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いま、国内でもっとも面白いスポーツとは 第3のリベロ Vol.37

アレクサンドロスの歌が、繰り返し場内に鳴り響く。4連続トライで、よもやの29-0。いかに接戦も熱戦も続出するリーグ戦とはいえ、この試合ばかりはワンサイドゲームだろうと思っていたが、リードするのが緑のジャージを纏ったホームチームとは、全くもって予想外だった。

ジャパンラグビーの最高峰、リーグワンも3季目に突入した。ワールドカップの反響も、期待どおり。サントリー対東芝の時代から熾烈なライバル争いを繰り広げてきた東京サンゴリアス(SG)対ブレイブルーパス(BL)東京の「府中ダービー」が32,000人近くの観客を集めたのをはじめ、各会場で大入りの声が聞かれる。

序盤の5節を終え、全勝は2チーム。ジャパンに最多の7選手を送り込んだ埼玉ワイルドナイツは安定の強さに加え、前節からは長期離脱でワールドカップ出場を逃した南アフリカ代表ロック(LO)ルード・デヤハーが復帰した。再び主将を託されたリーチ・マイケルが健在のBL東京は、ニュージーランド代表のスタンドオフ(SO)リッチー・モウンガとフランカー(FL)シャノン・フリゼルが揃ってチームにフィットし、名門復権の兆しを見せている。

BL東京のみならず、今季は各チームでビッグネームの「二枚獲り」が目を引く。わが街のコベルコ神戸スティーラーズは、共にニュージーランド代表で、昨年のIRB世界最優秀選手のFLアーディ・サベアが新加入し、LOブロディ・レタリックが復帰。FLがサイドバック、LOがセンターバックだとしたら、Jリーグのクラブがマンチェスター・シティのカイル・ウォーカーとルベン・ディアスをまとめて獲得するようなものだ。トヨタヴェルブリッツには同じくニュージーランド代表のハーフ団、スクラムハーフ(SH)アーロン・スミスとかつてはサントリーで活躍したSOボーデン・バレットが加入。古い例えになるが、その衝撃はジョン・ストックトンとカール・マローンがBリーグで共演するのに匹敵するだろう。

ジャパンの指揮官に復帰したエディ・ジョーンズは、さっそく各地を精力的に視察している。ジャパンが劇的な進化を遂げたのは第一次エディ体制以降のことで、ワールドカップの直近2大会のチームは当時のメンバーと方向性を基盤としてきた印象がある。世代交代への期待が高まるなか、リーグワンでは新鋭も頭角を現してきた。個人的な期待の筆頭は静岡ブルーレヴズのSO家村健太で、昨年の暮れ、クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの激闘を制した決勝トライが記憶に新しい。鋭いタックルといい、小兵ながら勇敢なプレースタイルは、長くジャパンの実質的指揮官と言われたトニー・ブラウンの現役時代を彷彿とさせる。

日本を代表するトッププレイヤーが集結し、世界的な大物も数多く来日。それは黎明期のJリーグや最盛期のPRIDEのようで、いまや夢の競演が日常と化している。さらには、ゲームが抜群に面白い。こちらもニュージーランド代表の主将、FLサム・ケインと南アフリカ代表ウィング(WTB)チェスリン・コルビという二枚獲りを実現した東京SGは今節、冒頭のとおりホームの相模原ダイナボアーズに4連続トライを与えた。前半のうちに2トライを返すも、まだ15点ビハインド。後半も猛攻を続けてついに逆転するが、相模原が反撃のトライで再度リード。これでノーサイドかと思いきや、諦めずフェーズを重ねた東京SGがラストプレーで再び逆転したのだった。前節の静岡戦に続く、劇的勝利。決勝トライを導く飛ばしパスを投じたSO高本幹也もまた、ジャパンで見たい逸材だ。観戦だけなら幅広くこなす私だが、いま国内でもっとも面白いスポーツを聞かれたら、迷わずリーグワンと答えたい。

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