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Talkieを産み出した企業MiniMax: 中国発のAIユニコーン

MiniMaxは、中国AI大手の商湯科技(SenseTime)の元幹部が2021年に設立した企業で、テキスト・音声・画像に対応した高度なマルチモーダルAI技術を備えている。 24年3月には、アリババグループから6億ドル(約930億円)超を調達し、評価額が25億ドル(約3900億円)を超え「中国大模型ユニコーン」として注目される企業で、主力の大規模AIモデル「ABAB 6.5シリーズ」を展開していおり、特に注目されるのが、AIコンパニオンアプリとなっている。

今年、中国でAIコンパニオンアプリのダウンロード数1位を獲得した「星野」、およびアメリカで同カテゴリーのダウンロード数第1位となった「Talkie」は、いずれもMiniMaxの製品です。特に「Talkie」は、抖音(TIKTOK)以外で世界的に影響力を持つ中国発のモバイルアプリとして大きく注目されています。

「Talkie」のグローバル月間アクティブユーザー数は1100万人に達し、そのうち半数以上がアメリカからのユーザーで、他にフィリピン、イギリス、カナダが含まれ、Character.aiの月間アクティブユーザー数1700万人との差は徐々に縮まっています。現在、TalkieはCharacter.aiの60%の規模にまで成長しています。

企業設立背景

2021年12月、ChatGPTはまだ発表されておらず、OpenAIもそれほど注目されていませんでした。その時期、商湯科技(SenseTime)が上場を控えていた中、闫俊杰(ヤン・ジュンジエ)は商湯を離れ、MiniMax稀宇科技を設立しました。

MiniMaxの最初の製品「Glow」は、2022年10月にリリースされました。この製品の核心的な体験は、シンプルなAIチャットです。ユーザーは自分自身のアバターを作成し、チャット相手の背景、性格、価値観などを設定できます。さらに、対話を通じて、アバターの話し方や口調、口癖なども調整可能となっていました。

Glowはリリースからわずか4ヶ月でユーザー数が500万人に達し、特に若者の間で人気を博し、MiniMaxの知名度を一気に引き上げました。しかし、2023年3月、中国当局の規制によりGlowがサービス停止事態になり、その後、MiniMaxは海外市場にシフト、2023年6月に「Talkie」をリリースしました。さらに、2023年9月には中国市場向けに「星野」アプリをリリースし、Talkieと星野がMiniMaxのAIコンパニオンアプリの主要なサービスとなっています。

チーム構成と専門的背景

MiniMaxのコアチームのメンバーは、ほとんどが商湯科技(SenseTime)出身で、世界的に有名な大学やトップクラスのテクノロジー企業から集められた技術者たちで構成されています。自然言語処理、音声、コンピュータビジョン、コンピュータグラフィックスなど、各分野で豊富な経験を持ち、数多くの国際特許を保有するなど、業界と学術界での実績があります。

(1) 闫俊杰(ヤン・ジュンジエ)——CEO、共同創設者

闫俊杰はMiniMaxの創設者兼CEOで、中国科学院自動化研究所(中国で最も早期に設立された脳機能の研究を行う国立機関)の出身。以前は商湯科技で副社長、商湯科技研究院の副院長、そして汎用知能技術の責任者を務めていました。商湯科技では、深層学習のツールチェーンと基盤アルゴリズムの構築、汎用知能の技術発展を担当し、顔認識やスマートシティ関連の技術体系も手掛けました。深層学習とコンピュータビジョンの分野では、100以上のトップカンファレンスやジャーナルに論文を発表し、Google Scholarでの引用数は1万回を超えています。

(2) 周彧聪(ジョウ・ユツォン)——共同創設者

周彧聪はMiniMaxの共同創設者で、北京航空航天大学を卒業。商湯科技の初期社員の一人であり、商湯科技研究院でアルゴリズムチームを管理していました。学生時代には、世界大学生スーパーコンピュータコンテストASC15の総決勝や国際スーパーコンピュータ会議ISC17で優勝した経験があり、また、2019年の国際コンピュータビジョン会議(ICCV)のチャレンジに参加し、iQIYI-Largeトラックで優勝しました。周彧聪は香港中文大学マルチメディア研究所と商湯が共同で構成するチームのトレーニングプラットフォームの構築とメンテナンスを担当していました。

(3) 杨斌(ヤン・ビン)——技術パートナー

杨斌はMiniMaxの技術パートナーで、中国科学院自動化研究所を卒業しています。彼はUber AI研究所で勤務しており、自動運転トラックの分野で長年の研究開発経験があります。また、データ駆動型のエンドツーエンド無人トラック輸送問題についても研究しています。

MiniMaxのサービス・製品紹介

MiniMaxは主にそのAI伴侶製品であるTalkieと星野で注目されています。さらに、AI助手の海螺AIやMiniMax開発プラットフォームも提供しています。

MiniMaxは、そのAIコンパニオンアプリ「Talkie」と「星野」で注目を集めています。さらに、AI助手の「海螺AI」やMiniMax開発プラットフォームも提供しています。

(1) Talkie

「Talkie」は2023年6月末に海外のGoogle PlayとApple Storeでリリースされ、主に北米市場をターゲットとしています。これは、MiniMaxがGlowを海外向けに展開した後の新たな製品です。

Sensor Towerの最新データによると、「Talkie」は2024年6月にアメリカのAIアプリダウンロードランキングで第5位にランクインしました。今年1月から6月までのアメリカ市場での累計ダウンロード数は380万回に達し、AIアプリ全体では第4位、AIコンパニオンアプリでは第1位となり、Character.AIのダウンロード数を大幅に上回っています。

現在、「Talkie」のグローバル月間アクティブユーザー数は1100万人に達し、その半数以上がアメリカからのユーザーです。他の主要市場にはフィリピン、イギリス、カナダなどが含まれています。ユーザー数においても、Character.AIの1700万人との差が徐々に縮まっており、現在はその60%の規模に達しています。

「Talkie」の最大の魅力は、AIキャラクターのカスタマイズ機能です。ユーザーはプラットフォーム上で独自のAIアバターを作成でき、外見や声の特徴、性格や好みなどを調整することで、自分だけの専属チャットパートナーを深くカスタマイズできます。複数の音声サンプルが提供されており、それぞれの音声の割合を調整することで、自分好みの声を作り出すことが可能です。また、従来のAI音声の硬さや不自然さを解消し、会話の没入感を大幅に向上させています。

さらに、「Talkie」には「カードコレクションとトレーディング」という魅力的な機能も備えています。ユーザーはAIキャラクターとのチャットやインタラクションを通じて、様々なCGカードをランダムに取得できます。ただし、カードは毎日1回無料で引くことができ、追加でカードを引くには課金が必要です。

(2) 星野

2023年9月、Glowが規制されてから6ヶ月後、MiniMaxは中国で新しいAIコンパニオンアプリ「星野」をリリースしました。「星野」はApple Storeのソーシャルアプリダウンロードランキングで最新26位にランクインし、中国のAIコンパニオンアプリ市場でリーダーの座を確立しています。

量子位智庫が発表した『中国AIコンパニオンアプリ6月データレポート』によれば、「星野」の2024年上半期のダウンロード数は約900万回で、2位以下のアプリと大きな差をつけています。アクティブ度に関しても、2024年6月の「星野」のDAU(日間アクティブユーザー数)は50万人弱で、AIコンパニオンアプリの中では圧倒的な優位性を持っています。2位の「猫箱」のDAUはわずか5万人を少し超える程度です。

「星野」は、最先端のマルチモーダルAIGC技術に基づいており、ユーザーが自由にAIアバターを作成し、共有できるコンテンツコミュニティを提供しています。ユーザーは知能体とパートナーシップを築き、エンターテインメント、仕事、学習などのシーンで感情的な価値を提供します。

星野の特徴

超リアルなアバター: 「星野」は、ユーザーが好みに応じてアバターの外見や声を設定できる機能を提供しています。アバターの性格特性も簡単な説明で自由にカスタマイズ可能で、対話を通じて調整・強化することで、ユーザーが望む性格や設定に仕上げることができます。

豊富な選択肢: 数百万種類のユーザー作成アバターがあり、アプリ内でランダムに表示されます。現実の生活でさまざまな人や物事に出会うように、ユーザーが興味を持つアバターを見つけやすくなっています。

没入型インタラクション: 「星野」はAIGC技術を活用し、滑らかで表現力豊かなユーザー体験を提供します。テキストや音声など複数のインタラクション方式を取り入れ、ユーザーのアバターへのニーズを満たし、対話を立体的で没入感のあるものにしています。

星念体系と取引機能: 「星野」独自の「星念体系」は、アバターとユーザーの「記憶写真」であり、ユーザーとアバターの唯一無二のストーリーを記録します。これらはダウンロードしてチャット背景に設定したり、取引市場に出品したりすることができます。さらに、ユーザーは創造したキャラクターを経済的利益に変えることができ、取引の分配金を受け取ることができます。

「星野」は、ユーザーの創造力を引き出し、魅力的なキャラクターを作成することを奨励し、星念の取引システムを通じて経済的な利益を得る機会を提供しています。

海螺AI

2024年5月、MiniMaxは新たに「海螺AI」を発表しました。このAIツールは、MiniMaxが開発したマルチモーダル大規模モデルを搭載しており、その中には万億パラメータを持つMoE大言語モデルabab6.5、音声大モデル、画像大モデルが含まれています。

「海螺AI」は高い処理能力を特徴としており、最大200kトークンのコンテキスト長をサポートし、1秒以内に約3万文字のテキストを処理できます。この能力により、書籍や長文レポート、学術論文などの長大なコンテンツの読解、分析、テキスト作成が効率的に行えるとされています。

ユーザーは「海螺AI」に公式ウェブサイト(hailuoai.com)またはiOSおよびAndroidのアプリストアを通じてアクセスできます。アプリはテキストメッセージの送信、画像、PDF、PPT、TXT、DOCXなどのファイルのアップロード、音声での操作など、複数のインタラクション方法をサポートしています。

「海螺AI」は、ユーザーの感情や思考を理解する能力を持つとされ、会話が途切れず、ユーザーのニーズに応じたサポートを提供します。ユーザーは、AIの口調や応答からその個性を感じ取ることができるとされています。MiniMaxは、ユーザーが技術の複雑さを意識することなく、直感的に利用できる製品を目指しているとしています。

MiniMaxオープンプラットフォーム

MiniMaxオープンプラットフォームは、大規模モデルアプリケーション向けの企業ソリューションを提供しています。このプラットフォームは、企業や開発者向けに多機能で使いやすいAPIを提供し、開発の複雑さを軽減することを目指しています。これにより、迅速に特定の用途での価値を検証し、展開できるとされています。

現在、MiniMaxは最新のabab 6.5シリーズモデルとabab 6モデルを提供しています。

大規模モデル

2024年4月17日、MiniMaxは正式にabab 6.5シリーズモデルを発表しました。MoE(Mixture of Experts)アーキテクチャが業界標準となる前に、MiniMaxはその80%以上のリソースをMoEに投入し、2024年1月には中国初のMoEアーキテクチャに基づくabab 6を発表しました。3ヶ月後には、さらに強力なabab 6.5を開発しました。

abab 6.5シリーズには2つのモデルがあります。abab 6.5は万億パラメータを持ち、200kトークンのコンテキスト長をサポートしています。一方、abab 6.5sは同じトレーニング技術とデータを使用しながら、より効率的に動作し、同じく200kトークンのコンテキスト長をサポートし、1秒以内に約3万文字のテキストを処理できます。

各種の核心能力テストにおいて、abab 6.5はGPT-4、Claude-3、Gemini-1.5などの世界最先端の大規模言語モデルに近い性能を示しています。SuperCLUE(中国汎用大型モデルの総合評価ベンチマーク)の2024年6月のランキングによると、MiniMaxのabab 6.5は第5位にランクインし、通義千問2.5(アリババLLM)と同じ評価を受けています。

MiniMaxの評価額と資金調達状況

MiniMaxの最新評価額は25億ドル(約180億元)を超え、これまでの資金調達総額は9億ドルを超えています。

天使ラウンドの資金調達

2022年1月、MiniMaxは天使ラウンドで2000万ドルを調達し、この時の評価額は2億ドルでした。このラウンドには高瓴资本(Hillhouse Capital)、米哈游(miHoYo)、IDG、そして云启资本(Yunqi Capital)などの投資者が参加しました。

Aラウンドの資金調達

2022年5月、MiniMaxはAラウンドで5000万ドルを調達し、評価額は5億ドルに達しました。この資金調達ラウンドには明势资本(Ming Shi Capital)と既存の株主が参加しました。

Bラウンドの資金調達

2023年6月にはBラウンドで2.5億ドル以上を調達し、評価額は12億ドル近くに達しました。このラウンドの投資者には腾讯(Tencent)、绿洲资本(Oasis Capital)、小红书(Xiaohongshu)、そして顺为资本(Shunwei Capital)が名を連ねています。

Cラウンドの資金調達

2024年3月にはCラウンドで6億ドルを調達し、評価額は25億ドルを超えました。このラウンドではアリババ(Alibaba)がリード投資を行いました。

まとめ

MiniMaxは、中国の「大模型ユニコーン」の一つとして注目されるAI企業で、特にAIコンパニオンアプリ分野に強みを持っています。中国では厳格なオンラインコンテンツ管理が行われている中で、多くのアプリが強制的に削除されていますが、MiniMaxの「星野」はその中で最も成功を収めたアプリの一つです。

同社の「Talkie」は直接海外市場に進出し、北米のAIコンパニオンアプリ市場で高い評価を得ています。2024年6月には、アメリカのAIアプリダウンロードランキングで第5位にランクインするなど、競争力の高さを示しています。

AI大規模モデルの競争は激化していますが、MiniMaxはAIコンパニオンというニッチな分野に注力することで、特定の方向での突破口を開いています。AIコンパニオンはゲーム分野でも応用が進んでおり、これが同社がmiHoYoやTencentから投資を受けた理由の一部です。

MiniMaxのリーダーシップの下、AIコンパニオン分野は革新と変革を迎えています。星野とTalkieは、仮想的なソーシャル体験の認識を再構築するだけでなく、新たな感情的なコンパニオンの可能性を開いています。技術の進歩と市場の拡大に伴い、MiniMaxは独自の視点と優れた製品で、グローバルなAI領域で重要な地位を占めています。

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