女子フィギュアスケート 五輪代表選考3枠目

こんにちは。
昨日まで行われたフィギュアスケート全日本選手権において、2022年北京五輪・世界選手権・四大陸選手権等の代表が発表されました。
まずは、激闘を戦い抜いた選手の皆様、それをサポートし続けたコーチをはじめとした周りの方々、大会開催に尽力してくださったスタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。悲喜こもごもだと思いますが、まずは一息ついて、特に選手の皆様は自分のここまでの頑張りを自分でねぎらってあげてください。

五輪代表選考について
事前に決まっていたペア・世界選手権メダル持ちで今シーズンも成績の良かった選手がそのまま表彰台にあがった男子は順当に決まりましたが、女子3枠目とアイスダンスはもつれる結果となりました。
私はアイスダンスは小松原組・女子3枠目は三原舞依選手と予想していました。(心情的にはかなだいに行ってほしかったし、TVで見た限りかなだいのほうがすでにスケーティングスキル等で小松原組を上回っていた印象ですが、条件的に拮抗していれば全日本優勝者が優先されるだろうなと)五輪代表選考はバンクーバーあたりから見てきたのですが、初めて予想を外しました。また、ほかのスケートファンの方々のSNS上の様子を見ても、大方が(どっちがどっちかはわからないが)五輪と世界選手権を拮抗していた河辺選手・三原選手で分け合うと想定しており、どちらも河辺選手が派遣されると思っていた方はいませんでした。そこで、バンクーバー以降の男女シングルの五輪代表派遣条件等を振り返り、隠されたスケート連盟の意図など解きあかすことができればいいなと思います。
※私はずっと日本人選手は浅田真央さんを応援しています。(他の応援している選手はほぼ海外選手)なので、浅田さん以外の日本人選手には良くも悪くも中立かと思います。ただ、三原選手は浅田さんを尊敬していると公言してくれているので、少しだけ肩入れしています
※以下、選手名敬称略

バンクーバー五輪
選考基準(枠:男女とも3)
①GPファイナル日本人最上位メダリスト(確定)
②全日本選手権優勝者(確定)
③(1)全日本の3位以内(2)GPファイナル進出選手(3)全日本終了時の世界ランク日本人上位3人
このシーズンは浅田がシーズン序盤に調子を崩したこともあり、①安藤②浅田で確定。③は鈴木明子と中野友加里で争うことになった。
この時の全日本は1位浅田、2位鈴木、3位中野。GPF出場は鈴木(3位)。当時の世界ランクのソースはリサーチできなかった(過去2シーズン含めたポイントなので、ここだけなら実績豊富な中野が勝っている可能性は高い)が、ファイナルメダリストで全日本の直接対決を制した鈴木が選ばれた。
このシーズンのGP成績は鈴木→5位1位、中野→3位4位。中野は金妍児・浅田が両方いるフランス杯では3位と健闘したが、けがもあって2戦目では4位。鈴木は初戦は5位だったが、2戦目で立て直し、のちにバンクーバー五輪3位となるロシェットに勝って優勝し、勢いそのままにファイナルでも銅メダル。つまり、③の条件を多く満たし、直接対決で勝ち、今シーズン勢いのあるほうを選んだ、という話だ。
なお、男子は順当だったと記憶しているので、省略する。

ソチ五輪
選考基準(枠:男女とも3)
①全日本選手権優勝者
②2人目は、全日本2位、3位の選手とグランプリ・ファイナルの日本人表彰台最上位者(男子羽生結弦、女浅田真央)の中から選考を行う。
③3人目は、②の選考から漏れた選手と、全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名、ISUシーズンベストスコアの日本人上位3名選手の中から選考を行う。
この時の全日本の順位は男子:羽生町田小塚、女子:鈴木村上浅田の順だった。羽生鈴木が①で内定。②は男子は全日本2位でGPFにも出場し、飛躍的な成長を遂げていた町田、女子はGPF金メダルで全日本3位の浅田で当確。③は女子は全日本2位でワールドランキングも入っており、条件を多く満たしていた村上で当確。一部で物議をかもした男子は全日本3位小塚と5位高橋で争うことになった。この時、③の条件のうち小塚が満たしていたのが全日本3位だったのに対し、高橋はワールドランキングとベストスコアの2つを満たしていた。シーズン序盤をみると小塚のGPS→6位3位高橋→4位1位、GPF出場権獲得(怪我で辞退)。(なお、この2人はGPS初戦が被っていて、どちらも本調子ではないが高橋が勝っている)
つまり、基準を多く満たし、序盤の調子もより良かった高橋を選んだということである。
※私見だが、高橋は日本男子初五輪メダリストで当時世界選手権優勝経験を持つ唯一の日本男子選手、というワンランク上の選手であり、かりにGPSの成績が小塚高橋で逆だったとしてもワールドランキングとベストスコアが上なら選ばれていたと思う。スケート連盟の言葉(小塚不選出理由はシーズン序盤の成績)が本心かどうかはわからないので。また、小塚はこのシーズン、全日本含めて完ぺきな演技をしていなかった(全日本フリーで3Lz転倒)のに対し、高橋はNHK杯でいい演技をし、能力を改めて示したのも影響したかと思う。

平昌五輪
選考基準(男子3,女子2)
①全日本選手権優勝者
②全日本の2、3位とグランプリ(GP)ファイナル(12月、名古屋)上位2人
③世界ランクの上位者などから総合的に判断
男子は①宇野②全日本の直接対決を制した田中、③当時世界ランキング1位で前シーズン世界選手権を制していた羽生が選ばれた。女子は①宮原、②は全日本2位坂本(3位は当時Jrの紀平)、GPF6位の樋口(もう一人の日本人は5位の宮原)で検討され、全日本で勝った坂本が内定した。
シーズン序盤は樋口→GPS3位2位、GPF6位、坂本→GPS5位2位。二人はともにシーズン初戦のロステレコム杯で直接対決しており、この時は樋口が勝っている。アサインの運については、樋口は当時の絶対女王メドベージェワ・SP,FPの構成難度当時世界一のザギトワと当たっているので樋口のほうがよくなかったかと思う。
この回での女子の選び方は全日本の結果重視である。ただし、樋口も実績を評価され、世界選手権代表に内定した。私見だが、全日本については順位や点数のみならず演技内容も影響していると考えられ、ほぼパーフェクト(FP回転不足1つ)を出せた坂本とミスが出た(SP,FPともにジャンプ抜け1つ、FP回転不足1つ)樋口、というのも明暗を分けたと思う。

北京五輪
選考基準(枠:男女とも3)
①全日本優勝者
②「以下のいずれかを満たす選手から総合的に判断」
(A)全日本選手権2位、3位
(B)ISUグランプリファイナル出場権獲得者
(C)全日本選手権大会終了時点での ISU シーズンベストスコア上位3人
③「以下のいずれかを満たす選手から総合的に判断」
➊(A)(B)(C)に該当し、2人目の選考から漏れた選手
➋全日本選手権終了時点でのISU ワールドスタンディング上位3人
➌全日本選手権終了時点での ISU シーズンワールドランキング上位3人
➍全日本選手権までに派遣した国際競技会、および強化部が指定した国内競技会(*1)におけるシーズンベストテクニカルスコア(*2)上位2人
*1 強化部が指定した国内競技会:東日本選手権、西日本選手権、東日本ジュニア選手権、西日本ジュニア選手権、全日本ジュニア選手権、全日本選手権の6大会を指す
*2 シーズンベストテクニカルスコア:今シーズン対象競技会(同一競技会内)における、最も高かったショートプログラムとフリースケーティングのTotal Element Score(技術点)合計得点

3枠目の条件にベストテクニカルスコア、などというオタク15年の人生でほぼ聞いたことがない単語が出現した。平昌以降の4年間で、トゥルソワ・シェルバコワをはじめとしたロシア女子が4回転ジャンプを組み込み、成功させるようになるなど、高難度化が一気に進んだことが影響していると思われる。(だったら大技跳べる人、といってもよさそうだが、そんな言い方は反発を招くのでできないということだ。大人の世界。)
また、私も最近まで失念していたが、選考基準発表時に「当てはまる条件が多ければいいわけではない」と言っていたようで(全然報道されてなかったじゃないか、と恨み節も言いたくなるが、、)全日本優勝者・ファイナルメダリスト(当初基準)以外はある程度力のある選手を何人か拾い上げてそこから「総合的に」判断しますよ、ということのようだ。総合的に、と言っているので「こんな基準なかっただろ」というような批判はあたらないよ、ということなのだろう。
今シーズン、本命と目されていた紀平がGPS,全日本欠場。GPF出場権を唯一持っていた坂本が①を満たし即内定。②は、②の基準を満たすのは(A)全日本2位樋口(A)全日本3位河辺(C)ベストスコア2位三原(C)ベストスコア3位宮原だが、全日本2位で3A含めたほぼ完璧な演技で220点越え(ISU非公認)を果たした樋口が内定。まあここまでは異論はないだろう。
問題は③である。➊~➍該当者のうち、坂本・樋口・(紀平)を除くと➊~➍に入るのは➊河辺・三原・宮原➋該当なし➌三原➍三原である。(計算してみたが、河辺の全日本のTES合計は三原のGPSイタリア大会に及ばない。(河辺:114.31,三原:116.23))このうち、全日本の順位が最も悪かった宮原が消え、全日本上位の河辺か?該当条件の多い三原か?となるだろう、というのは大方のオタクの予想だった。私は、ソチシーズンの小塚高橋など、今までの代表選考で基本的に該当条件の多かったほうを選んでいたことや、河辺三原の点差がそこまで大きくなく、河辺が三原を実力的に逆転した、という潮目の変化を感じなかったことから三原→五輪、河辺→世界選手権と考えていた。(三原が大病から復活してきたことへの私情や、河辺のスケーティングスキルや今までの成績を考えると、河辺よりは三原のほうが五輪にふさわしいのでは、と思っていた。世界選手権などの経験なしで五輪に出た選手は鈴木明子、町田樹などいるが、かれらは五輪プレシーズンからGPS等でそれなりに結果を出してきているので、すでにライバル達と同格であるとアピールできていた。)
なお、シーズン序盤の成績は河辺→GPS9位2位、三原→4位4位。河辺は2戦目で大きく飛躍し、(トゥルソワ・ウサチョワ・紀平欠場という運もあったが)2位に入り、SPで3Aを跳ぶという快挙を成し遂げた。(現行採点方法で日本女子でSPの3A成功はおそらく浅田・紀平・樋口くらいと思われる。)一方の三原も、ややアサイン運に恵まれず順位的には同じだったものの、安定した演技で着実に得点を伸ばした。また、この二人はGPS初戦がかぶっており、三原が勝っている。
結論から言えば、五輪・世界選手権とも河辺だったのだが、ここで本題である河辺選出理由の推測に入りたい。
表向きの理由は強化部長の発言にあるのだが、その裏の意図など推測できればと思う。
【平昌以降の女子シングル】
トシコと呼ばれるロシア三人娘(トゥルソワ・シェルバコワ・コストルナヤ)をはじめとしたロシア人選手が席巻しており、ほかの国の選手は完全に大舞台のメダル争いから押しのけられている状況である。昨年の世界選手権もロシア勢が表彰台を独占し、さらに今年はワリエワがシニアデビューしSP,FP,総合すべてで世界最高得点を塗り替えるなど、ロシア旋風は当分やみそうにない。彼女らのすごさは、なんといっても3Aや四回転を試合の中で着実に決める強さである。(もちろん、スピンステップでとりこぼさない、滑りにトランジションをたくさん入れる、そしてそれらを試合で着実に遂行する、などの要素も強さを支えているのだが。)平昌までは、シニア女子は3Lzまでの確実性を高めればメダルを取れたのだが、そうではなくなった。日本女子も、エース紀平をもってしてここ2,3年はロシア選手のいない試合でしか勝てておらず、肝心の世界選手権は当人のミスも相まっていまだメダルゼロである。これらの状況から、どう贔屓目に見ても北京五輪で日本が女子シングルでメダルを獲得できる可能性は極めて低い。(少なくとも、ロシアのミス待ちだが、今のロシア女子(特にエテリ門下)は基本あまり自爆をしないうえ、そもそもミス待ちの時点で実力で及ばないことを認めているようなものである。)
【同時期に開催されたロシア選手権】
全日本選手権とちょうど同時期にロシア選手権も開催されていた。女子シングルにおいては、最終G6名すべてが3A以上のジャンプに挑戦した。ジュニアから最終G入りした選手たちも高難度ジャンプを確実に降りる強さを見せ、ロシアの選手層の厚さを感じさせた試合だった。
【日本の次世代】
次世代、といえばJrである。直近の全日本ジュニアはノービスカテゴリーの島田が優勝した。島田の優勝は快挙であり、内容も4Tを完璧に降りるなど、将来への期待を感じさせるものだった。ノービスカテゴリーから優勝者がでたということは、裏返せばジュニアカテゴリーの選手たちは彼女に勝てなかったというわけで、次のエースまで年齢が空いている、間の世代を育てなければ、という印象をもたれた可能性はある。(やや勘ぐりの世界だが)

まあ、結論を言えば、現状世界でメダルを取れていない日本女子の風穴を開けるべく、また、ロシア女子に対抗すべく3Aを降りられる17歳に国際舞台の経験を積ませるという道を選んだのだろう。三原はすでに世界選手権出場経験があることもあり、モンペリエは河辺の育成に充てられたと考えられる。
選手としては大舞台を目指してやってきている以上、経験値優先は決定理由として納得いかない部分も多いと思うが、遅ればせながら日本女子の状況に気づいたスケート連盟の考えはまあこんなところだと思う。(個人的には17歳って次世代なのか?真央ちゃんなら世界選手権メダル持ってますよ?みたいな感じだがまあそこは浅田が不世出の天才だったということで…)

今後
To スケート連盟
ロシア女子に対抗できるような選手を育てたければ、選手の自助努力だけでなく環境整備などもっと頑張るところはあると思います。一人のカリスマ的天才を待つだけの方法ではうまくいきません。あと、選考基準や、選考理由の説明をマスコミを通してしっかり行わないといらぬ誤解を生むことになります。落選した選手の心のケアなども考えてあげてください。まさか発表するだけして、なにもしていない、なんてことはないですよね?この状況下で選手一同を密室に閉じ込めて代表発表するのもいかがなものかと思います。

To 河辺さん
SP,FPともに3Aすぱっと決めて、後半に3‐3を入れられたことが代表を手繰り寄せたんだと思います。実力です。おめでとうございます。おそらくスケート連盟は物凄くあなたに期待していますが、あまり気にすることなくのびのび滑ってください。選手人生のターニングポイントになりますが、すべての経験を糧にして日本女子エースへの道を駆け上がってください。(しいて言うならスケーティングスキルが伸びるともっともっと点数が出ると思います。)

To 三原さん
よくここまで戻ってきました。シンデレラを演じていたときよりずっと強く、美しくなったと思います。全日本のSPの『夢破れて』は本当に感動しました。ここまで来た苦労は私には計り知れないけれど、ここまでこれたのは、三原さんだったからだと思います。年齢的にほんの少しだけ先輩なのですが、たぶん人生はいいことも悪いこともトータルになっているので、きっといつか何倍もいいことが返ってくると確信しています。まだまだ技術的にも伸びしろがあるような気がします。体のこともあるので、無理はしないでほしいですが、あなたの憧れの浅田さんがずっと入れ続けた3Aにチャレンジしてはいかがでしょう(トウ系ジャンプの方が好きなら4T)。高難度化は加速するでしょうし、3Lzまでを確実に決められてスケーティングのスピード感もあるあなたが高難度を決められるようになればさらに上を目指せます。不屈の精神をもつ三原さんなら、たとえ時間はかかっても成功させられるんじゃないか、と思います。でもまずは、ここまで来た自分をほめてあげて、ゆっくり休んでください。




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