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神戸モダン建築祭2023を終えて

アンカー神戸学生会員の白数夏生(しらすなつお)と申します。
大阪公立大学大学院で建築を研究する、博士課程の学生です。

昨年、小生は「神戸モダン建築祭」(2023年11月24~26日)という、3日間で2.5万人を集めたイベントの企画に携わりました。これは、神戸を舞台に、普段は入ることができない神戸の地域性や歴史を物語る特徴的な建築物を3日間限定で一斉公開する、大規模な建築公開イベントです。
アンカー神戸を拠点に進めた当企画実現までの道のりなどを、簡単に報告させて頂きます。

〇建築公開イベントについて
昨今、国内では、普段は公開されていない建築物、工場、公共建築などを、期間を設けて特別公開する流れが広まっています。建築に関して言えば、FAF(福岡)、ひろしまたてものがたりフェスタ、生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪、京都モダン建築祭、そして東京建築祭などです。

特に2013年からスタートした大阪の企画は、建築公開イベントとして国内最大級の規模に成長しており、2023年には2日間で172件の建築物が特別公開され、延べ6万人の人々が参加しました。また今年から始まった「東京建築祭」においても、18件の特別公開、44件のツアーなどが実施され、延べ6.5万人の参加者が、好みの建築物を巡りながらまち歩きを楽しんでいます。そんな流れが、神戸にもやって来たのです。

〇始まりは人の紹介から
僕自身が、神戸でも建築公開イベントを実現したい、と考え始めたのは、2022年の10月頃。そのためにアンカー神戸のミニ交流会であるコーヒーブレイクタイムなどに参加し、名刺交換のたびに、いろいろな人たちとその話をしていました。そんな中、決定打となったのが助成金の紹介と、ある人との繋がりです。

まず助成金は、北野にあるギャラリー島田さんが主催する「神戸文化支援基金」からご支援を頂きました。そこに繋がるまで、3人の紹介を挟むことになります。まず、アンカー神戸のイベントで出会った、キャリアブレイク研究所代表の北野貴大氏から、元神戸市職員のK氏を紹介されます。その後、K氏から、北野で編集者をされているY氏を紹介され、そのY氏から、ギャラリー島田さんを紹介されました。神戸の書店関係者で知らない人はいない、あの海文堂の島田さんだけあって、すぐに相談に乗って頂き、助成金に応募、支援を頂くことができました。

加えて人ですが、ひとまず、アンカー神戸の会員でもある神戸市民文化財団の方々に相談することから始めました。何度か相談させて頂くうちに、神戸の産業遺産ツアーを行っていた神戸フィルムオフィスの方を紹介して頂くことになります。1度その方にもご挨拶をして、そのときはそれまでだったのですが、年が明けて2023年の1月ごろ、流れが急に変わります。自分とは別で、同じような建築公開イベントを企画している、大人のグループが立ち上がったというのです。そこに、神戸フィルムオフィスの松下真理さんも関わられているとのこと。渡りに舟でした。
そもそも、学生である小生1人で、知り合いでもない建物を何件も公開するような大規模イベントが開けるとは、到底思っていませんでした。そのため、初年度は建築マップの制作と簡単な建築ツアーを開催して、まずは小さな実績を作ろうと考えていました。そんななか立ち上がったのが、大学教授や企業関係者、まちづくりのプロで構成される「神戸モダン建築祭」のグループだったのです。これはぜひ繋がりたい!ということでメールを送ったりしましたが、返事がなかなか返ってきません。最後の手段でしたが、松下真理さんの下に直接伺い、ようやく、「神戸モダン建築祭」実行委員会と繋がることができました。なお、このとき前述した助成金は既に取っていたため企画書などは揃っており、第三者に事情をとても説明しやすい状態でした。

〇神戸モダン建築祭でやったこと
「神戸モダン建築祭」では、3日間で最終的に31件の建築物が特別公開等に参加し、25件の連携企画等を実施、のべ2万5000人を動員する大きなイベントとなりました。そんななか小生からは、神戸に存在している建築物が、現在も生き生きと使われているような状態を来場者に見せたいと考え、3会場5企画を提案・実行しました。以下、5企画の報告です。

①「神戸建築マップ」の制作
② ローズガーデンにおける企画「ローズガーデン/安藤忠雄/神戸北野」
③ 神戸山手女子中学校高等学校本館の公開・展示
④ 北野メディウム邸の公開・展示
 「魅せます!北野メディウム邸のこれまでとこれから」
⑤ 異人館の色彩を楽しむ企画
  「パーソナルカラーで北野の街を楽しむ 神戸色彩の異人館」

①「神戸建築マップ」の制作
神戸の地域性や歴史を特徴づける建築物をマップにまとめ、建築祭期間中に800部を無料配布しました。
現在、神戸に限らず日本中で、戦前から地域の風景を形成していた貴重な建築物が、再開発や後継者の途絶、耐震改修の資金不足といった様々な理由で失われています。建築好きとしては、そんな動きに反対するのではなく、利活用に繋げることこそが目指すべき道です。利活用に繋げるためには、まずは認知してもらう所から。そんな意図を込めて作ったのが、本建築マップです。

神戸建築マップ。ご所望の方はお声がけください!

全体デザインは、当時アンカー神戸の会員だったデザイナーの SAND DESIGN 様(砂田安奈さん)に依頼し、印刷はこれまた会員の、共栄印刷様(柳有香さん)に依頼しました。
当日は、後述するローズガーデンで配布し、3日間の建築祭期間中、来場者・関係者に関わらず多くの人から喜びの声を頂きました。オモテ面を海岸・旧居留地エリア、ウラ面を北野・山手エリアとした、神戸中心部の建築歩きにぴったりなマップです。ご所望の方はぜひお声がけください!

② ローズガーデンにおける企画「ローズガーデン/安藤忠雄/神戸北野」
1970年代後半から90年代にかけて、神戸北野では、世界的建築家である安藤忠雄氏によって8件もの建築が建設されました。その先駆けとなった1977年建設の「ローズガーデン」において、当時の状況や北野の安藤忠雄建築を再評価するための展示と、関係者による対談を企画しました。

山本通に面するローズガーデン

そもそも、どうして北野に、8件もの安藤忠雄建築が集中することになったのか。70年代はもちろん、震災も知らない世代の企画者にとっては、ごく自然に湧いてくる疑問です。そこで当時のファッション雑誌を読み込んでいくと、ローズガーデンを始めとする当時「ファッションビル」と呼ばれたテナントビルが、まさに文化の発信基地であった様子が浮かびあがってきました。そんな当時の空気感を、建築公開の来場者にも共有したいと考え、それら雑誌記事をパネル化して展示することにしました。加えて、北野という立地に向き合った安藤忠雄氏が見た風景を再現するべく、8件の建築物について敷地模型を用意しました。それぞれの作品について、どのような設計条件の下で、設計者がどのように各空間を見出すに至ったのか、その要点を示すことができたのではないかと思います。このように、建築物を作品として捉え評価を言語化しつつ、その後の使われ方や展開までを扱った展示は珍しかったのではないかと考えます。

神戸北野の8つの安藤建築を再評価。

さらに本企画では、当時の関係者をお呼びした対談も行いました。小生が進行を務め、ゲストに元ローズガーデンオーナーの若山晴洋氏、元異人館倶楽部(当時ローズガーデンとともに流行の発信基地となった北野のファッションビル。設計は天藤久雄氏)オーナーの菊地由紘氏をお呼びし、仲介役として、当時の状況を取材した元「神戸からの手紙」~「SAVVY」編集長の楢崎寛氏にお越し頂きました。対談では、当時の方にしか語れない臨場感を持って、「ファッション」という言葉が生活文化全体に対する提案を含んでいたこと、北野でファッションビルが生まれ、人が集まった経緯、そしてこれからも、当時とは違う形でさらに重要性を増すであろう、神戸のまちづくりについて語られました。

ローズガーデン中庭で対談

③ 神戸山手女子中学校高等学校本館の公開・展示
神戸山手女子中学校高等学校は、大正13年に設置された山手学習院を前身とする、神戸における戦前から続く学校の1つです。今年で創立100周年を迎えます。校舎群は諏訪山の裾野に沿って並び、本館は1936年に建設された、戦前の鉄筋コンクリート造校舎です。そんな「神戸山手女子さん」の特別公開をサポートしました。

生徒さんによる黒板アート

公開にあたって、セキュリティを確保した上で、可能な限り現役の生徒さんが主役となって来場者を迎える、「生きた建築公開」を目指しました。
そもそも、これまで2万人以上の卒業生を輩出してきた伝統ある学校の建築公開が叶ったのは、偶然にも小生の妹が卒業生で、しかも在校中は部活動として、学校を外部に広報する広報部に所属していたからでした。妹から顧問の先生(入試広報センター長)に繋いでもらい、先生からは校長先生に取り計らって頂き、創立99年目というタイミングも手伝って、極めて前向きに、建築公開にご協力いただける運びとなりました。
建築公開は、セキュリティ確保などの観点から、自由見学ではなく事前応募制で、各回20名ほどの校内ツアーを4回行うこととしました。今回は時間が無く、建築の専門的な知識が求められる校舎ツアーは、小生が所属する大阪公立大学建築デザイン研究室で請け負いました。しかしそれ以外の、当日の質問の受け答えや年表、展示、リーフレットなどの制作は、広報部の皆さんが本当に主体的に頑張ってくれました。特に、普通教室の黒板に描かれた「神戸モダン建築祭」の黒板アートは、参加者からも好評な、展示の目玉となりました。
2日間で外部ツアーも含め、合計120名の見学者を受け入れました。生徒さんにとっても、外部の社会と関わり、視野を広げることができる貴重な機会だったということで、100周年である今年こそは、ツアーも生徒さん主体で行えるよう、サポートすることができたらと思います。

校舎ツアーの様子

④ 北野メディウム邸の公開・展示
 「魅せます!北野メディウム邸のこれまでとこれから」

北野メディウム邸は、2022年から神戸北野で運営を開始した、カフェ&コワークスペースです。北野で現存最古の「異人館」とされる、旧スタデニック邸を拠点としています。既存の洋式住宅の空間を最大限に活用した北野メディウム邸の挑戦や活動の魅力が伝わるよう、パネル展示を企画しました。

北野メディウム邸こと、旧スタデニック邸

北野メディウム邸の目玉の一つは、カフェで提供されるアフタヌーンティーのサービスです。洋風の空間で写真映えもするアフタヌーンティーはすぐに予約で埋まり、毎月300~500人もの人々を北野に呼び込んでいます。
また地価の高い北野で「異人館」を運営することは容易ではありませんが、家賃をシェアするという考え方でコワークスペースの2階を開放し、誰もが「異人館オーナー」を名乗れるよう、住所登記も可能なシステムとしています。もちろん場所借りも可能で、料金についても相談ができることから、現在、北野で若者も気軽に場所借りが可能な唯一の異人館となっています。
このように、北野メディウム邸は既にある歴史的空間を利用しつつ、それを多くの人々にシェアする形でまちの文化財を維持しています。この、単なる建築公開や飲食店利用とは異なる挑戦を、データや写真も交えて来場者に伝わるよう、パネル展示を制作しました。

2階コワークスペースの展示

⑤ 異人館の色彩を楽しむ企画
 「パーソナルカラーで北野の街を楽しむ 神戸色彩の異人館」

最後に紹介する企画は、色彩を通じて、北野の異人館を新しい視点で楽しもうとするものです。北野異人館の特徴の一つに、壁面や開口を彩る鮮やかなオイルペイントの色彩があると思いますが、そのカラーを楽しむという視点は、意外にも開拓されていなかったように感じています。
今回、アンカー神戸で交流のあった(株)色彩舎の河野万里子代表と意気投合し、さらに同志社大学のメンバーを中心にカラーについて勉強する大学生グループ、コノイロプロジェクトのメンバーを紹介されたことから、本企画が始まりました。河野さんやコノイロPJの方々は、パーソナルカラー診断やカラータイプ診断といった手法を用いたカラーマーケティングをご専門としており、感覚的になりがちな色彩が持つ効果を、ビジネスや人生の場面において、理論的に、最大限、引き出すことを得意とされています。
そんな技術を、どうすれば異人館と街/人の関係に適用させることが可能か。みんなで考えた結果、パーソナルカラー診断の手法を用いて、あらかじめ異人館を色彩によって4タイプに分類しておき、建築祭当日、その日の来場者の気分や服装と相性がぴったりな色彩の異人館をご案内するという企画を思いつきました。案内する異人館は、普段から公開されている、または建築祭で公開されて利用可能な18軒をセレクトしました。

「異人館」の色彩に注目!

企画の主旨としては、来場者に普段から利用可能な建築物を認識してもらい、街に新たな回遊性をもたらすこととしています。ですがそれ以上に、「映え」や「おしゃれ」という外見への意識を、そのもっとも身近な補助アイテムと言える衣服から、背景としての建築やまちに接続してもらいたいと考えていました。河野さんやコノイロPJの皆さんとは、その基盤の部分を共有できたからこそ素晴らしいコラボレーションとなり、3日間で150人以上を診断し、大好評で終えることができました。なお、会場は北野メディウム邸2階としましたが、異人館の貸しスペースが若い世代によって実際に利用されている風景も示すことができたのではないかと考えています。

「異人館」でパーソナルカラー診断!

以上、神戸モダン建築祭で小生が実施した、3会場5企画の報告でした。
なお、ここに掲載した写真の多くは、アンカー神戸で知り合った学生会員の、中西壮くんに撮ってもらったものです。彼とは共通の話題を持っていたこともあり、すぐに仕事を頼み合う仲となって、今回の写真もお願いすることになりました。当日は走り回っていて見逃していた建築祭の風景を、彼はしっかりと記録してくれました。ありがとうございます。

〇おわりに
そもそも、本企画は神戸や関西の人たちに、もっと地元の特徴的な建築物を知ってもらおうとする建築祭の、大阪、京都から続く一連の試みです。そこでピックアップされた建築は、既に地域のランドマークであったり、歴史的な価値が明確な、いわば鑑賞の「入口」の役割を果たしてくれるものですが、実は町中のどんな建築物にも、歴史や来歴が内包され、見どころは隠されているものです。しかし近年では、そういった建築物の価値が経済的指標に偏って天秤に掛けられることが多くなっています。こうした建築公開イベントが一端となり、地域に既に存在している空間が再評価され、「モノは大切に使う」という精神が少しでも回復していけばいいなと考えています。

最後に、建築祭での企画のため、アンカー神戸から始まった関係者との繋がりをまとめてみました。赤字が会員さん、(赤字)が元会員さん、青地がアンカー神戸で知り合った、非会員の方々です。改めて、アンカー神戸の環境を存分に利用させて頂いたと感じます。ありがとうございました。

なお、2024年度の「神戸モダン建築祭」は11月22日(金)~24日(日)です!
ご興味のある方はぜひご参加&お声がけ下さい!
今後とも、どうぞよろしくお願い致します!


アンカー神戸から繋がった建築祭でお世話になった方々相関図

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