新しい国と国民のかたち

「自治体連合としての国家による政府通貨の発行が実現したならば、世界はどう変わるであろうか。そこでは信用の社会的管理が会計としての国家財政にとって替わる。この租税国家に代わる社会信用国家のシステムはさまざまな形を取りうるが、ここではその一例を考えてみたい」

「まず租税は原則として廃止され、政府通貨を企業に融資する際につけられた手数料程度の数パーセントの利子が国家の収入になる。そして議会に代わる制度になった自治体の代表者の協議機関がこの収入の配分を決定する。これは銀行に払う利子と異なり、経済の繁栄を国民の福祉に連結する仕組みである。多様な資金需要に応えるための地域銀行も存続するだろうが、それは信用を創造せず手数料だけを収入源にする銀行である。各自治体では市民が参加して予算案が編成され、それが上部の機関に送られ、国家信用局によってインフレ予防の視点から調整され正式の国家予算となる。その際、国家の支出は国庫への収入に制約されない」

「ベーシック・インカムは福祉国家の延長線上にあるものではなく、その最も重要な意義はそれが人々の実験的な生き方を容易にするからである。そして資源と環境の絶対的な限界に文明が直面している今日ほど、草の根の無名の人々が新しい生活様式を模索する実験的な生き方をすることが必要な時代はない」

「脱成長の戦略はメンテナンス経済論として定式されるべきだったと考えている。経済学は富をストックとフローに分けるが、ストックのメンテナンスというある意味で庶民が普通にやっていることを無視してきたのである。しかしメンテナンス経済は、信用が社会化されゼロ成長でも経済が円滑に回っていく世界でしか実現しないことは確かである。社会信用論はユートピアの自動的な実現など約束しない。肝心なことは、テクノロジーを含めた経済生活の在り方について人々が自由に選べるようになることなのである」

関曠野「経済のデモクラシーへ」(『フクシマ以後』所収)

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