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【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」③

福岡に来て7日が過ぎたころ、オレと「スーちゃん」は、一緒に「だるまさんがころんだ」をするほど、すっかり仲良しになっていた。もちろん、オレは「こけし・いじり」をしなくなっていた。

ところで、この「だるまさんがころんだ」は、人間のガキ共がやるようなつまらないものとは全然違う。スリル満点なのである。というのは、鬼が人間。すなわち、人間がいない間に思い切り動いておき、人間が戻ってくるわずか数秒の間に、サッと元の位置に戻ると言うのが、この「だるまさんがころんだ」のルールなのである。一回失敗して、危うくリカに気づかれそうになったことがあった。

「あれ?こんなところに、あたし、置いたっけか?」

リカはオレを手に取り、いぶかしげに見つめた。なぜ、決死の覚悟かというと、「あなたの知らない人間の世界」という本を読んで、人間にぬいぐるみの本省を知られることが、いかに恐ろしいかをオレはいやというほど知ったからだ。その本には、『私の恐怖の体験』として、こんな風に書かれていた。

びっくりあらいぐま

「わたし(クマのぬいぐるみ)は、とある満月の夜、外の景色を見るため、夜中、こっそりと主人のメアリーのベッドを抜け出しました。その夜は、雲一つない夜で、それはそれは美しい満月でした。あまりにも美しかったので、同じぬいぐるみである、犬のぬいぐるみジョンを外に連れ出しました。メアリーは優しく、彼女の家はとても広く、きれいで、この上なく恵まれていたのですが、日ごろ自由に動けない私たちぬいぐるみにとって、自由に動き回れることは、この上ない喜びであるからです。(・・・中略・・・)私とジョンは、こっそりくすねてきた、チョコレートをほお張ったり、お屋敷の中の広い庭を走り回ったり、これまでにない解放感に浸り、満月の夜を楽しみました。

『そろそろ遅いから、戻ろうか?』

ジョンがそういったとたん、時刻を知らせる時計の鐘が鳴りました。

ボーン、ボーン、ボーン。

その音に驚いた私は、思わず、「きゃあ!」と悲鳴を上げてしまいました。

すると、外にいた、犬のデイビッドが目を覚まし、ワンワンと泣き始めてしまいました。すると…なんと、主人が目を覚ましてしまったのです。

いつもなら、彼女の両脇に寝ていたはずの私もジョンもいないことに気づいたメアリーは、びっくりして、大声で泣き始めました。

『わーん、わーん。テディ(私)とジョンがいないよぅ。どこ?』

すると、召使や旦那さまや奥様も起きだし、一斉に部屋中を探し始めたのです。

私とジョンは、必死になって、人間に気づかれないよう、こっそりと部屋に戻ろうとしました。ベッドのそばに落ちていれば、何とかなると思ったからです。私たちが家に戻ろうとしたとき、犬のディビッドが扉の前にいました。

「ワン!見つけたぞ!」

犬のデイビッドは、自分とよく似た、ぬいぐるみのジョンにとびかかってきました。ジョンは、私に向かって、

「早く逃げるんだ、エイミー(私)!」と叫びました。

私は立ちすくんでしまい、しばらく身動きが取れなくなりました。すると、ディビッドの声を聞きつけた他の番犬たちが、こちらにやってきました。

「早く、早く逃げろ、エイミー!」

私は必死になって部屋に戻り、ベッドの下に隠れ、何とか難を逃れました。けれど、ジョンは、、、。

「どうして?どうしてこんなところにぬいぐるみが置いてあるの?!」と奥様が真っ青な顔をして、大声で叫びました。そして、

「あなた、私、なんだか嫌な予感がしますわ。まさか、このぬいぐるみ、魂が宿っているのじゃないかしら?」

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と言ったのです。そうなのです。私たち、ぬいぐるみは、人間に動けること、話せることを決してさとられてはならないのです。人間は、そうしたぬいぐるみを『魂を宿したもの』として忌み嫌い、抹消しようとするからです。

私はベッドからただ落ちただけと片付けられましたが、庭で見つかったジョンは、その後、数日間にわたって、悪魔祓いの儀式(十字架に縛り付けられ、鞭うたれ、杭を打たれる)を受け、最後は火あぶりにされてしまいました。」

オレはこの本を読んで数日間、恐ろしくて全く眠れなかった。もし、リカが、オレが動いていることを知ったら・・・?リカは身体がデカい割には、「小心者」である。ただですむはずがない。「あなたの知らない人間の世界」みたいになるかもしれない。

ここは日本だ。一体どんなことになるのだろう…?

オレの額は汗びっしょりになった。

#創作大賞2022

#小説 #連載小説 #アライグマくんのため息  

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