ヒプアニ2話に登場した強盗のラップは相当wavyであるという投稿


 ヒプアニ2話に登場した強盗(長い)の披露したラップは、ネット上で「下手」と評価されがちである。
 たしかに1度目のラップはあまり上手ではない。一文字の脚韻程度しか踏めていないし、内容的にも薄い。


 しかし、彼は驚異的な成長を見せる。2バース目は極めて魅力的なラップに仕上がっているのだ。


 まずビートに対する瞬発力がとんでもない。バックに流れるトラックをよく聴いてほしい。最初に「テテンテンテン」という前奏のような部分が流れた後、一拍を開けて一定のフレーズがループを始めるという構成になっているのがおわかりだろうか。

 このような場合、「一拍」の部分でエイだのウンだのヨオだの口に出して入るのが普通だ。今回ならば「テテンテンテン」「エイ」「調子のんじゃねー」の流れになる。

 しかし、この強盗はとんでもない瞬発力を見せる。前奏の部分からバースを開始するのだ。すなわち、「テテン」「エイエイ」と入った。しかもヒプノシスマイク世界のフリースタイルにはDJが存在しない。すなわちビートチェックもなく、この強盗は最初の2音を聞いただけで流れたトラックを判断し的確に入ったことになる。素晴らしい瞬発力と言わざるを得ない。
(一度目に流れてたビートと同じだから入れただけという説もあるが、まあそれでも入り方として秀逸なのは変わらない)


 さて、ラッパーは特に意味のない言葉でリズムを取りがちだ。代表的なものが「Yo」だが、強盗は「エイ」を選び、バース内でも連呼している。これ自体はさほど珍しくもないが、彼の巧みなのは、これをリリックの一部にしっかりと組み込んだところだ。
 
 
 調子のんじゃねー
 マジモンだぜー


 これは彼の2バース目、最初の2小節だ。いきなり「イオンアエー」の5文字韻を踏んでいる。1バース目があれだったことを考えると驚異的な成長度合いである。さすがにこのレベルの韻を続けることは難しかったのか、後述する3,4小節目は「アエ」そして「エ」というごく短い脚韻のみに留まっている。

 しかし、この「エ」という音が重要なのだ。先述したように、彼はバース前半において「エイ」を連呼している

 おわかりだろうか。

 彼は一見(一聴)無意味な「エイ」という音を用いることで自身の弱点である押韻を補強しているのだ。短所から目をそらすのではなくしっかりと対策を整える。すばらしい姿勢である。


 引いた引き金
 後には引けねえ


 3,4小節目の優れている点は文字に起こすと分かりやすい。いわゆる言葉遊びだ。引いた⇔引けないという対義語を用いることによってリリックに奥行きが出ている。繰り返しになるが、1バース目と2バース目の間の僅かな時間でこのような高等テクニックを会得している彼の成長性には驚嘆である。

 
 死ぬのはテメエだろ
 ふざけた偽善野郎


 5,6小節は以上である。ここにきて「エイ」を封印し、純粋なリリックのみで攻めてきた。まずは「エーアオ」の脚韻から入っているが、ここにも言葉遊びが含まれている。先述した4小節目の「」と「手前」で掛かっているのだ。たぶん掛かっている。掛かっていることにする。

 さて、7小節目の入りで彼はミスを犯す。一瞬言葉に詰まってしまっているのだ。おそらく7小節目からビートへのアプローチを変えるのに際し口がスムーズに動かなかったためと思われるが、もったいないことをした。とはいえ、しっかりと修正しているあたりはさすがである。というか乗り方を変えてきてるのがすごい。さっきまで初心者だったぞこいつ。


 見せしめにして生贄
 死んでから粋がれ


 7小節目、「イエイエ」の4文字韻を1小節内で踏むという中々にスキルフルなことをしている。が、それだけではない。実はこのバース、「イエ」の2文字韻を5回踏んでいる。というか、それだけで1小節が完成している。すなわち、「見せ」「しめ」「にして」「いけ」「にえ」というわけだ。ヤバスギルスキルだ。何度も言うが、1バース目はまるっきりの初心者だった。

 8小節目。「生贄」「粋がれ」はあまり踏めてもいないし微妙な終わり方……と思うかもしれないが、「」「粋=生き」というとんでもない言葉遊びが内包されている。深い。深すぎる。証言6、GAMAさんのバースは一見意味不明ながらも人生観を表していると言うが、この強盗のバースも同じように彼の人生観を表しているのだろう。


 以上をもって強盗のラップに関する述懐は終了である。

 彼は類稀なるラップセンスと大量の違法マイクを仕入れる行動力や人脈、財産を兼ね備えた人間である。

 彼ほどの人物だ。最終話までには勢力を整え反中王区のレジスタンスを作り上げ、山田一郎をはじめとするMC達と共闘するアツい展開が待っていることを私は期待している。


 なお、筆者は別にラッパーでもなければそんなにラップに詳しいわけでもないので、本投稿の内容は極めていい加減なものであることをご理解いただきたい。



 ところで最後、彼は「くたばれぇぇぇ」と叫ぶが、個人的にこれは微妙だと思う。「Blah」か「エイ」のが気持ちよかったんじゃないかな。

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