外資系メーカーに勤める公認会計士の日常|12. 監査法人と会社経理の決定的な違い

会計士にとって会社経理の仕事は想定内?

公認会計士のキャリアとして、最初の数年間を監査法人で過ごし、その後に一般事業会社に転職するというのはよくある話です。(もちろん監査法人で長く勤める人もいますし、いわゆる事業会社でなくコンサル系の仕事をされる方も多いです)

監査法人勤務当時の私は、「監査法人でも、会社の経理部でも、会計士としての知識があれば同じようにやっていけるよね!」と思っていました。なぜかというと、監査法人時代にクライアント先でやりとりする相手は会社の経理部の方々だったわけで、その仕事は既にあらかた知っていて、なんならすぐにでも戦力になれると思っていたからです。

その考え、半分当たってるし、半分間違ってました。私の経験をもとに、監査法人vs 会社の経理部、何が同じで何が違うか解説していきます!

なお、このnoteでは、「経理部」を決算や経理の実務を行う部署、「ファイナンス部門」を経理部やコントローラー、経営企画部なども含めたより広範な部門として、言葉を使い分けたいと思います。

同じなのは「専門性」

会計知識という専門性が求められるのは、監査法人でも会社の経理部でも同じです。前回のnoteでも書きましたが、監査法人に勤めていると、自分で意識していなくても、会計に関する最新情報がきちんとインプットされている状態になっています。しかも、当たり前ですが会計士なら仕訳を切ったり理解するなんて朝飯前!会社の経理部って、意外と経理畑一筋じゃない人も多いし、逆に経理畑一筋の人も体系的に会計を学ぶ機会に恵まれていなかったりします。きちんと会計の知識を身につけているという専門性は、どの会社の経理部に行っても重宝されると思います!

有利なのは「全体を捉える力」

そして、会計士たるもの「なぜこの数字になるのか?」を常に問いかける職業的懐疑心を身につけていると思います。これ、翻って考えると、ビジネスが数字に落とし込まれるまでの全体を、きちんと把握する力なんだと思っています。

つまり、「なんで去年よりこんなに売上が上がってるの?」「急に上がってるこの費用なに?」といった疑問の答えを見つけていく中で、「どんなビジネスが展開していて、どんな収益があがり、どんな投資や費用があって、結果的にこんな決算数値になっていく」…という、数字の裏のストーリーを捉えることができるのです。これは、会計士が今まで数々の監査現場で職業的懐疑心を発揮することで自然に培ってきた力であり、この力を元々持っているのは会社の経理部、ひいてはファイナンス部門のどんな役割であっても、非常に有利な能力だと思います!

必要なのは「細かいことでも根気よく対応していく力」

監査法人に勤めている人だってもちろん根気強いと思います。でも、監査調書作成の免罪符である「金額的重要性がないと判断し、これ以上の検討を省略する」!この文言に助けられている人って多いんじゃないでしょうか?(注:簡単に解説すると、監査では、全体に影響しないようなあまりに瑣末な間違いは無視してもいいことになっています)

でもね、会社の経理部にはこの免罪符がないんですよ!!監査法人時代には想像もしなかった細々したことに常に対応していかなきゃいけないのです。この固定資産捨てたいんですけどどうしたらいいですか、ベンダーさんからもらった請求書が間違ってたんですけどどうしたらいいですか、社内プロセスをこんな感じに変えたいんですけど経理部的に問題ありますか、やれこっちの申請書がどうだ、あっちの社内規定がどうだ…。

監査人時代の感覚だと「正直金額ちっちゃいから適当にやっといてくれ…」と心の中で思ってしまう時もなくはないのですが、社外とのお金のやりとりなら小さい金額でも間違いは許されないし、内部統制的なことにしたって監査で見られるリスクが低い部分でもきちんと整備運用しているのです。こういう部分をめんどくさがらず対応できる根気強さがあると、会社の経理部でサバイブしていけると思います。

但し、めんどくさいという気持ちを良い方向に発揮して、社内プロセスの簡素化や効率化に邁進するのはもちろん素晴らしい!なので、日々のめんどくさいことに対応する根気強さが欲しいと同時に、めんどくさいというフィーリングはなくさずに改善活動をリードできれば、監査人として培った能力を最大限発揮できるのではないかと思います。

違うのは「稼ぎ頭」なのか「バックオフィス」なのか

監査法人で監査スタッフとして働くことと、会社の経理部で働くこと。私が思う一番の違いは、自分が売上に直接貢献する稼ぎ頭なのかどうか、です!

こんなこと監査法人で勤めていた時は考えもしませんでした。監査法人にも監査業務以外の仕事をしている人はたくさんいたはずですが(それこそ経理部とか)、私は監査チームに入ってクライアントにサービス提供する稼ぎ頭だったわけですね。

一方、会社の稼ぎ頭は一般的には営業マンのみなさんだと思います。会社の経理部はその方々を支えるバックオフィスの一部なのです。

私にとって、このいわゆるフロントとバックの違いはかなり痛感するものでした。例えば、フロント部署(監査法人なら監査業務をする部署、会社なら営業部)って、対象業界や対象商品などで分かれて、部がたくさんある!イメージ的には営業1部、営業2部…みたいな感じ。当然組織の中で人数も一番多いし、出世コースで言えばストレート、隣の部にスライドもできるし、実はポジションが無限にあったんだなと思いました。

他方バックオフィスはというと、まず人数が少ない!いや、本当にすごく少ないわけじゃなくても、全く同じ仕事を担当している人が全然いない。バックオフィスは稼ぎ頭でない以上、バッファーにできるような人数を抱えられないのです。例えば私が在庫担当だとして、隣の人は売上担当、またその隣は固定資産担当…のように、一人ずつ別の業務を任されている感じです。

担当がそれぞれ違うのなんて、監査スタッフだってだって、同じじゃないの?と思いますか?でも、監査スタッフと経理部の両方を経験した私からすると、経理部の方が全然替えがきかないことを実感しています。監査法人に勤めている方なら誰しも、隣のチームに急に欠員が出て、ヘルプ要員で入ったクライアントで、初日から調書をばんばん仕上げていく経験をしたことがあるのではないでしょうか?経理部の業務って、たとえ隣に座っていても、在庫担当と売上担当がやっている日々のルーティン業務が全然違っていて、お互いカバーし合おうと思ったら、お互いの仕事を新しく覚えるしかないのです。

そういうわけで、監査スタッフの方が、新しいクライアントに行ってもすぐ活躍できる、仮に休んでも誰かがすぐフォローできる、それに人数が多いということは管理職ポジションも多く、出世する先もたくさんあるという良さがありました。経理スタッフはそういう面で難しさがあることは否めないかなと思います。

でもでも、安心してください!私は経理部で働くことについて悲観的なわけでは全然ありません。会社の経理部/ファイナンス部門でのキャリアパスについてはまた別の機会に考えてみたいと思います。

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今回は監査法人で働くことと、会社の経理部で働くことについて対比してみましたが、いかがでしたでしょうか?最後の方は「あれ?経理部で働くのって微妙?」という印象を与える論調になってしまったかもしれませんが、経理部の良さもたくさんありますので、またご紹介していきたいと思います!

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