見出し画像

真夏の夜の真司と神戸 Footballがライフワーク Vol.32

今夏、苦手な季節を例年になく楽しめたのは、シーズンインを前にヨーロッパから多くのクラブが来日してくれたおかげだ。この出不精も先月末、パリ・サンジェルマンを観ようとおよそ10年ぶりに地下鉄御堂筋線で長居公園まで赴いた。2013年の秋、当時J2だったわがヴィッセル神戸が天皇杯でセレッソ大阪に完敗したのはお隣の球技場(現ヨドコウ桜スタジアム)だったから、ヤンマースタジアム長居での観戦となると2010年の同一カードまで遡る。主役は、独走ドリブルによる決勝ゴールで故郷のクラブを踏み台同然にしてドルトムントへ飛び立った香川真司だった。

その2日前の国立競技場では、昨シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝が再現された。マンチェスター・シティとバイエルン・ミュンヘンのビッグマッチは6万5000人を超える観衆を集め、同地のJリーグ主催ゲームの最多記録を更新した。終盤の決勝点でシティが競り勝ったゲーム内容もさることながら、印象的だったのは解説の水沼貴史の弁。Jリーグのクラブが絡まず、日本人も不在のゲームが首都の真ん中で一番の観衆を呼んだ現実。「ちょっと悔しいな」との感想は、自国のフットボールへの愛情からこぼれ出たのだろう。

眼前の長居のメインスタンドは空席だらけでOSAKAの文字が浮かび上がっていたが、私の座った屋根の無い席が1万円もするようでは無理もない。リオネル・メッシは退団、去就が未定のキリアン・エムバペは来日せず、目玉のネイマールはベンチに腰掛けたままだった。ワントップに入ったヒューゴ・エキティケの発見と、そのヒールでのリターンを叩き込んだヴィティーニャの勝ち越しゴールで満足しようと言い聞かせていたら、13年前と同じ主役が躍動してくれた。北野颯太が同点としたあと、目の覚めるミドルシュートで決勝点を奪ったのは、神戸生まれのクラッキ。34歳のいまも自らをスカウトしてくれた小菊昭雄監督のもとへ帰ってきた義理堅さ、中盤セントラルへの適応を示した香川は、後半から出場したこの日もゲーム展開を一変させた。

決勝を戦ったシティとインテルに加え、ベスト8のバイエルン、ベスト16のPSG、セルティックも含めチャンピオンズリーグに出場したクラブが5つも来日したことで、従来のJリーグ勢との対戦のみならず、ヨーロッパのクラブ同士の対戦も堪能できた。列島の東西にまたがる音楽フェスさながらの盛り上がりは、今後も継続的な開催を期待したくなる。楽しい夏、一抹の不安は神戸の状況だった。ライバルが足踏みする間に首位へ返り咲いたとはいえ、川崎と引き分け、先週は横浜FCに取りこぼし。2試合連続で勝ちを逃したのは今季初めてで、いよいよ特定選手への依存と補強を怠るツケを払うときが来たかに思えた昨夜の川崎との再戦。頼れるエースが、直接フリーキックという"隠し芸"を披露した。VAR検証もあって間延びしたなか、大迫勇也の放ったボールは人壁を巻き、相手に当たることなく完璧な軌道を描いてゴール左隅へ吸い込まれた。後半は10人の相手に押し込まれながら辛くもしのぎ、およそ4年未勝利の鬼門を突破して3試合ぶりに勝利。真司がPSGを退け、ヴィッセルが首位を守る。こんな幸せな夏が、夢に終わってほしくない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?