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K-1が熱々のスープだった頃 第3のリベロ Vol.18

J SPORTSの老舗番組、デイリーサッカーニュース「Foot!」は、30分あまりで教養を豊かにしてくれることが多い。例えば、イタリアには「温め直したスープ」という意味の熟語があると学んだ。調べてみると、発音はわからないが、「Minestra riscaldata」と綴るそうだ。ひとたび冷めてしまったスープは、温めたところで出来立てほどには美味しくならない。わかりやすく、共感できる表現だ。セリエAでは、キャリア晩年に古巣へ復帰したものの若かりし頃の輝きを取り戻せなかった選手のことを指して用いられるそうで、ミランのカカーらの顔が浮かぶ。

那須川天心と武尊の決戦をメインイベントとする「THE MATCH」。久々に格闘技界が話題を提供してくれたのを喜んでいたら、諸般の事情で地上波中継が消滅。やむなくABEMA TVでの視聴を検討してみたが、一般チケットの料金は5,500円。UFCをはじめ、いろいろ観られるWOWOWが2,530円。値上げしたDAZNでも、3,000円。それぞれの月額料金を超えるとは、率直に言って高い。むかしスカパーではPRIDEのペイ・パー・ビューも3,000円程度だったと記憶しているから、やはり高い。購入に踏み切れなかったことで、軽量級路線へ転じて再生したK-1、および立ち技格闘技は、私にとって「温め直したスープ」なのだと実感する。

1990年代、中高生の頃に地上波中継で観ていたK-1、それは熱々のスープだった。中学3年間に当たる1996年から1998年にかけてのグランプリ覇者は、アンディ・フグ、アーネスト・ホースト、ピーター・アーツのビッグ3。それぞれ踵落とし、ローを主軸としたコンビネーション、右ハイキックという代名詞も備えていた。1997年には極真の世界王者フランシスコ・フィリォが参戦して一撃伝説を築き、そのフィリオをロープに弾き飛ばす左ストレートによるKOが「1000年に一度」と称されたジェロム・レ・バンナが無冠の帝王として君臨。多士済々のファイターがしのぎを削った時代、バンナがアーツと激闘を展開し、そのバンナに逆転勝ちしたホーストがミルコ・クロコップも破り2度目のグランプリ制覇を成し遂げた1999年などは、絶頂期だったと思う。ムエタイが絶対的な地位にある軽量級ではなく、重量級に活路を見出した慧眼が評価され、アントニオ猪木と共に大晦日の対抗戦を実現するなど、石井和義館長のプロデュースにも愉しませてもらった。

あの輝かしい思い出から、もう20年以上が経った。選手の世代交代が進まなかったうえ、スキャンダルにより石井館長が表舞台から退場を強いられたことも重く響き、ブームの終焉とともにK-1の社会的ステイタスは急降下し、私自身の関心からも逸れてしまった。RIZINが勃興した2015年以降、ときおり地上波で放送されるようになり、天心という待望のスターも誕生したとはいえ、2000年前後ほどの熱量は取り戻せないまま、格闘技は再び地上波から放逐されようとしている。リングサイド最前列のチケットは破格の300万円でも即完売したのを思えば自分が惨めになるが、はたして明日のゴングまでに、このスープへスプーンが伸びるだろうか。

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