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ケイちゃんとガー

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 ケイちゃんちは社長だ。
子どもの頃、隣に住んでいたケイちゃんのお父さんは皆に「社長」と呼ばれていた。
だから子どもだった私は単純に、ケイちゃんちはお金持ちなのだと思っていた。
ケイちゃんはこんな田舎なのに言葉に訛りもないし、色も白く、お母さんも上品な感じだった。
犬もいて、ほとんどが雑種だったあの頃、ケイちゃんちの犬はそうじゃなかった。
毛足の長い茶色と白の、ツンと鼻の長いコリーだった。
 ある日ケイちゃんが家の前の道路にタライを持って来た。
プラスチックの、確かピンク色だったと思う。
私が小さかった頃はまだのんびりしたもので、道路は舗装されておらず、家の前の道路は私道ではないのに、それぞれの「うちの道路」だった。
道路にチョークで思いっきり絵を描いたり、鬼ごっこをしたり。
毎日暗くなるまで道路で遊んだ。
 タライを置いて家に戻ったケイちゃんが何やら自慢げにやって来た。
そのあとをカラダを左右に揺すってガーガーとアヒルがついて来た。
えーアヒルってどこで売ってるの?
飼えるの?飼ってもいいの?
アヒルはケイちゃんと同じぐらいの背丈で、ガーガーと鳴く声はとても大きくうるさかった。
アヒルに驚いていると、ケイちゃんは袋からビスケットを取り出してタライに入れた。
だんだんふやけていくビスケットをアヒルが嘴で漉し取るようにして食べた。
何枚も何枚もケイちゃんはビスケットをタライに浮かべアヒルはそれを食べた。
アヒルはガーガー鳴くので「ガー」と名づけられていた。
「私もガーにごはんをあげる!」
と言って走って家に帰り、せんべいの袋を手に戻った。
「これガーにあげて!」
息を切らして袋からせんべいを一枚取り出した。
ケイちゃんは私からせんべいを受け取ると、バリバリとせんべいを食べ始めた。
「あーダメじゃん!ガーのだよ、ガーにあげて」
そう言って私はもう一枚ケイちゃんに差し出した。
しかしケイちゃんはそれもまたバリバリと食べた。
「今度は絶対ガーにだよ」と怒って言って渡したせんべいもバリバリと食べた。
そうだった。
ケイちゃんは金持ちなのに、ちゃんとごはん食べているの?と思うぐらい食いしん坊で、あげたらあげただけその場で全部食べてしまうのだった。
するとその様子を見ていたガーがケイちゃんの腕をつつき始めた。
「痛い、痛いよガー!」
ガーはかまわず今度はケイちゃんの耳を嘴で引っ張った。
とうとうケイちゃんは泣き出してしまった。
欲張るからガーが怒っちゃったんだよ。
私はゲラゲラお腹を抱えて笑った。
そしてケイちゃんとガーが、なんだか兄弟みたいでとても羨ましく思えた。


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