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ニュージーランドのパイロット像

一年半前にエアラインパイロットとして採用されてからしばらくは、会社のユニフォームを着られることがもう嬉しくて、毎度の仕事の日には帽子を目深にかぶり、手を触れたら切れそうなほどの折り目を付けた制服を着ていったものだ。

黒いスーツケースの上に黒いバッグを乗せ、制服と帽子を着用して、空港を背筋を伸ばして歩いていると、子供はもとより大人でも結構「あ、パイロットだ」と顔に書いてあったりする。他でもない、私がそんな大人だった。パイロット一年生の当時の私が書いたこの記事を見ても、ウッキウキ具合が伝わってくるだろう。

ところが、最近ではこういう「ザ・パイロット」で空港を歩くことが野暮に思えてくるからわからない。ニュージーランドのパイロットには同じ考えの人が多い気がする。もちろん、勤務が始まったらびしっとしなければならないけれど、それでも「」にはなりたくない。。。

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ただの偏見かもしれないけど、今の私は、仕事が始まるギリギリまで素性を隠して空港を歩きたいと思っている。おかしい、昔はびしっと制服を着て、スーツケースを引き、フライトアテンダントの群れと共にさっそうと羽田や成田のターミナルを歩くことが夢じゃなかったっけ??今日はそこんとこの心情(信条)の変化を説明したいと思う。

ランドセルぺしゃんこ現象

なぜ、ピカピカの制服姿を、できるだけ見せずにおきたいのか。それは、ユニフォームを着ているというだけで空港内で道を聞かれたり、搭乗券に書かれているゲートが違う!といきなりキレられたりすることがあって面倒だから、というのはまぁ建前で、小学生が新品の靴を汚すがごとく、ピカピカの恰好よりちょっとくたびれているくらいがカッコいいと思っているからかもしれない。そういえば、子供のころランドセルわざと踏んづけてぺしゃんこにしてたりしていたな、まったく恥ずかしい話だ。

仕事の日はユニフォームを着て車で通勤しているのだが、ネクタイは外し、2003年に買ったモンベルのサイクリング用ジャケットを羽織って副操縦士の肩章と空港のIDが見えないようにする。

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このモンベル、現行品には同じものはなかった。16年前の品なのに、ほつれひとつない。素晴らしい品質だ。左にあるのが肩章で、制服の肩につける。右のがID。これなしで空港のエアサイドに入ると罰金。

そして、鞄はスポーツバッグを持つ。

ホテルに泊まることが多いので、仕事用鞄のほかに、お泊りセットを持っていく鞄が必要なのだが、「ザ・パイロット」志向で野暮だったころの私は、当然スーツケースだった。こんな感じ。

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このスーツケースは、機内持ち込み用サイズだったが、私の飛行機の客室には少し大きく、貨物室に入れなければならない。短い距離を何便も飛ぶ日が多いニュージーランドの国内線では、違う飛行機に乗り換えることも多く、そのたびにいちいち貨物室まで行かなければならなかったり、取り出しづらかったり、4輪タイプは傾けて使うとすぐにタイヤが摩耗してだめだった。で、行きついたのがこのスポーツバッグ。

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何しろ、へにゃへにゃで軽い。ものを雑多にぶちこんでラフに使える上、客室の頭上ロッカーにサクッと入る。帽子も入る(隠せる)。

このスポーツバッグと仕事道具入れの黒いバッグを両手に下げて持ち、上記のモンベルを羽織る。シャツの襟は白く、ズボンと靴はまっ黒なので、一見すると部活帰りの高校生みたいな恰好になる。

いいすれっからし具合だ。

これで、おやつにベビー人参でもかじっていれば完璧だ。誰も俺のことをパイロットだなんて思わないだろう。

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うまいようまいよ

脱いだらすごい人になりたい

「なんだ、お前はパイロットのくせに制服をちゃんと着ないっていうのか」という向きがあるかもしれないが、そうじゃない。逆だ。

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