見出し画像

唐突に同性から性的に触れられると恐怖心が蠢いた。

女性の友達と雑談していたときに、彼女から「他人から急に性的な目で見られたり触られるのが本当に気持ち悪い」という旨の話を聞いた。

日常的に彼女はそのような目に遭うことが多く、慣れてはきているがやはり不意打ちのようなものは精神的に参るとのこと。

具体的な事例としては、バーで隣に座って話していただけの男性から急に手を掴まれたり、唐突で自分本位な下ネタを言われたり。

ハッキリとした強い口調で断っても、男性の力強い握力で手首を掴まれただけで、彼女は本能的に恐怖を感じてしまったそうだ。

人間の体格差は男性と女性で分かれているのだから、「この男性に抑えつけられたら抵抗しても逃げられない」という心理は当然のように働く。

人によっては彼女のことを「ただモテるだけ」と称するかもしれないが、モテるからと言って恐怖心を与えられる必要はない。

よく知らない他人に身体を触られるのが本当に気持ち悪い、反吐が出る。


そのような話を聞いたときに、私もふと数週間前にSMバーへ行ったときのことを思い出した。


馴染みのSMバーへ遊びに行った。

私の性癖を話せる場所はさすがに限られる。
だが、ここのSMバーでは自分の趣味と嗜好を話せる場所だ。

ひとりでSMバーに来た私は、顔を見知っている店員さんに誘導されてソファに案内された。

店員さんからいつものようにドリンクを聞かれて「ビールで!」と伝えた。

最近のアナル開発進捗具合はどうなのか、どちゃくそ興奮したペニバンセックスの話、まぁいつものようにそんなような話をしていた。

普段はどこでも話すことが出来ないニッチな性的の話をSMバーでは堂々とできる。
雑居ビルの中で経営されているこの空間に浸ることで日々の仕事疲れを溶かしていた。

ニッチな空間にいらっしゃる皆さんの話も面白く、個性が強い話達は酒を飲むペースを早めていた。

今日はどうやらお尻好きの人が多い。
ありとあらゆるお尻いれられあるあるの話で盛り上がり続けていた。

アルコールで私の体は火照り始め、会話も弾んでテーブルの盛り上がりが最高潮に達しようとしているその刹那、ふと私の左腕が強い力で引っ張られた。

私の手首にかかる圧力は、これまでに経験したことがない強さだった。
男性と握手するときには感じることがない、私のことを気遣っていないただただ暴力的な握り方だった。

私の左腕を掴んだ手の先を辿ると、そこには男性の姿があった。
先ほどまで私といっしょにお尻の話で盛り上がっていた男性だ。
その方の耳についているアクセサリーを見ると右耳にピアスをつけていた。
肌質も気を遣っていらっしゃるのであろう、艶やかな肌をお持ちだった。

その男性からどんなに振り解こうとしても簡単には離してくれない、そんな握力で私の腕が掴まれている。

衝撃の感情に体が硬直していると、体の正面から男性の声で「さっきの話、よかったよ。」という言葉が鼓膜を震わせた。

その言葉と力強さに私の身体は思わず硬直してしまった。
これまでにほとんど感じたことがない『人に対する恐怖』という感情が生み出されていた。

男性と私は手を握り合っているのではない。
男性に私は拘束されているのだ。

さらに男性は私の手首を力強く握り締めながら「お尻にいれられるの好きなんでしょ?よければどう?」という言葉を投げかけてきた。

心が怯えていたこともあり「よければどう?」という言葉の意味がその時はいまいちピンと来なかったが、少し考えれば、あぁそういうことなのだと理解した。

男性は私の目をじっと見つめていた。
私は思わず身じろぎながら、彼の目を見返してしまった。

人は恐怖心に包まれていると、恐怖の対象をじっと観察してしまうのだろう。

そして、ここはSMバーという場所であり、手を繋いで見つめ合うのもまぁ全く見ない光景ではない。

周囲に助けを呼ぼうにも、助けを呼ぶほどの事案ではないのではないだろうか。

恐怖の中であらゆることを思案していたが、私が言葉に詰まっているところを察してくれたのだろう、彼は自ら私の手を離してくれた。


「ごめんね、そうだよね。」


私は基本的に異性愛者。
同性愛者を否定するつもりがないのは大前提として。

『恋愛対象ではない人から急に触られて誘われる』という体験をした。
たしかに気持ち悪かったしゾッとした。
あの感覚はいくら言葉で説明をしようとしても伝わらない本能的なものだった。


彼にとってはシンプルなアプローチだったのかもしれない。
だが、私が受け取ってしまったものはシンプルな恐怖心だった。

セクハラとかジェンダーとかLGBTとかいろいろあるけれど、そういう話ではなく、身体を強い力で急に触れると恐怖心が思わず湧き出る。

ただただ、そういう話です。

サポートして頂いたらモチベとてもあがるのでよければお願いします🐼