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大人も子どもも笑わせて 第3のリベロ Vol.17

アラフォーともなると、第一線で活躍している人のなかで、子どもの頃から見てきた人はどんどん少なくなってくる。一昨年は、その数少ない存在だった志村けんさんが、コロナウイルスに伏して突然この世を去った。日本中がウイルス禍の重苦しさに困惑するなか、国民的コメディアンが帰らぬ人となり、さらなる痛撃を浴びせられた気分になった。キャラクターを演じるお笑いに関しては、最後まで人後に落ちなかったと思う。バカ殿や変なおじさんもさることながら、個人的に一番笑わせてもらったのは、ひとみ婆さん。子どもの頃に見たのと変わらない内容なのに、いい大人になってから見ても面白かった。

あれから2年あまり。志村さんを師匠と慕い、リアクション芸の第一人者だった上島竜兵さんが急逝した。お笑い芸人のスタンスや方向性には、大きく二通りあると思う。一つは、芸人の肩書に誇りを抱き、そのステイタスを高めたい意思が垣間見える野心的なタイプで、代表格はビートたけしや松本人志だろう。もう一つは、あくまでも笑いを届ける役回りに徹し、ステイタスには頓着が無い楽天的なタイプで、同じビッグネームでも、志村さんや明石家さんまなどは後者に類するのではないだろうか。上島さんは、純然たる楽天志向の芸人だと、てっきり思い込んでいた。

「押すなよ!絶対押すなよ!」ダチョウ倶楽部の代名詞といえば熱湯風呂で、その主役が上島さんだった。「おめでとうございま〜す!」かつて、海老一染之助・染太郎の繰り広げた傘で毬を回す芸を見ると晴れがましい心地になったのを記憶しているが、熱湯風呂はそれに取って代わる伝統芸になった感があった。「絶対押すなよ」は「いま押せ」の合図。言葉の字面とは裏腹の"フリ"がAIに理解できるか、言語学や情報科学の専門家が真面目に実験した本もあるらしい。これほどの認知度と好感を築いてきた芸人に対しては、たけしもさんまも哀悼のメッセージを発していて、タイプを問わず敬愛を集めていたのがわかる。「笑いは自然界にはなくて、すべて人間が作り出している」との言葉を送ったのは三谷幸喜だが、別ジャンルの巨匠をも涙ぐませる笑いを作り出すため、人知れず苦しんでいた上島さんを想うと切なくなる。

こちらも志村さんとは親しい飲み仲間だったという千鳥の大悟が、以前「アメトーーク」で語っていた。子ども番組に出演するようになったが、子どもが笑ってくれた時はスタッフは真顔で、スタッフにウケたら子どもはポカンとしている。自分はまだ子どもと大人を同時に笑わせたことがない、と。今をときめく売れっ子でも難しい芸当を、長年にわたり飄々とやってのけたのが、志村さんであり、上島さんだった。

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