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音楽家にとって外見が良いのはノイズ?ショパンコンクールのチャットで見えた現在

ショパン国際ピアノコンクールのチャット欄がカオスなのはなぜ?


「藤井風は顔がいいのがノイズ」


そう言ったのは、ミュージシャンの小林私だっただろうか。インスタグラムのアカウントを「iambeautifulface」としている小林私。美大出身で美少女のような容貌を持つ彼は、ことすら外見にはこだわりがあるようだ。音楽性と美貌を併せ持つ藤井風に対し、鋭い観察眼が光る。

反田恭平角野隼斗。二人の日本人男性が出場中のショパンコンクールを視聴していて、ふと小林私の「ノイズ発言」が脳裏をよぎった。

ビジュアルに惹かれて興味を持った人が、演奏にも耳を傾けることで音楽のすそ野が広がるなら、それはとても喜ばしいことだ。

しかし、なまじルックスが良いために、外見にばかりフォーカスされることも。肝心の音楽を聴いてもらえないという事態も起こってくる。

「外見の良さ」が招く弊害を「ノイズ」と仮定するなら、まさに今回のショパンコンクールのチャット欄は「ノイズ」が飛び交うカオスだったと言えるかもしれない。

反田恭平の27歳にして老成した立ち居ふるまいと、貫禄あふれる雰囲気は世を忍ぶかりそめの姿なのではないか。あのヒゲを生やした容貌はアバターで(失礼!)本体はスラリとした美青年なのではないだろうか…。

「ルックスが良いために発生するノイズを避けるため」

真の姿を隠しているのでは?!

彼の神がかった演奏を聴くたび、そしてリサイタルかと思うような聴衆の熱狂ぶりを目にするたび、思わずそんな妄想をしてしまう。


「ノイズ」とは(wikipediaより)

ノイズ (英: noise) とは、処理対象となる情報以外の不要な情報のことである。歴史的理由から雑音(ざつおん)に代表されるため、しばしば工学分野の文章などでは(あるいは日常的な慣用表現としても)音以外に関しても「雑音」と訳したり表現したりして、音以外の信号等におけるノイズの意味で扱っていることがある。映像に関連する文脈では雑像とも呼ばれる[1]。西洋音楽では噪音(そうおん)と訳し、「騒音」や「雑音」と区別している。


音楽家にとって、一体何が「ノイズ」なのか


「ノイズ」が可視化されたのは、ショパンコンクールの配信動画に表示されるチャット欄。

今年になって、わたしは初めてショパンコンクールをYouTube動画で視聴した。チャット欄が開放されているのには驚いたが、これもご時世。自宅にいながら、リアルタイムでコンクールを視聴できるのはありがたい限りだ。日本人ピアニストではない出場者の演奏中は、チャット欄にそれほど目につくものは見受けられない。


それが角野隼斗になるとどうだろう。

チャット欄にはハートマークや花束、拍手などの絵文字や顔文字があふれ、日本語でのメッセージが飛び交う。

彼は前回のコンクールの際、このようなアナウンスをしていた。


国際的なショパンコンクールの出場者ともなれば、主催者や全世界の視聴者にも注目されている。良くない印象を持たれないよう、心配りするのは当然だろう。しかし彼の演奏中は、明らかに他の出場者の時と毛色の違う”ファン”らがチャット欄を賑わせている。

英語で!と注意する人もいれば、無視して日本語でコメントし続ける人、演奏者と無関係なコメントを流す人も見られた。もうチャット欄はノイズというより、カオスそのもの。主催者や出場者も、これには閉口しているに違いない。


コロナ禍で広がりを見せる動画配信


角野隼斗には女性ファンが多い。幅広いジャンルを網羅するピアノのテクニックもさることながら、東大卒の明晰な頭脳とショパンのようなルックスにも魅力を感じるのだろう。もともとYouTubeで活動していたこともあり、どうやら従来のクラシックピアノファンとは異なる層からの支持も増えていそうだ。

片や、反田恭平はクラシックの王道を歩む新時代のピアニスト。クラシック界のパイオニアとしての期待が高まっている。若手演奏者を募ったオーケストラを主催し、ネットを駆使したオンラインサロンを立ち上げるなど、後進の育成にも注力。クラシック音楽を単なる芸術としてだけでなく、ビジネス的な側面からもアプローチする起業家でもある。支持層は本格クラシックファンからライトリスナーまで幅広い。国際的に活躍し、クラシック音楽の新たな可能性を広げている新進気鋭の若手だ。

従来からのクラシックリスナーの支持をがっちり掴んでいる反田と、YouTuber出身として、ややコンサバティヴなクラシック界に新風を吹き込んでいる角野。どちらも今後、注目のピアニストであることは間違いない。


ネット配信の増加で音楽の届け方も変化


クラシックの演奏会といえば、これまでは生演奏を聴くコンサートが中心だった。それがパンデミック禍の影響で、YouTube動画などでのネット配信も増えつつある。

幼少期より研鑽を積み、国内外で地道に演奏活動を続けてきたピアニストと同様に、ネット動画でコツコツと再生回数を伸ばしているYouTuberピアニストも注目される時代になってきているのだ。


テレビ音楽番組「らららクラシック」主催サイト「ららら♪くらぶ」より

「あなたの好きな日本人ピアニスト・ベスト3【2021年版】」

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■前回(2019年版)の人気投票結果
●第8回人気投票「あなたの好きな日本人ピアニスト・ベスト3」の結果はこちら


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これらのアンケート結果によると、2021年になってからは、人気ランキングの上位をYouTuber出身のピアニストが占めている。

これは従来のピアノファンとは異なる層が参入したことを意味しているのではないだろうか。ちなみに前回(2019年度)のアンケートに角野隼斗はランクインしていない。

これまで、クラシックピアノには関心の高くなかった人たちも、ステイホーム中にYouTube動画でお気に入りのピアニストと出会ったのだ。

ネットで人気の音楽家は、聴かせるだけでなく「見せる達人」でもある。演奏に集中することが第一で、ビジュアル的な演出は二の次になりがちな職人肌ピアニストの時代とは変わりつつある。

ネット動画でビジュアル的にも「見せる」ピアニストに魅了された人たちが、ショパンコンクールまでたどり着いた、とも考えられるだろう。ならばチャット欄が、アイドルのライブ配信のようにカオス化するのは「仕方がないこと」なのだろうか。


クラシックは欧州の歴史や文化が色濃く反映された音楽だ。国際的なコンクールともなると、品位やステージマナーを重視する面もある。東洋人の出場者が増えてきたとはいえ、日本人はまだまだ厳しい目で見られていると言っても過言ではない。日本の伝統芸能である能や狂言の檜舞台に、遠路はるばるやってきた外国人が挑戦しているようなものなのだから。

主催者側からも、チャットでは「英語が強く推奨」されていた。

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(ここは国際的なコミュニティです。英語を使ってください)

ショパンコンクールを高画質でリアルタイム視聴できるのは喜びでしかない。会場の雰囲気や出場者の緊張感まで伝わってくる映像と、全身全霊を込めて奏でられる音に心震わせる一瞬を大切にしたい。

どの国のピアニストであっても、コンクールのステージに乗るには、どれほど厳しい道のりを乗り越えてきたことだろう…。

堅苦しいルールでがんじがらめになるのは避けたい。だが出場者に肩身の狭い思いをさせるのは心外だ。モラルとマナーを守ることを頭の片隅に置いて、チャット欄の上手な使い方を考えていけたらと思う。


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#反田恭平 #角野隼斗 #らららクラシック #ショパン国際コンクール2021

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