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【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」④

オレの心配をよそに、リカの反応はいたってシンプルだった。

「あっ、そうか・・・。今日、布団たたむ時、思いっきりけ飛ばしちゃったまま、出かけちゃったんだ。なぁんだ。びっくりしたー。へへ。」

といって、どこかへ行ってしまった。そういえばそうだ。言われてみれば、今朝からずっとお尻が痛い。どうせなら、少しばかり、脅かしてやればよかった。

まぁ、こうして、リカの鈍感な気質のおかげで、オレとこけし達は、「だるまさんがころんだ」を満喫することができた。それから数時間後、オレは、リカが本当にどこかへ行ったことを知った。なんとリカは、オレ様を置いて、長崎へ一人旅に出かけてしまったのだ。くそぅ。後で思いっきり、オレについたダニの山を、リカの鼻の中に入れてやるのだw

リカがいない間、福岡の家でちょっとしたことがあった。それは、パパりんの第一声で始まった。

「あー、あー。しまった!あららららら…!!」

と、わけのわからない言葉を夕飯時突然叫んだのだった。

「どうしたの?」

見かけとはだいぶん違うママりんの優しい声。

「明日、ママ、2日、3時ごろ家にいる?いやー、困ったな、困ったな。」

明日の3時。ママりんが家にいる由もないことは、武討家では周知の事実だった。・・・というのは、実はオレが福岡の家に来てから、ずーっとママりんは、

「あたし、2日は、久美子ちゃんのお母さんと朝から出かけるの♪玉野鈴世のお芝居観に行くのよー。ふんふふん、ふんふん♪(鼻歌)」

と、毎日耳にタコができるほど、何度も言い続けていたからだ。

いくら、「にぶい」パパりんでも、気が付かないとは言わせないのだ。それなのに、だ。

「え?だって、パパ。あたし、明日久美子ちゃんのお母さんとお芝居観に行くの、言ってたわよね。」

これ見よがしに自慢するママりん。

「あ、そうか。そうだったな。参ったなぁ~。まみちゃん(=ちび)は、明日家にいないの?」

と、一応聞くパパりん。ちびを見るが、その眼は全てをあきらめつくした目であった。長年親子をやっているだけあってパパりん、「ちび」の性格をよく見抜いていた。そうなのだ。「ちび」がせっかくの休みを誰かの為につぶすなんて、とんでもない、とんでもない、のだ。そんなこと、糠に釘、のれんに腕押し、だ。(って、この使い方、あっているっけ???)

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「あ、明日はウェンディと久美子ちゃんと一緒に大宰府行く約束してるから、家にいないわよ。」

と、パパりんが質問するや否や、即効で返す「ちび」。

「ねぇ、パパ。その用事って何なの?」

ちょっと不安げに、でも平静を装ってご飯をほおばりながら聞くママりん。

「実はね、北海道の石田さん。今九州に仕事で来てて、この間旅行しに来た佐渡のお土産、わざわざ持ってきてくれなくてもいいのに、せっかくこっちに来たんだからって、持ってくるって。ねー、迷惑っていうか、ねー。参っちゃったんだよ。」

いかにも困った風に話すパパりん。でも「鋭い」オレは、銀縁の眼鏡の奥にあるパパりんの目が、一瞬ほくそ笑んだのを見逃さなかった。きっと、心の中で、「しめしめ」と言っているに違いない・・・。

(越後屋、そなたも罪よのぅ。うふぉっふぉっふぉ・・・)

ちょっとむっとした顔を一瞬するも、いつもと同じ表情に変わり、

「そうかぁ・・・。パパ、明日、会社の人たちとゴルフコンペだもんね。わー、でもパパ、なんで石田さんに明日は都合悪い、全員でかけているって言わなかったの?まぁ、そんなこと今更言ってもしょうがないでしょうけど・・・」

と、つぶやくように話すママりんの言葉を聞くや否や、「ちび」の非難攻撃開始。

「えー!!!パパ。ママ、ずっと楽しみにしていたのよ、明日のお芝居。3ヶ月以上も前から、ずっとそのこと言っていたじゃない。そんなのパパが悪いんじゃない。ママ、やんなくていいからね!」

今であれば、LINEやメール、携帯と簡単に連絡が取れるが、このころはまだ超馬鹿でかくて、信じられないような金額で携帯が売られていた時代。固定電話が頼りだった。

「別にパパ、まみちゃん(=ちび)に聞いてるわけじゃないんだけどなー。どうしてそうギスギスしたものの言い方するのかなー。まったく、アメリカなんかに留学させるんじゃなかったなぁ~。女の子は、もう少し、素直じゃないと。でも、今からじゃあ石田さん、もう北海道出ただろうし、泊りのホテルの電話番号もわからないしなぁ。困ったなぁ~。」

と、ママりんの顔をちらりと見るパパりん。

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「すぐそういう言い方して!自分に都合が悪いこと言われると、すぐアメリカのこと言って、バッカじゃないの!」

目尻を60%も吊り上げる「ちび」。

「やだねー、こういう女は、すぐにヒスをおこして。」

「ちび」の目尻が90%になるのか(?)と思うほど吊り上がったその瞬間、ちょっと強めにお茶碗をテーブルに置いたママりんが、口を開いた。

「いいわ。わかったわ。久美子ちゃんのお母さんには悪いけど、あたし、明日出かけるの、やめるわ。」

すると、間髪入れずパパりんが、

「ほんと?いやー、よかった。助かったよ。エイコ(ママりん)がそう言ってくれるなら。いやー久美子ちゃんのお母さんには悪いことしちゃうねぇー。なんかお詫びでもしないとねー。」

と嬉しそうに言った。ママりんに「すまなさそう」な振りをしているが、どうみてもウキウキぶりが見て取れる。もはやパパりんの気分は、「ナイスショット!」なのであった。

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#創作大賞2022

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