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元鳩(元犬改作)Ver.1.0

「なんや人間っちゅうのは楽しそうやのう」
「そうか?ワシはそうは思わんけどな。そんな事より、向こうから親子連れが来たで、あの子供、あれはエサやりたいっていいよるで」
「そんなん分かるか?」
「わからいでか。あの顔はな、エサやり顔や。ほれ見てみぃ。なんやグズグズ言い出したで。ほれ、エサ買うてるわ。さぁ来るでくるで!! ほら来た!!」
「おぉ~エサやエサや~…て、ちゃうがな。何やこの姿、情けない。ワシはなぁ、どっちか言うと、エサを撒く側になりたいわ」
「ヨォわからんけど、そない言うねやったら、ココは観音さんや。観音さんにお参りでもしてみたらどや?人間の言うには、観音さんにお願いすると叶うらしいで」
「なんやて!ほなワシ『人間にしてくれ』言うて頼んでくるわ」
「ほんまか?ワシの言い出した話ではあるけど、やめといた方がええと思うで。人間になったかてエエ事があるとは思えん。ハトよりも人間の方がツライに違いない。見てみぃ、あそこに居てるオッサン。どう見ても不幸や。不幸が服着て歩いてるよぉなもんや」
「いらんこと言うな。ワシは何としても人間になりたいねん。ワシは人間になったるんや!」
「そない言うねやったら好きにしたらエエわ。せやけど、観音さんにお願いするねやったら、お賽銭がいるで」
「何やお賽銭て?」
「あれ見てみぃ。観音さまのところで人間がなんか投げてるやろ。あれがお賽銭や」
「はぁ、なんや小さいもん投げてるなぁ」
「あれは金。小銭や。人間っちゅうのは何をするにも金が必要なんや。観音さまにお願い事するねやったら、お賽銭として小銭をあの箱に入れることになってんねん」
「ホンマか。しかし、そら弱ったなぁ。ワシ金なんか持ってへんで」
「そらないやろ。人間には大事な金でも、ハトには何の役にも立たんねやから。あんなんはカラスなら持ってるかわからんで。あいつら光るもん好きやからな」
「カ、カラスて!あんなもんに声かけたら命がいくつあっても足らん」
「まぁ人間になろうなんて願いは命懸けっちゅうことやろうな。ほな、ワシはむこうの人間に豆ねだりに行くわ」
「おい、ちょお待て!あかんあかん!」
「ん?……どちらさんでしたかな?」 「いや、もぉええわ……。あいつ、3歩歩いて忘れてもうたんやな… ホンマ鳩っちゅうのは難儀なもんやで。 あれ?ちょお待てよ。あの豆の箱のとこ。あれ金やないか!そぉか、人間は豆の代わりに金を置くねやな」

気のつくやつがあったもんで、大須観音名物…かどうかは知りませんが、このハトさん、餌ボックスに置いてある50円玉を咥えますと、ぶわぁ~っと飛び上がりまして… 歩いたら忘れますからね… 観音様のところまでやってまいりまして…

チャリン
「観音様、お賽銭も入れさしてもらいましたんで、これで何とか願いを叶えてもらえまへんやろか。人間に、人間になりたいんです。どうか人間にしてください。お願いします」

てなことを言うておりますと、一筋の風がヒュ~、鳩の羽がバラバラ~っと、舞い上がりまして… なんとこの鳩、人間になってしまいました。

「へっくし!なんや急に寒ぅなってきたな。仲間んとこ行くか。集まっとればそれなりにあったかいからなぁ。
(飛ぼうとして)いょっと!いゃっと!
あれぇ?なんで飛ばれへんねや?… あ!ちゃうがな!!羽根がおかしいで!! ワシ…ワシ…人間になってるがな~~。
50円で!?
やっすい観音さん…いや、親切な観音さん。おおきに、ありがとうございます。羽根が手になったから、こないして人間らしく手ェを合わせる事も出来るっちゅうわけや。いゃあ~頼んでみるもんやなぁ。まさかこんなに簡単に人間になれるとは。はっはっは…。裸やないかい。
そらそうか、服着てる鳩なんて聞いたことないわ。せやけど、人間やったらなんか着てないと具合が悪い。あ、この落ちてるやつでも巻いとくか。よぉわからんけど、これでエエやろ。何とかなるもんやな。 さ~て、せっかく人間になったんやから色々やりたいで。しかし頼る相手もないし、なんや勝手もよぉわからんからなぁ。 あ!あれはちょいちょい豆投げてくれるオッサンや。あの人やったらハト当たり、もとい人当たりもエエし、なんか助けてくれるやわからん。ちょっと、おやっさん。すんまへん。おやっさん!」

(ジムを経営してるオヤジ、口入屋の代わり)
「はいはい、誰ですかな?私を呼ぶのは…っと、うわぁ!!何ですかアンタは。裸にゴミ袋巻きつけてどぉしました?」
「いやぁ、ちょっとどうしていいのかわかりませんで」
「何を言うてますんや。あんた名前は?」
「名前?よぉわかりません」
「はあ?ほな、どこから来たんや?生まれは?
「ちょっと覚えてないんです」
「なんや記憶喪失にでもなったんか?気の毒なことや。ほなまぁ、これも人助けや。アンタが記憶を取り戻せるヨォに世話してあげましょ。ちょっと歩かなあかんけど、私が経営してるジムがあるから、一旦そこに行って、医者やら警察やらに相談しよか」「よろしゅうお願いします」
「ほな私についといで。と言いたいところやけど、さすがにその格好で歩いてたら大騒ぎになるな。私のジャージを貸したげるから、これを羽織りなさい。え?どうやって着るかわからん?あぁ、記憶喪失でそれもわからんよぉになったんか。しゃあないな。ほな着せてやろう。はい!これで良し、と。ほな行くからついといで」

(並んで歩く)
「しかし記憶喪失になった人は初めてみたが、だいぶ大変そうやな。いったいいつから記憶がないんや?覚えてる一番古いことはなんや?」
「へぇ、ちょうど今朝の事ですが、どうもうっかり3歩歩いてしもたみたいで、それより前の事を忘れてしもたんです」
「散歩してて記憶が無くなったんか?隕石でも当たったんか?しかし怪我してる風でもないしなぁ。ってどこ行くねん」
「へぇ、あの子供が豆菓子持ってるんでこぼすんやないかと思て」
「何を言うてますんや。それでこぼしたらどうする?」
「もちろん拾って食べる」
「アホな事しなさんな」
「いや、こども待ちは案外バカにできん。ほらこぼした!」
「こらこら、落ちた豆に突進するんやない!大丈夫かいなこの人は」

「さぁ、ここが私のジムや。おぅ、今帰ったで。さあ、ちょっと休んだら、まずは医者に見てもらわなあかんなぁ」
「ここは、おやっさんの巣ですか。色んなもんがありますなぁ」
「巣てな言い方があるか。いや、ここに住んでるわけやない。ここは仕事場や。まぁええけど。ところで、身体の調子悪いとこはないか?」
「調子はエエです」
「それやったら、ちょっと体動かしてみるか?実はな、ワシはその人が体動かしてんの見ると、どんな人生送ってきたか大体わかるんや。なんか記憶を探るヒントになるかもしれん。ちょっと、この線に沿って歩いてみい」
「へぇ、(首を前後に動かしながら歩く)」
「こら、ふざけてたら分からへんがな」
「いや、別にふざけてまへん」
「ほなもっぺん歩いてみい」
「へぇ、(首を前後に動かしながら歩く)」
「それや!何やねん、その首は?」
「なんや言われましても、勝手に動きますんや」
「勝手に?なんや変わった人やな。そもそも歩き方だけやなしに立ち方もよぉないな。いっぺんピシッと立ってみ
「こうですか?」
「そこまで胸はらんでもエエで」
「いや、これも勝手になりまんねん」
「エライ鳩胸やな」

「あれ?人間が飛んでる」
「飛んでる?あぁ、あれはトランポリンや。今月から導入したんやけどな、高こぉ跳べるんやで。なんや興味あるんか?」
「トラ……なんやよぉ分からんけど、今日はぎょおさん歩いたから、そろそろ飛びたいとこでしたんや」
「ほなやってみたらエエわ。記憶も蘇るか分からん。こっちぃおいで」
「ここでっか?うわ!なんやムニャムニャした地面ですなぁ」
「これがトランポリンや。さぁ跳んでみぃ」
「はい。いょっ!いやっ!…飛べまへんなぁ」
「いやいや、手ぇバタバタしてもあかんがな。トランポリンやから、自分で弾まなあかん」
「なんです?弾むて?」
「ちょっと説明すんの難しいけどな、そこの上で、こうボヨヨーンとすんねん」
「ボヨヨーンですか?」
「せや。ボヨヨーン、ボヨヨーン」
「ボヨヨーン、ボヨヨーン」
「口で言うてるだけではアカンがな。トランポリンなんやから、身体動かして、ちゃんと自分でジャンプせんと」
「なんです?」
「ジャンプや!ジャンプ!」
「友情!努力!勝利!」
「そら少年ジャンプや!何でそれは知ってんねん。
そういう事やなくて!改めて説明しよう思うと難しいなぁ。
ええか?トランポリンでとぼう思たら、自分で跳ねないとアカンのや!」
「ええっ!はねないとアカン!?はぁ~、ほんならワシ、あきませんわ」
「なんでや?別にアカン事ないやろ」
「いや、あかん事になったんです。さっき人間になったとき…

羽、なくなりましたんで」


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