「この傘誰の?」
学校では、必ずと言ってもいいくらい持ち主不明の傘が現れる。
終業式などで「この傘誰の?」と聞かれるのに、誰も手を挙げない。
学校にあるということは、必ず人が運んだものなのに、誰も名乗り出ないなんておかしい。
忘れちゃったのかなあ、PUMAのロゴとか入っているのになア、お母さんに怒られないかなあ、等と私はぼんやり考えていた。
そして、「そういえばあの傘はどうなったのだろう」と、学生でなくなってしまった今でも考えたくなる時がある。
本当にあの傘は、誰かが忘れてしまったものだったのだろうか。
もしかすると、傘を持ってきた誰かは、学校に傘を捨てたのかもしれない。「この傘誰の?」と聞かれている教室で、そっと息をひそめて時間が過ぎるのを待つ。あるいは一緒になって「誰のだろうねえ」などと話す。
そうだとしたら、彼らは賢いのではないだろうか。
いらない傘、捨て方もよく分からないなら、使ってくれそうなところに捨てる。そして荷物も軽くなる。
可愛い狡猾さだ。
あれから持ち主不明の傘は、学校の置き傘になり、誰かの窮地を救ったのだろう。
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