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四角い頭を丸くする

前回、エンジン故障時の対処にワタワタしたので、トレーニングマネージャに相談したら「練習する?」というのでどういうことかと聞き返したら、「シミュレータセッション一本ブックしてやるよ」という。会社の金を使って練習させてもらえるなんて思ってもいなかったので、びっくりした。もちろん、二つ返事でお願いした。ここはうちの会社のすごくいいところで、困っている人をちゃんと助けてくれる。会社によっては、チョップチェックというか、まるで落とすためにやってんじゃないか、と思うような試験をやるところもあるようだ。

うちの会社でも、インストラクターによってはこっちが操作しているときにガミガミと口を出してきたり、オープンクエスチョンでこちらの思考を止めにかかってくる奴もいるにはいるが、少数派だ。怒鳴ったり感情的になるほど子供染みた人は流石にいない。そういうことは教育に全く意味がないどころか、教官の怠慢であり、有害だ。この辺については、後日別途詳しく書こうと思う。

片肺の飛行機を飛ばすコツ

さて、練習だが、キャプテンに色々とコツを教えてもらう。この浅黒い肌をしたヨットが趣味のトレーニングキャプテンは、昔エアージャパンで飛んでいた人で非常に経験豊富だ。常にガハハと笑っていて、Easy goingで、気持ちのいい人だ。トレーニングマネージャからのEmailには、この人をあてがうようにと指示があったので、多分わざわざ選んでくれたのだろう。ありがたい。事実、タイプレーティングのときには教えてもらえなかったり、教わっても取りこぼしていたコツをわんさか教えてくれた。それをノートにまとめる。

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私の場合、エンジン故障後真っ直ぐはよくできているのだが、注意力をもう少しピッチに配分してV2を維持すること、最初のヨーイングとローリングを押さえるとき、ラダーに対してエルロンが先行しているので、踏み込んだ脚と同じ側の手に紐が付いていると想像して、脚で手を引っ張るようなイメージでやること、フラップをたたむとき、V2に合わせたエアスピードバグの両端をV1、Vfriの目安として使うとレベルアクセレレートかそのままフラップアップかの判断がしやすいなど、的確な助言をたくさんもらう。

緊急事態への対処で難しいのは、頻繁に練習できないということに尽きる。シミュレータとシミュレータの間は6ヶ月あるので、注意していないとすぐにサビつく。その間どうするかは、パイロットによる。真面目なパイロットは、こうやってノートに助言をまとめて、イメージトレーニングをして技量を落とさないようにするだろう。真面目ですから。

ところが、イメージトレーニングは、想定されたシナリオへの対応を繰り返し練習するのに非常に有効だが、諸刃の剣でもある。あるシナリオへの対応を運動神経に「完璧に」刷り込むことは、そのシナリオ外への対応を困難にする場合もあるからだ。

イメージトレーニングの落とし穴

例えば、片エンジンの故障でもエンジン自体が壊れて推力が全くない状態なのか、プロペラ機構が壊れただけでまだエンジンが推力を出している状態なのか、エンジン火災はあるのか、目の前は平地か山か、エンジンが壊れたタイミングは、飛ぶ前か、後か、など、状況は様々だ。ターンが先か、フラップが先か、メモリーアイテムが先か。そういうのは、網羅的にやるのは不可能で、エンジン故障のパターンを一つだけ徹底的にやればやるほど、俯瞰的に見れば当たり前のこと(いつもは真っ直ぐいくけど、この場合は山にぶつからないようにターンしてからフラップをたたもうとか)ができなくなりがちだ。

で、これはうちの会社の特徴かもしれないが、予定調和的なものが少ない。シナリオがあって、それに対する正解が一つあり、いかにミスなく、機械的にやればいいという評価基準ではなく、上記のようなイレギュラーを基本となるシナリオに巧みに混ぜてくるので、パイロットは機械的にやるところと、判断を介在させるところのバランスを考えなければならない。

今回のシミュレータチェックも、そういうイレギュラーがたくさんある状況だった。

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