拝啓、吉永くん


隣の席の吉永くんは左利きでノートをとっている時よく肘がぶつかって正直鬱陶しかった。

いや、鬱陶しいとはあまりにもひどい。
そもそもこちらも肘の開け具合に気をつける必要があるのだからお互い様だ。
それなのに、わかってはいるのに小学6年生のわたしは最初に違和感、徐々に鬱陶しさを感じていた。
吉永くんに肘のことを指摘したことはない。
仲良くもなければ仲が悪くもない。
教科書を忘れればお互いに見せ合ったこともあるし、給食でわざと机を離すこともしない。
至って普通のクラスメイトだったので変に拗らせたくなかったんだと思う。
教科書を忘れた時見せてと言いづらくなるのが嫌だったというのも大きい。
(今思えば吉永くんは良い人だったのでそんなことは気にしないだろう。)
そんなわけで次の席替えまで我慢しようと決めた。

ある日、授業でどんな授業か忘れたが例えば犬好きは◯%、猫好きは△%、鳥好きは⬜︎%等つらつらとノートに取る場面があった。
文章の長さに飽き飽きしてきたときまた私と吉永くんの肘がぶつかった。
またか!とつい目を細めて彼の方をみると彼のノートには円グラフが書かれており、その中に%の比率を表す数字が分かりやすくまとめられていた。
なんと!
それは私にとって衝撃だった。
黒板に書かれているものが最適と疑わず、そのまま写すことしか考えたことがなかったからだ。
こんな風に工夫して楽に分かりやすくまとめられるんだ!
吉永くん頭良い!
他人に対して衝撃を感じるほど感心したのは吉永くんが初めてで今でもあれ以上はない。
もう肘のことなんかどうでもよかった。

その後、吉永くんは中学校入学のタイミングで転校し行方知れずだがきっと立派な職に就いていることだと思う。
拝啓、吉永くん。
肘当ててたのって私の可能性があることを高校生くらいになってやっと、気づきました。
嫌な思いさせてたらごめんなさい。

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