見出し画像

主述関係の四つの型〈アリストテレス『カテゴリー論』第7章-2〉

「SはPである」は一般的な命題の形だが、これはSとPという二つの概念から構成されている。両概念は組み合わせられることによって関係をもつ。僕はその関係には四つの型があり、それは、両概念の準ずる全称命題と特称命題の真偽、両概念各々の周延関係によって区別されると考えている。

アリストテレス『カテゴリー論』第7章では、概念間の種々の関係を扱うが、それらの関係はお互いに均質的なものではなく、上の区別を念頭に説明されている。しかし、アリストテレス自身、その関係の区別にどれほど自覚的であったかは定かではない。なぜなら、同書では周延の概念についての明確な記述がないからだ。当稿ではそれを補い、より完備な主述関係の区別を提示するよう努めた。それでは表記法や言葉の確認からしていこう。

AaBは、「Aは全てのBに属する」と読む。便宜上、Aを属性、Bを実体とイメージしてもいい。
Aは関係的なものを、Bはそれと相互換位されるもの(できるものとは限らない)を指す。たとえば、「翼(を有つこと)」と相互換位されるものは「有翼のもの」で、「陸に棲むこと」と相互換位されるものは「動物」である。(ちなみに、前者の両項の関係においては相互換位が成立するが、後者においては相互換位は成立しない。)

また、Aは関係的なものだけではなく、関係的なものから派生名的な仕方で名称を与えられたものを指すこともある。たとえば、「翼(を有つこと)」から派生名的な仕方で名付けられるものは「有翼のもの」で、「陸に棲むこと」から派生名的な仕方で名付けられるものは「陸に棲むもの」である。

次に、概念について言われる周延distributedと不周延undistributedだが、これはたとえば、「哺乳類a犬: 哺乳類は全ての犬について言われる」と言うとき、「哺乳類」は不周延(哺乳類:Uと表記)(「犬a哺乳類: 犬は全ての哺乳類について言える」が偽だから)、「犬」は周延(犬:Dと表記)(「哺乳類a犬: 哺乳類は全ての犬について言える」が真だから)している、と言われる。

1.TTDDFF型
AaB:T and BaA:T
AiB:F and BiA:F
A:D and B:D

A:理性を有つこと
B:人間

全称命題
「理性を有つことは全ての人間について言える」:T
「人間は全ての理性を有つものについて言える」:T

特称命題
「理性を有つことは一部の人間について言える」:F
「人間は一部の理性を有つものについて言える」:F

理性を有つもの:D
人間:D

2.TFUDFT型
AaB:T and BaA:F
AiB:F and BiA:T
A:U and B:D

A:翼を有つこと
B:鳥

全称命題
「翼を有つことは全ての鳥について言える」:T
「鳥は全ての翼を有つものについて言える」:F

特称命題
「翼を有つことは一部の鳥について言える」:F
「鳥は一部の翼を有つものについて言える」:T

翼を有つもの:U
鳥:D

3.FTDUTF型
AaB:F and BaA:T
AiB:T and BiA:F
A:D and B:U

A:奴隷を有つこと
B:人間

全称命題
「奴隷を有つことは全ての人間について言える」:F
「人間は全ての奴隷を有つものについて言える」:T

特称命題
「奴隷を有つことは一部の人間について言える」:T
「人間は一部の奴隷を有つものについて言える」:F

奴隷をもつもの:D
人間:U

4.FFUUTT型
AaB:F and BaA:F
AiB:T and BiA:T
A:U and B:U

A:陸に棲むこと
B:動物

全称命題
「陸に棲むことは全ての動物について言える」:F
「動物は全ての陸に棲むものについて言える」:F

特称命題
「陸に棲むことは一部の動物について言える」:T
「動物は一部の陸に棲むものについて言える」:T

陸に棲むもの:U
動物:U

【解説】

まず、種差(差異特性)となりうる概念を思い出そう。たとえば、「動物」に対する「陸に棲むこと」、「人間」に対する「奴隷を有つこと」などが種差(差異特性)と呼ばれるのであった。動物には陸棲のもの以外に水棲のものもいるし、人間には奴隷を有つものと奴隷を有たないものがいる。この意味で、上の二つの概念は、各々他方の概念の内を分割する種差(差異特性)、また各々他方の概念ついて偶然的(偶有的)に伴う概念、つまり偶有性(或いは付帯性)であると言える。
種差(差異特性)は3.FTDUTF型と4.FFUUTT型に共通の観点を与えるが、では、両者の相違点はどこにあるのか。
人間でない奴隷を有つものは存在しないが、動物でない陸に棲むものは存在する、という点で両者は相違する。これは、「人間は一部の奴隷を有つものについてのみ言えるというわけではない」と「動物は一部の陸に棲むものについてのみ言える」の相違と言え、両者の相違点はBiAの真偽に還元できる。ちなみに、3.FTDUT(F)型と1.TTDDF(F)型はBiA:Fという点で共通するので、3.FTDUT(F)型と4.FFUUT(T)型の相違点が、3.FTDUT(F)型と1.TTDDF(F)型の共通点となる。

次に、本性となりうる概念を思い出そう。たとえば、「鳥」に対する「翼を有つこと」、「人間」に対する「理性を有つこと」などが、本性と呼ばれるのであった。翼を有たない鳥は存在しない(それが鳥である以上、必ず翼を有たなければならない)し、理性を有たない人間は存在しない(それが人間である以上、必ず理性を有たなければならない)。この意味で、上の二つの概念は、各々他方の概念について必然的に伴う概念、つまり本性であると言える。
本性は1.TTDDFF型と2.TFUDFT型に共通の観点を与えるが、では、両者の相違点はどこにあるのか。
人間でない理性を有つものは存在しないが、鳥でない翼を有つものは存在する、という点で両者は相違する。
これは、「人間は一部の理性を有つものについてのみ言えるというわけではない」と「鳥は一部の翼を有つものについてのみ言える」の相違と言え、両者の相違点はBiAの真偽に還元できる。ちなみに、2.TFUDF(T)型と4.FFUUT(T)型はBiA:Tという点で共通するので、2.TFUDF(T)型と1.TTDDF(F)型の相違点が、2.FTDUF(T)型と4.FFUUT(T)型の共通点となる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?