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副操縦士は見習いか

現代の旅客機のほとんどは、2名のパイロットで操縦するように設計されている。通常、ひとりがキャプテンで、もう一人がファーストオフィサー(FO)だ。ファーストオフィサーは、副操縦士とかコーパイ(ロット)などとも呼ばれることからも、キャプテンに比べて半人前であるという印象を受けやすい。最近では、1名乗務の飛行機の可能性を航空機メーカーが言及したりしている。

キャプテンの隣で、FOは何をしているのだろうか。見習い?そういう面もあるだろう。だが、FOにはFOの役割がある。そして、これはきちんと訓練をしてチェックに通った者しかできないものだ。

Second In CommandとしてのFO

FOが2人いても旅客機は飛ばせないが、キャプテンはFOの仕事もできるので、キャプテンが1人いれば、2人目はどちらでもいい。そして、2名のキャプテンがコクピットにいる場合、どちらの「キャプテン」が最終的な責任を負うのか、はっきりさせなければいけない。

そこで、パイロット・イン・コマンド(PIC)を任命する。PICは、ある航空機の運航の一切に最終的な責任を負う。キャプテンは肩書で、PICは職責というわけだ。だから、キャプテン=機長という訳は間違いで、正しくはPIC=機長なのだ。

PICに対して、その次の責任者という意味でSecond In Command(SIC)がある。キャプテンが意識を失うなど、何らかの理由でPICとしての職責を果たせなくなったときに、SICは、PICとなる。そして、通常このSICを担うのは、FOだ。

FOは、ひとりで飛行機を安全に地上まで降ろす潜在的な責任を負っている。だから、タイプレーティング(TR)と呼ばれる機種ごとの操縦資格で求められる合格基準は、TR取得後のライントレーニング(実運航での訓練)の初日に運悪くキャプテンが心臓発作を起こしても、誰も殺さずに地面に降りてくることができる、ことだと個人的には考えている。

監視者としてのFO

Standard Operating Procedures(SOP)は、原則として普段の運航では逸脱が許されない運航ルールで、航空会社が独自に定める。簡単に言えばみんなが同じやり方で飛ばすためにやり方を決めましょう、ということだ。

わかりやすいのがスタンダードコールと呼ばれる言葉遣いで、離陸するときにあるスピードで「V1」と言う、とか、飛行機が水平飛行に移ったら「ALT Captured」と言うとか、セリフが細かく決まっている。これをたとえば「V1st」とか、「Level Off」などと言葉を変えることは、SOPの逸脱になる。セリフの意味は同じでも、統一しないと混乱を生むからだ。セリフだけでなく、いろいろな観点でそういう細かいルールが決まっていて、皆がそれを守ることで「誰と飛んでも同じように飛ばせる」組織になる。

さて、SOPで様々なルールが決められているといっても、現実の運航では様々なことが起こるから、すべての状況をシミュレートして本にすることはできない。そこで、パイロットの出番だ。つまり、最低限のルールは決めるから、あとはパイロットが判断してください。ってことだ。そして、飛行機はSOPの中でPICの判断で飛ばしていくものなのだ。

FOの役割とは、だから、機長が安全に関わるルール(=SOP)を守っているかどうかを監視することが大事な役割となる。機長が意図的にそれを破っていればもちろん(そんなことはほとんどないが)、何かをやり忘れていたり、ルールの変更を見落としていたりした場合、すぐにそれを指摘しなければならない。

そのためには、SOPを熟知している必要がある。「見習い」だからって、誰でもできるわけではないっていうのはそういうことだ。よーくルールをわかっている者でないと、務まらない。

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