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【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」④

「ただいまー。ふぅ・・・。」

(お、リカが帰って来た!!!)

ぬいぐるみのオレ様の主人=リカ。帰って来た早々ため息をつく。

(うーん、これは何かあったに違いない…。オレを今朝いじめた罰だ、ざまぁみろ、へへ)

オレは、今朝のリカの仕打ちを思い出してほくそ笑んだ。

「リカちゃん。デート、どうだった?楽しかった?」

リカの姉、「ちび」は、好奇心いっぱいのキラキラした目でリカの顔を覗き込んだ。

「それがね・・・最悪だったのよ。あのね・・・」

リカは、ダムでせき止められていた水が、一気に放水されて流れ出したかのように話し始めた。

デートの相手(オレはひそかに「むっつり君」というあだ名を付けた)は、同僚の小口(おぐち)というやつで、実に無口なヤツであった。リカとデートの間、なんと、一言も声を発しなかったと言うのだ。いや、正確に言うと、声は出ていただのだが、「うん」とか「こんにちは」とか、「いや」とかそういう片言だったと言うのだ。

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おしゃべり男は大嫌いと言っていたリカですら、さすがにここまで無口だと、参ってしまったらしい。デートの間,約5時間、なんと一人でほとんどしゃべりっぱなしだったと言うのだ。

「そりゃあね、確かに無口な人はいると思うし、別に無口な人や人見知りの人って、あたし嫌いでもないんだよね。でもさぁー、自分で誘っておきながら、ずーっと黙っているっていうのはあんまりだと思わない?こっちがバカみたいじゃない。ずーっと、『うん』とか、『すん』とか言ってんのよ。本当にまいっちゃってさぁー。なんだかこんな人にコンサートのチケット払ってもらって、貸し作るのも嫌だったから、『悪いから自分の分を払います』って、2,3回、言ってみたのよ。向こうはいいって言うんだけどね、なんかね。そしたらさぁー、なんかムッとされちゃって・・・。帰りの電車の中、ずーっと、一言も口きかないんだよ。なんか私嫌われちゃったみたい。まぁ、別にいいんだけどね、でも、会社の人だしさぁー、もうまいっちゃったよ。ふぅっ。」

リカがしゃべるのを一通り聞き終わった後、「ちび」は、

「そんなことないよ。リカちゃんをきらったんじゃなくて、その小口って子、あんまり女の子の扱いになれていないんじゃない?たぶん、今日もものすごい緊張してたんだと思うよ。まぁ、でも、いいじゃない。世界的に有名なジャズピアニストでしょ。コンサート、よかったんでしょ?なんてったって、有名な人だもんねー。バレンタインデーにあのピアニストの演奏聞くなんて、なかなかおしゃれじゃない。いいなー。」

「ちび」がちょっとうらやましそうに言うと、リカはすっかり元気を取り戻し、

「そう?まぁ、演奏はそれほどでもなかったけど、曲はよかったよ。」

(世界的ピアニストなのに…?ずいぶん上から目線じゃねぇか、、、リカちゃんよぅ。)

そのバレンタインデーデートの後、小口からは全く電話も何も連絡がなかった。リカは時々オレに向かって、

「ねぇ、やっぱり、気まぐれだったのかなぁー。小口君、そうだよね。あたしみたいに図体のデカい子が、相手にされるわけないよね。あー。ちょっと期待して損しちゃった…」

と、妙にしおらしく語り掛けるのだった。

前にもいったが、リカは異常に身体の大きいことを気にしていた。だからちょっとでも、何かがあると、すぐ自分の身長のせいだと思う癖があった。ぬいぐるみの世界では、大きいことや小さいこと、痩せていること、太っていること、歯が出ていること、耳が大きいこと、、、そんなことは、何一つ優劣などないので、正直、オレ様には、リカの悩みが十分理解できなかった。

大きいは大きい、小さいは小さい。ただそれだけの事。いいも、悪いもないのだ。

だが、リカが身体が大きいことをコンプレックスに感じるようになったのには訳がある。

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例えば、会社で背の低い上司から、営業に行くときに

「お前はデカすぎるから、オレのそばを歩くな!デカいやつは大嫌いだ。」

と、対して言葉も交わしていない新人のころから、繰り返し執拗に「背の低い」先輩に意地悪を言われたり、何度も「嫌い」と言われたそうだ。

さらに、化粧品を買いにお店に入り、店員さんにメイクをしてもらっているとき、他の店員さんが、お客さんをメイクしながら

「あの人、デカいですよねー。背の高い人って、すごく偉そうですよね。私大嫌いなんですー」

と言っているのを聞いたとか…。

街を歩けば、子供たちに

「のっぽ♪のっぽ♪」

とはやされてからかわれたり。

それ以外にも、恋人のいる女友達に「デカい女は嫌われるよ」とさんざん言われたらしい。だが、とどめは、ほのかに想いを寄せていた同級生に告白もしていないのに、顔をマジマジと見た挙句、

「俺さぁー。悪いけど、デカい女って、好みじゃないんだよね。可愛くないからさー」

と言われたとか…。

だから、やけに身長のことを気にしているのだ。

最初にこの話を聞いた時は、本当かよ?と疑ったりもしたが、リカの真剣なまなざしを見ていると、どうやら本当らしい。

「ぬいぐるみ憲法」では、「いかなるぬいぐるみも、憲法の下においては、平等であり、いかなる偏見、差別を許さないものである」という一文があるが、そんな一文は全く不必要と言えるほど、何の偏見もないのだ。

同じウサギのぬいぐるみ同士が恋人同士になることもあれば、フランス人形とサルのぬいぐるみが夫婦になることもごく普通だ。何より、人間みたいに、性別という区別もあまりなく、その時その時、気に入った役割を選んでいるので、ある時は男のようになったり、ある時は女のようになる。オレの目から見て、人間というのは、本当に自分の目線を押し付けるというか、司会の狭いために、生きづらくしているように思えるのだ。

ちなみにデートの相手の小口は、リカと同じくらいの身長で、横に並ぶと、ヒール分かさましされた、リカの方が圧倒的に大きく見える相手のようだった。

#創作大賞2022

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