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移動を新たなライフスタイルの一部へと転換する「ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社」西木戸さんの貸切バスの活用とプラットフォーム構想とは


移動に新たな体験を創造し、孤立する人のいない世界を目指す。
貸切バス事業から新たなライフスタイルを創出するのが「ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社(以下、「WTT」」です。
今回はエンターテインメントに携わった自身の経験から、インターネットを活用したマイクロモビリティ事業を手掛けるWTT代表の西木戸さんにインタビューを行いました。

西木戸さんは以前からタクシーやカーシェア以外の移動手段としてバスの活用にフォーカスしており、「busket(バスケット)」という新たなプラットフォーム作りに取り組んでいます。

WTTが貸切バス業界で目指しているものは何か、果たすべきミッションは何があるのか、そして西木戸さんが貸切バス事業へ参入するきっかけになった思いを伺っていきます。

貸切バス事業参入までの経緯

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株式会社サムライインキュベート(以下、省略):西木戸さんがバス事業に参入するまでの経緯を教えてください。

西木戸さん(以下、敬称略):私のバックグラウンドはまず音楽でした。
大学在学中から先輩事業者のところで働かせてもらっていたのですが、その時も音楽の仕事もさせてもらえるからという理由で勤めていました。
その後は個人事業主になってWebマーケティングや空間音響事業などにも取り組んで、その後音楽フェスに携わるのですが、同じ場所へ向かう人たちが、バスに乗り合わせて一緒にゆるやかに移動するイメージをもっていたんです。60年代のサマー・オブ・ラブのムーブメントのようなイメージです。

これまでの貸切バスは旅行会社が間に入ることで、申し込み手続きをして、予約をして、といくつもステップがあり、とても動きが重くなってしまっていました。私達が考えたのはクラウドファンディングのように旅行に行きたい人が出資して、座席をそれぞれが購入して動くという事業を理想に掲げたんです。今までは10人を超える移動では、バス以外に自由な移動手段がなかったというのも大きかったと思います。

西木戸さんがバス事業に参入してから取り組むべきと考えるようになったミッションはどんなものがありましたか。

西木戸:いくつかありますが、まずはマイクロツーリズムを規定する法律がないという点があります。貸切バスは旅行業法の対象なのですが、その法律に縛られていたせいで貸切バスには機動性がなかったんです。必要な時にすぐ派遣するということが出来ず、予約を取って何人を乗せるかというスケジュールを立てる必要がありました。

そこをなんとか機動的に出来ないかという視点は持っていました。
そして地方の路線バスに生じる交通空白地帯へのフォローも課題です。
これまでは交通弱者になりうる人達を拾い上げるためのオペレーションがありませんでした。私達はこのオペレーションの役割を担うために活動しています。

コロナ禍での苦境とターゲット層の拡大

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昨年から続くコロナ禍や緊急事態宣言により、多くの旅行業が被害を受けていますが御社も影響は大きかったでしょうか。

西木戸:大きかったですし、これまでのような待っているだけで旅行会社から依頼が入るという状況ではなくなりました。
元々、私達はマイクロツーリズムとして地域に交通手段を提供し、イベントやマイクロツーリズムをメインに事業をしていました。

しかし、去年の4月からその収益が全くなくなってしまったわけです。
その中でこれまで培ってきた太いラインは残しながら、今後の多様なニーズにどう対応すれば良いのか業界全体が考える時期が来ていたと思います。

コロナ禍で危機感を覚える中で、新たな事業戦略と新規事業への取り組みが功を奏したと伺いましたが、どのような事業戦略を立てたのでしょうか。

西木戸:私達はタクシーのようなマイクロモビリティや、電車による大規模輸送のみでは、地方の街づくりには寄与しにくいと考えました。
そこで街づくりに活用できるとすれば、「道路」と「バス」が手段として思い浮かぶのですが、地方の路線バスは収益面で持続性がないため補助金だけで運営するのは難しい。
かといってバスのチャーターは柔軟な利用が難しく、行政区分の問題もあって参入しづらいという問題がありました。
そこで私達はコロナ禍の中でも影響を受けにくい「物流」の分野に取り組む戦略を立てました。
地方には大企業の工場や物流の倉庫があり、多くの人が働いているのに移動手段が少ないという問題に直面していることに気付いたんです。

スポーツやイベントの送迎サービスだったものが、そのままビジネスの送迎に移行したわけですね。

西木戸:バスの基本的な性質は変えずに、イベントから仕事の送迎にそのまま利用できました。
モデルはBtoBで、物流施設のオーナーがテナントを利用する方のためにバスを確保したり、テナントに入った事業者さんが個別に社員の移動手段として依頼をしてくださったんです。

今の事業では2、3年の長期契約というケースが多くて、「前の契約が終了したので今度はWTTに」という依頼が入り始めています。
今後はバスが車庫で眠るだけではなく、あらゆるバスが最適なマッチングを行われ、必要な場所に配送されるというバス会社の経営オペレーションまで担うところを目指しています。

バスを単なる移動手段ではなくライフスタイルにする

西木戸さんは貸切バス業界の中でも「回送マッチング」の分野に注力されていますが、元々需要があると見込んでいたからチャレンジしたのでしょうか。

西木戸:以前から見込んでいました。
ただこの分野はレッドオーシャンでもあったので、まずはホワイトマーケットを開拓して認知度を上げて、バリューチェーンの基礎が出来たうえで挑戦するつもりでした。そして実際に参入してみるとまだまだ効率化できるポイントや可視化できるポイントが多かった。

2019年には実証実験を行い、通勤バスを活用することで満員電車による苦痛を解消出来るのかという点も検証しました。その結果、通勤バスの満足度は高かったものの、交通状況による遅れは時間が読めないという問題も認識できました。

今後は自動運転化がどんどん進んでいく中で、バスを動産化していくという未来が待っていると思います。

今後のバス事業の未来や空間をどう活用していくことを考えているのでしょうか。

西木戸:例えば海外にはCabinという夜行バスがありました
ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶバスなのですが、中はホテルのような構造で、値段は飛行機の2倍は掛かります。しかしCabinは予約が取れないほどの人気でした。

またLeapというサンフランシスコにあるカフェバスも人気がありました。
移動だけなら飛行機や電車の方が早いし、安く済みますが付加価値をつけることで人気があるわけです。
もちろん全てのバスがそういった人気なわけではなく、収益を上げられないバスも存在します。

しかし今後自動運転が普及していく中で、24時間という限られた時間を効率的に活用するなら、移動空間がホテルになり、オフィスにもなる、そういう商品価値を作りたいと考えています。
移動時間の過ごし方が変わるのは、移動空間の変化から生まれるのだと思います。

これまでにない貸切バス業界のプラットフォーマーへ

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タクシー会社の配送アプリのように、WTTのバスケットがバス運営のプラットフォームとなる未来があるでしょうか。

西木戸:私達はただ安く配送すれば良いのではなく、最適な手配をして、今動けるバスを最適な場所に配送することが肝心だと思っています。
それがいずれマイクロツーリズムへ大きな波となって押し寄せてくる、そういうきっかけになるはずです。

現状はバス会社もバスを発注した人も最適なモニタリングが出来ていない状態です。
例えば駅前のロータリーに人が溜まっていたとして、コロナ禍の状況でも乗車率が100%を超えてしまうことも当たり前にあります。
雨の日も真夏日にもバスが遅れていても、いつ来るかわからないまま待ち続けなければならないことも多いのです。
そこをモニタリングできるとマッチングの最適化が出来ると思います。

例えば乗車チケットの予約や乗車チェックイン機能で、誰が乗ったか、どれだけの乗車率かモニタリングでき最適化がしやすくなります。
さらにテナント毎に予算の按分を可視化して、地域ごとに情報をシェア出来るようにするんです。
得た情報で必要な場所に台数を増やせば、余計なコストを減らしたうえで、乗客の利便性を向上させることが出来る。

今後は個人のタクシー会社やバス所有者も集まってきて、プラットフォーマーとして御社が活躍する未来が訪れそうですね。

西木戸:それが理想です。
バスはタクシーと違い、車庫内にある分しか手配できず、オペレーションも多いです。
タクシーなど他の業界には色々なプラットフォームが生まれていますが、貸切バスの情報連携が出来るプラットフォームはまだ生まれていません。
私達はそのプラットフォーマーとしての役割を担いたいです。
ただ、そのためには法定運賃の計算だけでなく、ドライバーの労務管理も必要になります。
トラックのドライバーと同じように、車と人の両方を管理しなければならない。
今はそのプラットフォームのために箱を作っているところです。

事業の根底にあるのは人間志向

私も鉄道分野の物流は経験しているのですが、西木戸さんはどういう着眼点で今の事業戦略を展開に至ったのか、考え方のヒントは何かありますか。

西木戸:私の場合は孤立や孤独化する人がいないこと、そういう観点からスタートしました。
イベントや仕事に行きたくても、行く術がないために孤立するという状況を解消したいという思いがあったからです。
私は特にその人にとっての帰れる場所、帰属意識を持っているところは行きたくなるはずだと思っていて、そういうソフトな視点で考えています。
そこから制度とか現状のアセットとも照らし合わせて、有効活用する方法や課題を探っていくようにしています。


あとは新規事業を開拓するにあたって、同業種の2000件の企業をリストアップして社員総出でリサーチと電話連絡させていただきました。
そのうち100件くらいは実際に担当者と面談し、10件くらいからは新規の受注を受けることができました。


初期に導入してくれたお客さんはWTTのどういう部分に共感してくれたのでしょうか。

西木戸:これまでは旅行会社に頼らざるを得ない、個別の交渉や購買の代理をしてくれるという点に好感を抱いてくれました。
お客さんにとってバスの選定と運行内容の調整をするという負荷になっていた部分を私達が行うその部分を評価してもらえたと感じています。
今後は最適な運行のマッチングはもちろんセンターピンですが、中長期的には、移動空間がより魅力的になり利用されていくと考えて、人間志向で10年後20年後の未来を見ていきます。

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