町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN 感想

毎週木曜夜10時半~BS朝日で放送している、『町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN』をご存じだろうか。映画評論家の町山さんがアメリカの「今現在」の社会情勢や社会問題などを伝えてくれる番組だ。映画評論家らしくアカデミー賞ノミネート作品について解説してみたり、はたまた「アメリカのコロナ対策の現在」とか、「コンプトン(アメリカ有数の非常に治安の悪い地域)に行ってみた」とか、「テキサス州ハートビート法について」などなど多岐にわたるトピックスを取り上げ、現在のアメリカの光と影双方を見せてくれる、なかなかほかにはないタイプの番組である。
町山さんがかなりはっきりしたリベラル寄りゆえに、敬遠されている方もいるかもしれないが、少なくとも映画の知識や、映画周りの社会課題などへの教養はかなりのものがあり、一見の価値があると思う。

今回は、その中でも私が印象に残った、12/2放送の『ユダヤ教のハシディックとは?NYユダヤ人コミュニティに突撃取材』についてのnoteとなる。私の備忘録も兼ねているので、思い切りネタバレ&冗長になるかもしれないので、ご留意ください。

そもそもハシディックとは?

ユダヤ教徒のうち、聖書に書かれたことを厳格に守るタイプの人々。イスラム教徒のうち、コーランに書かれたことを厳格に守ることを主張する宗派の人々(日本では一般にイスラム原理主義と呼ばれる)がいることはニュースをある程度見ている方ならご存じだろうが、ユダヤ教にもあるようだ。
全米におよそ5万人いるらしい。思ったより多い。男性はもみあげをのばしてくるくるとカールしないといけないらしく(聖書に書いてあるらしい)見た目的な特徴といえばそこになる(あとは服装など)。あとは女性は結婚したらその相手の男性以外に髪を見せてはいけない、というルールも聖書にあるようで、女性は結婚したら髪をそってかつらをかぶる。イスラム教にも女性が髪を隠すヒジャブってあったよな、、、

彼らは厳格派なので、戒律に書いてある613もの決まり事はすべて守っているのだが、裏を返せば書いてないことは守らなくてもいいようで、スケボーに乗ったりするのはアリらしい。はあ。となるとSNSの使用とかもできそう。笑

ハシディックの暮らし

ここからは、町山さんが実際にNYのユダヤ人居住区にお邪魔したときのVTRが流れる(この番組の構成は基本、最初に町山さんとゲスト(だいたい女優の藤谷文子さん)がテーマについて話し、町山さんの現地リポートのVTRが流れ、スタジオに戻る、という形になっている)

現地では、女性ガイドが町山さんを案内していた。彼ら専用のスーパーに案内される。
厳格派らしく(?)、食べ物も聖書によって制限されているので彼ら専用のスーパーが必要なのである。ユダヤ教の指導者ラビに認められたものを「コーシャー」と呼ぶそうだ(コーシャーラジオなるものもある)。さらに、「子ヤギをその母の乳で煮てはならない」(出エジプト記)などの記述もあるため、食べ合わせもめんどくs...じゃなくて厳格なのである。肉を食べて6時間以内は乳製品を食べてはいけない・肉と乳製品を同じ皿に載せてはいけないという決まりもあるようで、乳製品は肉と接触しないよう製造工程から管理し、調理の時も同じオーブンを使うことすらダメとのこと。
ちなみに、コーシャーの動物の定義は「反すうすること・蹄が半分に分かれていること」らしい。
ほかにも金物屋や服屋などにも訪れていた。

ちょっと面白かったのが、トーラーの写本場。トーラーとは旧約聖書の最初の5つ(創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記)を指すのだが、厳格派の人々は現在出回っている印刷された聖書はただの写しにすぎないと思っているようで、正しいやり方で保存すべき、というような思想を持っているらしい。
その写し方も、古い羊皮紙の巻物に羽ペンで文字を書く、という古めかしいやり方である。あれ、でもハリーポッターの世界ってこのやり方だったよな。作者のJKローリングはここにヒントを得たのだろうか。この作業場には書き終えた巻物がたくさん置いてあった。

トーラーはユダヤ教徒にとってとても大事なものなので、そこだけ写したものを家のドアにくっつけておく、『メズーザー』なるものがある。『シンドラーのリスト』にも登場していて、ナチスに捕まったユダヤ人が取り外そうとするシーンがある、と町山さんが仰っていた。私も『シンドラーのリスト』は鑑賞済みだが、恥ずかしながらメズーザーを知らず、このシーンは記憶にない。映画鑑賞は一見娯楽だし、娯楽の側面が大きいのだが、こうした社会背景や教養を持つことでただの娯楽としてだけでなく、深く観ることができるんだなと改めて実感した。
ほかにもシナゴーグなどにも案内されており、その後、スタジオに戻された。

ハシディックにおける女性の地位

なんとなく想像がつくと思われるが、ハシディックにおける女性の地位は低い。どんなに知識があってもラビになれないし、今回のガイド(女性)も戒律上はダメでラビに特別の許可をもらったらしい。
町山さんがスタジオで語っていたのだが、トーラーの写本場にガイドさんが町山さんをご案内し、説明していた時、写本場にいる人(勿論男性)が「君が男だったらラビになれたのに」というようなことを言ったらしい。別に言った人に悪気があったわけではなくむしろ誉め言葉のつもりだと思うが、できる女性に対しての「君が男だったなら...」って何年前のセリフなんだろうか......。


感想

そもそも21世紀のNYにこんな世界があったのか、、という気持ちだが、シンプルに面白かったし、彼らは自分たちの生き方に誇りを持っているんだろうなと感じた。私は絶対に戒律を守れそうにないので真似はできないが。(そもそも外部の人間がユダヤ教徒になるには試験にパスする必要があったはずだし。)
はたからみたらなんでだよって思うようなルールも彼らにとっては重要で、守ることが生きがい、みたいな感覚は宗教感覚の薄い日本人には理解しがたい部分も大きいが、グローバル社会だからこそこうした感覚の持ち主が21世紀にも生きていることを忘れてはいけないなと。
この番組を見るようになってから、私の中でのアメリカのイメージが一面的でなくなったし、単純に知識も増えたので、おすすめです。YouTubeでも配信されているし。
(そういえば、WW2のホロコーストの時は彼らはどう生きていたんだろう。あの見た目ならヨーロッパにいたら一瞬で捕まりそうだし、今回出演していた方々のご先祖様はおそらくホロコースト前からアメリカに移住済みでコミュニティを作って静かに暮らしていたのだろう。いくらアメリカが最終的にドイツと敵対したとはいえ、WW2初期はアメリカは積極的な介入はしていないのだから。)

#町山智浩のアメリカの今を知るTV #町山智浩 #アメリカ文化

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