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述語様式〈アリストテレス『トポス論』岩波新版 第一巻 29-33頁 読書録2〉

4つの述語様式

1.定義

本質を示す説明規定(本質規定、ロゴスのこと)を「定義」と呼ぶ。
i.名称の代わりに本質規定が提示される場合
ex.
「人間」と呼ばれる定義対象に対して「二足の陸棲動物」という本質規定を与えて定義する場合

ii.本質規定の代わりに本質規定が提示される場合
ex.
「二足の陸棲動物」という本質規定によって示された定義対象に、それとは別に「理性的動物」という本質規定を与えて定義する場合

iii.名称を用いて提示される場合、それを「定義」とは呼ばない
ex.
火を噴く新種の昆虫を「ヒフキムシ」と定義する場合、これは定義しているのではなく名称を与えているだけで、強いてこの昆虫のホリスモス(定義式)となり得るものを探すなら、例えば「火を噴く昆虫」という本質規定が考えられる。
→ホリスモス(定義式)は何らかのロゴス(説明規定、本質規定)でなければならない。

また、ホリスモス(定義式)には、同じか異なるかという点が争点で、その意味で「美しいとは整理されているということだ(美しいということと整理されているということは同じだ)」と「感覚と知識は同じか、それとも異なるか(感覚は知識である、知識は感覚である)」は「定義的」と言える。

2.固有性

本質は示さないが、当の事物のみに当てはまり、換位的に述語づけられるものを「固有性」と呼ぶ。

i.固有性と言えるもの
ex.
「笑える(笑みの表情をもつ)こと」は人間の固有性で、「笑えるものは人間である」と「人間は笑えるものである」は両方正しく、これは、笑えるものの外延と人間と呼ばれるものの外延はピタリと一致することを意味する。しかし「笑えるもの」は人間の定義ではない。外延と内包の絶妙な関係がここでは問題提起されている。
cf.媒介しえない両者の一致の問題としての心身問題
→脳内物質と心的意識のように、笑えるものと人間と呼ばれるものはピタリと一致するが、心身問題同様、両者を媒介するものがないため、笑えるものは人間の本質を示しておらず、それは人間の「固有性」ではあっても、人間の「定義」ではない。

ii.固有性と言えないもの、条件付きの固有性
ex.
「眠ること」は人間の固有性ではない。なぜなら人間以外の種の動物も「眠ること」ができるし、眠るものがいるとき、それが人間である可能性は否定できないが、必然的にそれを人間であるとは言えない(「眠るものは人間である」の是非は不明)から。
しかし、もしこの瞬間(こんなことは絶対ありえないが)眠っているものが一つのものを除いてなければ、「眠ること」はその唯一眠っているものの「条件付きの固有性」であると言える。このときの条件とは、その唯一のもの以外の他のもの全てが眠っていないことである。このように「条件付きの固有性」とは、何かとの関係(反対関係)や対比で「固有性」と言われるに過ぎない。

3.類

種の上で異なる複数のものに、「何であるか」の点で述語づけられるものを「類」と呼ぶ。
「何であるか」の点で述語づけられるものとは、例えば「人間とは何であるか」と問われたとき、それに対する答えとして適切なもの、すなわち「動物である」とか「哺乳類である」とか「霊長類である」とかのことで、これらは人間について述語づけることができる。

また、あるものが別のものと同じ類のうちにあるか、それとも異なる類のうちにあるかという問いは、類的な問いと言える。例えば「イルカはマグロと同じ類のうちにあるか」という問いがそう。

Q.なぜ(生物学的な類と種以外に)白いものや、美しいものは類たる資格がないのか、「何であるか」の点で述語づけることができないのか(ex.なぜ「美しいもの」は人間の「何であるか」を示せないのか)。
Q.「何であるか」の点での述語づけの可否の基準はどこにあるのか

4.付帯性

何にであれ、同一のものに当てはまることも当てはまらないことも可能なものを「付帯性」と呼ぶ。例えば「肌の白さ」で、それは夏と冬では異なる。

また、述語づけられる事柄がどちらによりいっそう付帯しているかが探求される問題として、例えば、「美しいものと有用なものとでは、どちらがより望ましいか」や「徳にもとづいた生き方と享楽に耽った生き方とでは、どちらがより快いか」といった問題が挙げられる。

また、付帯性が固有性に転化することもあり、例えば、眠っていることは付帯性だが、或る瞬間誰か一人が唯一眠っているときには、その時点においては、「眠っているものはその者である」が成り立つから、眠っていることはその唯一の者の固有性であると言える。
つまり、何かとの対比や関係(主にone(or some)/the others的な反対関係)によっては付帯性になることも固有性になることもある。

Q.何かとの関係による付帯性(some/the othersの場合)や固有性(one/the othersの場合)に対して、何かとの関係(反対関係)によらない狭義の固有性を「定義」と呼ぶのか。

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