映画の館

 「読書、芸術、食欲、竹城、これらに共通する言葉とは?」。突然のクイズだが答えは簡単。皆さんはどんな「あき」を送っているだろうか。
 私はもちろん「読書の秋」と言いたいところだが、今年に限ってはそうではなく「芸術の秋」だ。もっと絞って言うと「映画の秋」で、さらに具体的に言うと「フォーラム八戸の存続や、他の可能性について考えを巡らす映画館の秋」なのだ。
 「フォーラム八戸」は入居する建物の解体、再開発ため、来年1月5日でいったん営業を停止するという。そして再出店については現時点で白紙なのだそう。これは大変だ。代替物件であれ、新築であれ、映画館に必要な設備を考えると相当の資金が必要と思われる。私には「頑張ったけどダメでした」と、二度と再開されない未来しか見えない(あくまで個人的想像)。これは八戸市民はおろか、青森県南、岩手県北地方までをも含む広範囲の映画ファンにとって由々しき問題である。
 私の店には他都市から来られるお客さんもいて、八戸は文化的な街で羨ましいと褒めていただくことが多い。ブックセンターや美術館などによって、文化的な街と認知されている中核市の八戸だが、映画館は一つもないなんてことになったら、官民の温度差の象徴でしかなく、冗談にもならない。
 かつては八戸市内各所に複数の映画館があったが、それぞれの事情で閉館に至り、ついには一つもなくなってしまった時期があった。その時、映画ファン有志が立ち上がって、「フォーラム八戸」の開館を実現させたのだ。市民株主を募り、なんと8千万円もの出資金を集めたという。二十数年前でクラウドファンディングもなかった時代にだ。これがフォーラム八戸を「市民の映画館」と謳う所以である。ちなみに、本当にちなみに、フォーラムもあき竹城さんも出生地は同じ山形県である。
 近年、定額制のいわゆる「サブスク」が一般化し、いつでもどこでも映画が観られるようになった。便利な時代にはなったのだがその反面、レンタル店は撤退を余儀なくされ、映画館がそうなるのも時代の要請だと言えなくもない。しかし映画館だからこそ得られる体験や感動があり、それを無くしてはならないと私は考えている。
 当時の映画ファンがそうしたように、今また立ち上がらなければならない事態なのだ。再び八戸市から映画館がなくなってしまうことを良しとしてはならない。「沈黙」とは消極的な肯定であるから、声を上げなければならないのだ。時には起こせよムーブメント。
 既に複数の若い映画ファンがあらゆる可能性を模索して動き出している。とても頼もしい。その一つの形として、明後日の23日に当店「AND BOOKS分室」において、1回目のトークディスカッションイベントが開かれる(予約満席)。何かの終わりは、同時に次の何かの始まりなのだ。「あき」らめてはいけない。

デーリー東北新聞社提供
2022年9月21日紙面「ふみづくえ」掲載

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