときのそら]の歌唱スタイルや歌声の影響もあるだろうが、ダンサブルな原曲から一転して「ファンタジー世界の澄んだ湖の傍の草原」のような情景が浮かぶ清涼感が強調されたアレンジとなっている。その世界観に溶け込むかのように透き通った彼女の歌声と、曲中のラップパートが「異世界のおしゃべりな小動物による励まし」のように聞こえてくるのが楽しめるカヴァーとなっている。

M05. 怪物

5曲目はTVアニメ『BEASTARS』第二期オープニングテーマでもある、YOASOBIの「怪物」。

静かに、そして少しダークな世界観を感じさせるイントロから始まる非常にスタイリッシュな原曲は「曲中の物語の起承転結が強力に表現されている」と感じる。
ボーカルに掛けられた機械音声的なエフェクトが曲中の物語の進行や心境にに合わせて弱まっていくことで、序盤に感じた不穏な世界観の中にあっても確かなもの・信じられるものがある、そう思わせてくれるほどにイントロとアウトロで表情の異なる楽曲だと感じた。

[ときのそら]のカヴァーバージョンはどうだろうか。
原曲とは異なり、彼女の歌声には機械音声的なエフェクトは殆ど施されていない。そして湿度を一切含まず乾いた歌声の表情で始まるこの物語のイントロは「どこか他人事のように、高い建物の屋上に腰掛けて街を見下ろし自嘲的な笑みを浮かべている」かのような光景を想起させる。
ここからが対照的だと感じた。原曲の「霧や靄を思わせるような機械音声的エフェクトが晴れていく」ボーカル表現と異なり、曲中盤から後半に掛けて「乾燥した心が表情を取り戻していくように生気を帯びていく」歌声が、原曲の雰囲気とは異なる「若干のお洒落感・スタイリッシュ感」を強調したアレンジとも合わさって、物語の新しい視点を見せてくれている。

M06. アンドロイドガール

6曲目は多数の名曲を生み出し続けているボカロPでもあるDECO*27の「アンドロイドガール」。

メロディアスハードロックな曲調にかなり重めの愛を謳う歌詞が乗るキャッチーな曲である。

個人的には、「HOOBASTANKの曲」と言われても違和感はない。

また、アンドロイドと言う無機質な存在が愛を歌うことで「造られた存在が想いを持つこと」について考えさせられてしまう。愛や夢や希望は人間だけが意識できる感情なのか?脳内における電気信号の延長線上にあるのが感情なら、感情の視点から見た場合アンドロイドと人間の区別はつかないのではないか?

話題が逸れたのでカヴァーに移ろう。
曲調は同じだが静かなパートと激しいパートにおける楽器隊の音数の差が原曲よりはっきりとしている。そこに[ときのそら]の有機性を抑えめにした歌声から曲が始まる。そしてそこから曲中で歌声の表情がくるくると変わっていく。曲の進行に合わせて、無機質だったアンドロイドガールの眼に有機的な光が宿っていくかのように、歌声に血液が流れ込んでいくかのように、彼女の歌声が変化していく。
ラスサビ前の「君だけは許さない」の叫びでドキッとした人も多いと思うが
この瞬間、アンドロイドガールには完全に人間と同等の感情が生まれたのではないだろうか。徐々に蝕むかのような、曲の頭とラスサビ以降の彼女の歌声の表情の違いは「アンドロイドと言う無機質な存在でも愛を歌うことが出来るほどの想いを持てる」、と警鐘じみた未来予想図を歌っているようにも聞こえた。

余談ではあるが、本曲はアルバムリリース前に行われた「ときのそら活動4周年記念ライブ」で先行お披露目となっている。


M07. God knows…

7曲目はTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇中歌である「God knows…」。

平成以降のアニメソングにおける定番曲でもあり、同時にギタープレイヤー人口増加に寄与した曲でもないだろうか?
一時期は某所の「演奏してみた」に必ずと言ってもいいほど表示されていたこの曲は、「涼宮ハルヒ」というエキセントリックなキャラクターの中に存在する想いの強さを表した曲でもあると考えている。

先の「アンドロイドガール」と同じくバンド曲として編曲されており、アニメソングとしてだけではなく普通にJ-POPとしても聴ける良曲である。

格好良さと想いの強さが目立つ原曲から、[ときのそら]のカヴァーバージョンは不安や心細さと言った感情が伝わってくる歌声となっている。アレンジは原曲とほぼ同じ、歌詞も同じ。だが歌声が変わるだけで歌詞の雰囲気が異なって聞えるようになるのは、原曲の完成度の高さが持つ懐の深さとその新しい一面を再描写した彼女の、曲に対する解釈力が起こした「神のみぞ知る祝福」ではないだろうか。


M08. Butterfly

8曲目は、倖田來未の「Butterfly」。

エロかっこいい」という流行語を生みだし、新しい潮流を作った倖田來未の16枚目のシングルである。
かなり意外な選曲であると同時に、[ときのそら]の持つイメージと大人の女性の新しい格好良さを体現した倖田來未の曲がどのような化学反応を起こすのかが楽しみだった曲でもある。

そしてそのカヴァーバージョンは、まさに化学反応と表現するのが正しく、原曲の「エロかっこいい」感を中和して[ときのそらのイメージ]の延長上にある「大人っぽくなった彼女」のイメージの一例が聞こえてくる。

ここでの「中和」は良い・悪いの話ではないので念の為。

既に成人済みではあるが、配信では極々偶に「赤ちゃん」と言われることもある[ときのそら]。しかして、このカヴァーから聞こえてくる「凛とした大人かっこいい」ときのそらが既に彼女の中に存在していることを忘れてはならない。


M09. まっさらブルージーンズ

9曲目は、℃-uteの「まっさらブルージーンズ」。

平成グループアイドルの王道ともいうべき原曲であり、「ときのそら」が過去に語ったことがある「グループアイドルのようなステージパフォーマンスをやってみたい」という想いの具体系の一つではないだろうか。

ベースラインが前面に、ホーンセクションありと、楽器隊の音数が多い曲と複数人で構成されるフォーメーションパフォーマンスはかなりステージ映えすることが想像される。

この曲のようにアイドル感が前面に出てきている曲は、[ときのそら]の真骨頂の一つでもあろう。元気に明るく・時に少々切なくと原曲へのリスペクトとも思える歌唱スタイルとなっている。
これは、彼女のイメージするアイドル像の一例を分かりやすく提示してくれた貴重なカヴァーなのではないだろうか。


M10. 嘘

10曲目は、シドの「嘘」。

曲中の歌詞にもあるように「夕暮れの風景」が想起される、マイナーキーでメランコリックなバンドサウンド。ただ、激しさよりはむしろ控えめで静かだが淡々と、歌詞の世界観を表現することを主眼に置いたように演奏される楽器隊の音色が、曲から想像される風景を彩っている。

この曲における彼女の歌声の表情は、より孤独感が強く感じられる。
また曲の物語の時系列も、原曲が数年単位で聞こえてくるのに対し、こちらは数十年~数百年単位のように聞こえる。原曲が数年単位の別れの記憶の物語としたら、彼女のカヴァーはゲームやアニメの世界で描かれるような一種の伝記上の物語にも似た世界観へと拡張されているように思えた。

この曲のように「愁いを帯びた物語」を歌うときの彼女の声は、本当にゾクゾクするほど簡単に、聴く側を曲中の物語の世界観に溶け込ませようとしてくる。


M11. 赤いスイートピー

11曲目は、1982年に発売された松田聖子の8th シングル「赤いスイートピー」。

※原曲の公式MVは見つけることが出来ませんでした。

昭和を振り返る音楽番組や懐かしの名曲番組では必ずピックアップされる曲であり、また、日本のアイドル史を振り返る際にも必ず列挙される松田聖子の人気を決定づけた曲でもある。

この曲は[ときのそら]の母親が大好きだから、という理由で選曲されたようで、世代と年号を超えても名曲は生き続けることを証明する例であろう。
また、原曲がリリースされた当時は想像することすらなかった「バーチャルアイドル」が歌うという点も興味深い。

「汽車に乗って」や「タバコの匂いのシャツ」など当時の時代を思い出させる歌詞に一瞬胸がつらくもなるが、曲で描かれている恋愛感情は時代が移り変わったとしても普遍的なものではないだろうか。

カヴァーバージョンはピアノ+ストリングスで、若干テンポを抑えたアコースティックアレンジ。これが非常に効果的で、バラードにおける彼女の歌声の表情が非常にはっきりと浮かび上がってくる。
強弱の振れ幅を一定の範囲内に抑えて、静かにしっとりと曲中の登場人物である女性の「この人と一緒に歩んでいきたい」という控えめではあるがハッキリとした心情を歌いあげている。

[ときのそら]の歌声の特徴を生かす良アレンジであり、選曲の妙とも合わさって、このトラックは制作陣の[ときのそら]というシンガーへの理解度がさらに深まっていることを感じさせてくれる、そんなカヴァーとして仕上がっている。


M12. この世界で

12曲目は映画「コードギアス 復活のルルーシュ」オープニング主題歌でもある、家入レオの「この世界で」。

澄んだ空気感のある曲で、寂寥感はあるもののネガティヴなものではなく、寂しさや孤独を感じていても、それでも前向きでありたいと願う力強さを感じる。

この曲のカヴァーバージョンはかなり原曲寄りのアレンジとなっている。
そこに[ときのそら]の湿度低め・透明感マシマシ・ハイトーンボイスが被さることで、原曲とは異なり心の叫びを歌声に載せているように聞こえる。
キーが引き上げられていることもあり、本当に突き刺さるような歌唱となっているパートもあるが違和感は全く無く、キーの高低差で曲の世界観を表現しているのだと気付かされる。


M13. KING

ここからラストまで3曲連続のボカロソングゾーン。
13曲目はKanariaの「KING」。

ここからの3曲は既にMVが公開されていた曲の再録となっているが、
それぞれアレンジも歌唱スタイルも刷新されていて、同じ曲ではあるが全く異なるバージョンとして楽しむことが出来る。

言葉遊びがふんだんに盛り込まれたこの曲を、湿度高め・若干の色気を醸し出しながら歌い上げる様は紛うこと無きKINGである。(QUEENだが)
とは言え、曲中の笑い声で小悪魔っぽい表現が入るなど、彼女の歌声の表情の幅広さも併せて実感できるアレンジとなっている。

またこの曲は彼女にとって「ターニングポイントの一つ」となった曲ではないかと考えている。
[ときのそら]は日常的に「強い表現」を使わない。
「強い表現」の中には、本曲の歌詞にも使われている「無様に〇ねる」のようなネガティヴな表現も含まれる。
シンガー/アーティストである以上、表現したいものや伝えたいものによっては、そのような表現を避けて通れない場合もあるだろう。
この曲は、彼女の「歌うことにおいては、そのような表現にも向き合う」との意思が込められているのではないだろうか。


M14. エイリアンエイリアン

14曲目は、ナユタン星人の「エイリアンエイリアン」。

ボーカロイドに歌わせることを前提とした作りで、人間が歌うことを考えていないのではないかと思ってしまうほどのハイトーンが要求される曲である。
しかし[ときのそら]は過去既に原曲と同じキーで歌ってしまっているのである。2019年に上記MVが公開された当時は「エフェクトでしょ」「ミックスでキーを弄っている」「そもそも本人がボカロ」等の疑念の声も散見されたらしい。
前述のとおり「人間が原キーで歌うことはおかしい」ということである。

では、ご覧いただきたい。

歌ってしまっているのである。
しかも振り付けパフォーマンスもセットで。

「高いキーが出る ≠ 歌が上手い」だが「高いキーが出る = 強力な武器」である。この曲とアルバムラストの曲は、彼女が「非常に個性的なシンガーである」事の証明例であろう。

今回のカヴァーアルバムに収録されている本曲もまた、アレンジを新たにしたアルバムバージョンとして新録されている。
8bitサウンドを思わせるような電子音を加え、原曲から更にダンサブルな作りとなったオケはライヴ映えを意識したものだろう。
彼女の歌声は無理に聞こえることもなく、非常に伸び伸びと、以前よりも若干余裕すら感じるほどの歌唱を聞かせてくれる。

またこの曲は普通に「Boy meets girl」のラブソングであるため、あるパートでは切なげに、また違うパートでは甘え気味にと、本家ボーカロイドで表現するのはなかなか難しいと思われることも織り交ぜながら、どこか違う星からやってきた異星人と恋に落ちるかのようなサウンドとボーカルに心惑わされていく。


M15. 太陽系デスコ

記念すべきフルカヴァーアルバムである3rdアルバムのラストトラック。
15曲目は、先のエイリアンエイリアンと同じくナユタン星人の「太陽系デスコ」。

2018年の7月に公開された上記MVは「ときのそらチャンネル初の100万再生動画」で、アルバムのラストを飾るにふさわしいチョイスである。

元祖「人間が歌うことを考えていない」ボーカロイド曲であり、こちらもまた有り得ない領域のハイトーンが要求されてしまう。
だがしかし、やはり歌ってしまっているのである。
アルバム曲中で最も強烈なアレンジが施されており、ファンク要素がところどころ高濃度でちりばめられている。これはどなたかの遊び心かも?

エイリアンエイリアン同様、「録音時のレコーディングブースの様子を見てみたい」と思わせるほど伸び伸びと楽しそうに歌う様子から、本当にこの曲が好きなのだという想いが伝わってくる。
掛け声パート「HA HA HA HA」の部分は、彼女にしてはかなり珍しく煽り気味な力強さで歌われており、ライヴでのノリを意識したのだろう。

圧巻なのは、曲のラスト「あなた 侵光けーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」のハイ&ロングトーンであろう。最初に聞いたときは誤操作で区間リピートになってしまったのかと疑ったほどである。
上下にブレることもなく、尻すぼみになることもなく、最後まで勢いと厚みを保ったままのシャウトは、新録にも関わらずまた新しいインパクトを刻み付けてくれる。


アルバム全体

今回はカヴァーアルバムという事で懐かしの名曲からJ-POP、アニメソングやアイドルソング、ボカロソングというように幅広い年代に届きやすい構成となっている。

選曲にあたっては、彼女に対してアンケートと言う形でヒアリングが行われ、そこから好きなアーティストやジャンルを元にカヴァーする曲が絞り込まれていったようである。

15曲の名だたる名曲に対して、時には優しく、ある曲では激しく、また別の曲ではアイドル全開で、と様々な表情を見せる[ときのそら]のヴォーカルは今までと同じように、曲の物語や世界観を十二分に表現している。

そこから更に、今作では曲中で歌声の表情を変化させていくことにより、
物語の時間軸をもイメージさせて来るようになった。
これは、「自身のヴォーカルを曲に溶け込ませて、曲と同化するような」歌唱スタイルを更に進化させ続けること、彼女の想い描く[ときのそら]の歌唱スタイルがまだまだ広がり続けるのであろうと思わせてくれる。
オリジナル曲よりも寧ろ、既に世に出ていて多くの人の耳に残っているカヴァー曲だからこそ、今回の進化点がより際立ったのではないだろうか。

また、今回のアルバム曲順構成も彼女の過去のアルバムと同様、非常にスムーズな流れを生み出していると思う。

変化球を飛び越して魔球の域になるであろう「M01.HOT LIMIT」で高いテンション&インパクトを与えつつ、M02~M04へと進むにつれて少しずつ落ち着きと穏やかさにシフトしていく起承転結で言うところの「起」の構成。

M05~M08でアルバムはガラリと空気を変えて、ダークさや激しさ・艶やかさなどが並ぶ「承」の構成。

M09~M12はアイドル全開からバンドサウンド、バラードとクルクル変わる「転」の構成。

M13からはラストへなだれ込み、最高潮のテンションで締めくくる「結」の構成。

アルバムを頭から終わりまで通して聴いても、変化と起伏に富んだ曲順が「時にはハイテンションで楽し気に」、「ある時には格好良く、クールに、激しく」、「違うときにはあっちへころころ、こっちへころころと落ち着きなく」、「でも最後に締めるときはガッチリ〆る」という、まさに[ときのそら]そのものを体現している様に聴こえてくる。

1stアルバム、ミニアルバムから2ndアルバムを経て、今回のようにアルバムという作品においても彼女の人となりを表現してくれている制作陣の皆様に、毎度のことではあるが感謝の気持ちを伝えさせていただきたい。


おわりに

毎度のことながらの乱筆・乱文・支離滅裂な内容にも関わらず、お付き合い頂きましてありがとうございます。
今回は原曲を聴いたうえでの私的レビューとなったため、結構なボリュームになってしまいました。
以降は完全に主観からの感想です。

且つ、完全に個人の感想です。

お時間許されるようであれば、上記のインタビュー記事をご覧頂きたい。

アルバムを聴き終えてこのインタビュー記事を読んだ後に、「アルバム全体の雰囲気が、Dreaming!に似ているなぁ」と、漠然とした思いを持っていた。
「全曲オリジナルの1stアルバム」と「全曲カヴァーの3rdアルバム」なので「似ているか?」と問われると、確かに微妙ではある。
しかし何となくではあるものの、自身の中では「両アルバムとも曲数は同じ15曲」、「テンションの高い曲からバラードまで幅広いスタイルの楽曲ぞろい」、「アルバムのラス曲は彼女にとってもそらともにとっても印象深い曲」の3点において類似性を見出していた。
冷静に考えればこじつけに近いのだが、なぜそう思ったのかと考えると、それは多分「履歴書」の文字を見たからだろう。

彼女の履歴書には必ず載るであろう1stアルバム「Dreaming!」。
抒情的な曲やバラード、バンドサウンドのロック曲にポップ調の曲。
いま聴き返しても、バラエティに富んだ楽曲づくしで音の彩りが楽しいアルバムだ。彼女の歌声も楽曲ごとに表情を変えて、アルバムをさらにカラフルに彩っている。
ただ、「では、主軸となるのはどのような歌唱スタイルなのだろうか?」とぼんやりと考えていたこともあった。
彼女も制作陣も必要な時間は掛けたであろうが、当時の時点ではもしかするとまだまだ「前向きな手探り感」があったのかもしれない。
[ときのそら]の歌唱スタイルを確立しようとしていた時期だったのかもしれない。

そして、現時点での彼女の履歴書の最新欄に載るのが3rdアルバム「Re:Play」。
ミニアルバムや2ndアルバム、多くのイベント出演や2ndライヴを経て、届けられた15曲のバラエティに富んだカヴァー楽曲づくしのアルバムは、「Dreaming!」において1/15の主軸を見出そうとしていた小職が間違っていて、アルバムそれそのものが彼女の目指そうとしているスタイルのスタートだったのだと教えられた気がした。

「曲の表情に歌声の表情を合わせて、まるで楽器の一つであるかのように同化」し、曲に溶け込んで表現しようと、そう感じている。

この感想は正しくないかも知れない、見当違いの脳内妄想かも知れない。
だが、似たような雰囲気のある2枚のアルバムの間で感じたのは、「進化させよう」という意志であった。

アルバムラスト「太陽系デスコ」のラストパートで聴こえる、とてつもないハイ&ロングトーンは、これまでの成長と言う進化の過程が示された、まさに「履歴書」である。
3rdアルバムのラストパートではあるが、そこに収められたシャウトは太陽系を抜け、星間空間を経て、次の銀河までたどり着くかのようなパワーを持って、これから先も4th、5thと新しい「履歴書」を楽しめるという予言のように感じた。

Appendix.1

2022/01/22開催の、[ときのそらTheatrical Cover Live『Role:Play』]
【オンラインチケット販売ページ】はこちら

Appendix.2

[ときのそら] 3rdアルバム『Re:Play』は、彼女のYouTubeチャンネル上で
「公式に」視聴することが可能です。
Re:Play - YouTube