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ラーメンの朝 第3のリベロ Vol.26

ホテルを出発することにしたのは、まだ6時前だった。今月のはじめ、出張で滞在した博多の朝。博多といえばラーメン、この3泊4日の密かな目標も「一日一杯」の達成だった。一時の常態化からは脱したものの、寝床の違いや緊張感、いくつかの条件が合わさるといまも眠りが浅くなり、その日も5時半のアラームよりずいぶん先に目覚めた。せっかくの機会、ぼんやり過ごすくらいなら朝からいってみようかと、早朝営業で知られる店の一杯を求めた。

今回が4年ぶりだが、博多には訪れるたび、もう一つの大都市のことを思い出す。よく似通っていると感じるのが、父の郷里・三河安城への玄関口でもある名古屋だ。ともども地下街が広大で、目的地への近道を探してみるが、方向音痴の私はたいてい諦めて地上へ脱出する。天神と栄、最大の繁華街が新幹線の駅から少し離れたところにあって、私的な印象はどちらも「濃い」の一語になる。方や豚骨ラーメン、方や味噌煮込みうどん、代表格の麺が濃厚なスープを纏っているためか。はたまた、焼き鳥や鰻の店も多くて炭火の香りが入り混じるためか。街全体に、濃い空気が充満しているような印象さえある。何より似ているのは、互いの人びとが、わが街こそ"日本第三の都市"だと自負しているところかもしれない。

地下鉄空港線の赤坂駅を降り、20分あまり歩いたろうか。まだ薄暗い曲がり角の先に、「元祖長浜屋」の看板が光を放っていた。食券を手渡してバリカタの麺を頼むと、配膳まで数分とかからない。初日の「博多一双」から数えて3杯目。豚骨ベースには違いないが、透明感の高いスープは見た目通りさっぱりしていて、チャーシューは薄切り、牛丼さながら紅しょうがをトッピングできる。550円という良心的な価格も含め、これぞ自分好みのラーメンだった。喉越しの良さはまるで味噌汁を啜っているかのようで、思い出したのは東京の築地場外市場で食べた「若葉」のラーメンだが、あのときも朝だった。

ネット上では6時となっていたが、実際は5時から営業しているらしく、賑わっていた店内には隣接する市場で仕事終わりの人も多いのだろう。すぐ隣には、2日目に博多駅で食べた「長浜ナンバーワン」。さすがは本場、店の表示板がだいぶ手前に設置されているのも頷けた。翌日、帰路につく前に4杯目も考えたが、選んだのは「因幡うどん」。3日連続の豚骨ラーメンに加え、前夜の同行者との打ち上げはもつ鍋。もうすぐ四十路に入るというのに、濃い味に塗れた胃袋をいたわって、細うどんにレモンを振り掛けた。目標は達成できなかったものの、「元祖長浜屋」の朝ラーメンで締めくくれたのだから、それでもう満足だった。

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