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【小説】アライグマくんのため息 第2話 「武討姉妹」③

嵐のような夜の翌日日曜日は、これまたとても穏やかで心地の良いそよ風の吹く日だった。

昨晩の出来事はどこ吹く風と、「ちび」は、リカをいつも以上に愛想よく見送っていた。

(さすがは姉だ。人間ができている。昨日の鬼の形相には、オレも一瞬ちびりそうになったが、やっぱり「ちび」はいいやつなんだな。なんて心の広い奴だ♡)

アパートにきて早3ヶ月。春のような心地よい風が吹いている。天気もいい。ここのところ、雨が降ったりしていたが、一週間ぶりの快晴ということで、普段は、仕事で忙しいことを理由にリカに家事を押し付けていた「ちび」も、たまりにたまった洗濯を始めた。オレはなんだかウキウキして、鼻歌を歌いながらテレビを見ていた。すると遠くからブーンというものすごい音がする。どうやら掃除機をかけているらしい。家事をこんなにするなんて、」ちび」にしては珍しいこった。

掃除機と言えば、オレは苦い経験を持っている。以前、リカが掃除機をかけているとき、それがどういう代物だかよく知らずに、面白い音がするので、掃除機の周りをうろうろとついて回り、観察したのだ。すると、オレが部屋に落ちていたヘアピンに躓いて倒れた瞬間、掃除機が、オレのプリティーポイントであるお鼻を吸い込んでしまった!

オレは、
「助けてくれー」
とじたばたゴキブリみたいに、みじめな姿を15分もさらす羽目になった。
まぁ、そんなオレの掃除機に対する苦い思い出はともかくここでは置いておこう。

1時間くらいしてから、「ちび」は、洗濯物を干し始めた。
オレは、ラブリーな天気に、すっかりご機嫌になり、「ちび」のまわりをうろうろとスキップした。時には「ちび」のおしりを軽くけ飛ばしたりして、じゃれたりしていた。

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「ちび」は、最初、ニコニコして、嬉しそうにオレを見てほほ笑んだ。
オレは、ますますいい気になって、「ちび」にいろんな話をして、じゃれついた。
が、最後の洗濯物が終わった瞬間、「ちび」は突然真顔になったかと思うと、オレの顔を見て、「にやり」と不敵なほほえみを浮かべた。
妙に冷たい汗が、オレの背中を流れた。。。

(な、なんだ・・・?)

「こうしたら・・・おもしろいかしら・・・?」

「ちび」は、オレの顔を覗き込むと、ひょいっと、突然、オレのしっぽを掴んだ。

「痛てっ!痛手てててて!!!…何しやがるんだ、この野郎!」

「ちび」は、オレの声を気に留めることなく、「ふんふん♪」と、鼻歌を歌いながら、オレのしっぽを持ち上げ、なんと、洗濯ハンガーの洗濯ばさみに挟んだのだ!!!

そう、オレは、さかさまのまま、洗濯ハンガーに吊るしあげられた。

「やめろー!やめろー。やめてくれー。」

オレは、ありったけの声を振り絞り、わめき散らした。

「ちび」は、そんなオレの様子を見て、ニヤリと笑った。そして、

「恨むんなら、あんたの主人を恨みなさい。ふふん。主人の罪はお前の罪なんだよ!うふふ、超面白ーい♪」

と言ったかと思うと、つんつんとオレの出っ張ったお腹を突き、オレの身体を揺らした。オレの身体は、まるで、サーカスの宙返り芸のように、ぶらぶらと宙を舞った。

(ふざけんな!命綱もないんだぞ!!!!)

その日は、雲一つないようなとても気持ちの良い日だったのだが、結構そよ風が吹いて、これまた宙ぶらりんのオレ様の身体を揺らすのだ。他のぬいぐるみに比べて比較的オレ様のしっぽは大きく、しっかりとした作りであったので、何とか身体を支えることはできたが、しっぽの付け根である、縫い目がちょっと甘かったのか、「ぷちぷち」っという不気味な音を立てていたので、オレは焦った。

なにより、痛い。痛いのだ~!!!

「まゆみ(真優美)」なんて名前、くそくれぇだ!「魔由未」だ。「未だかつてない、魔力を自由に使える恐ろしい奴」だ!

だが、もう遅いのだ。「ちび」は、嬉しそうに自分の部屋に入り、ドアを閉めた。CDを聴いているのだろうか?何やらわけのわからない音楽が聞こえてくる。オレがいくら叫んでも何の返事もなかった。

結局、その日の夜もまた、リカと「ちび」は、オレの「さかさずり事件」をきっかけに、大げんかを始めた。まったく、この姉妹は、仲がいいと言うか、悪いと言うか、よく喧嘩をするものだ。

正直、二人の仲などどうでもいい。喧嘩するのも勝手にしろとオレは思う。人間の世界には、「名は体を表す」という言葉があるそうだが、オレは、「ちび」ほど、この言葉の意味を打ち砕く人間は、この世にはいないのではないか、と思っている。

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#創作大賞2022

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