現在完了形の意味合い、過去形との範疇錯誤、進行形との比較

日本の学校英文法では、現在完了形を学ぶとき、過去形との違いを強調して現在完了形の意味を理解しようとする。しかし、これは学習者にとって大きなミスリードだ。なぜなら、過去形と現在完了形は文法上、テンス(時制)と相(アスペクト)の関係にあり、文法カテゴリーの異なる両者の比較は範疇錯誤だからだ。

本来、現在完了形と同一範疇にあるのは過去完了形であり、この両者の総和が完了形という一つのアスペクトを構成する。つまり、現在完了形と過去完了形は「離接的(選言的)※」な関係にある。

※「離接的(選言的)」とは、同一の類概念に属する二つの概念の外延が、互いに交叉しない状況について言われる。例えば、生物という同一の類に属する動物と植物の外延それぞれは互いに排他的で交叉しない(動物でもあり植物でもある生物は存在しない)。

したがって、現在完了形が、範疇錯誤を犯すことなく理解されるならば、過去完了形との比較を通じて理解されるべきだ。以下、その実践となるが、その前に、英文を訳出するための道具である、日本語の助動詞「〜ている」の両義性(曖昧性)から話す。

助動詞「ている」の両義性

日本語の「ている」には大きく二つの意味があり、それは完了と進行だ。例文を挙げて考える。

ex1.
「(昨日)彼は学校に行っている」

ex2.
「(今)彼は学校に行っている」

日本語ネイティブなら何の問題もないと思う。
ex1.では完了が、ex2.では進行が表現されているのが確認できるだろう。
では、

ex.
「彼は学校に行っている」

ならば、どうだろう。
おそらく、完了か進行、どちらの意味で読めばいいか困惑するはずだ。ex1,2.では副詞を括弧で括ったが、これらの副詞が、完了や進行などのアスペクトを見分けるための一つの基準となることに注意されたい。また、日本語の「ている」は、普段僕たちはそれを進行を意味するものだと断定しがちだが、完了と進行という二つの意味をもつことにも注意されたい。これらの理解は、現在完了形の英文を訳出するための道具として大いに有効だ。

現在完了形と過去完了形の差異から、完了形と進行形の差異へ

早速、例文から見ていく。

ex3.
He has gone to school.

ex4.
He had gone to school.

まず、両文は完了形だから、日本語の助動詞「ている」を使って訳出できる。また、このとき注意すべきは時制で、現在完了形は日本語の現在形「る」、過去完了形は過去形「た」で閉じなければならない。この二つの操作を行うと、以下のようになり、さらに、両者の違いは、彼がいつどこにいるか/いたかという「+」以下の情報に尽くされる。

ex3.
He has gone to school.
(彼は学校に行っている。
+行った状態が継続していて、彼は今ここにいない。)

ex4.
He had gone to school.
(彼は学校に行っていた。
+行った状態が継続していて、彼はその時そこにいなかった。)

しかし、これでは、日本語の「ている」は先述の通り両義的で、完了形以外に進行形をも意味するから、今度は、完了形と進行形の両者に違いをつけられない。ここで問題は、完了形と進行形の差異へ、
つまり、

ex3.現在完了形
He has gone to school.
(彼は学校に行っている。
+彼は今ここにいない。)

ex5.現在進行形
He is going to school.
(彼は学校に行っている。)

そして、

ex4.過去完了形
He had gone to school.
(彼は学校に行っていた。
+彼はその時そこにいなかった。)

ex6.過去進行形
He was going to school.
(彼は学校に行っていた。)

の訳し分けの問題へと移る。

しかし、僕たちは先ほど、現在完了形と過去完了形の差異の考察から、存在の時間と場所という言外の付加情報が、完了形に独自的であることを見たので、それを手掛かりとすれば、また、進行形に「+」以下を補えば区別は容易となる。
(通常は、「+」以下の代わりに、これらアスペクトが問題とされるときは、具体的な文脈か、またはキーワードとなる副詞が与えられているので、この例文よりはるかに理解が容易。)

ex3.現在完了形
He has gone to school.
(彼は学校に行っている。
+行った状態が継続していて、彼は今ここにいない。)

ex5.現在進行形
He is going to school.
(彼は学校に行っている。
+その途中だ。)

ex4.過去完了形
He had gone to school.
(彼は学校に行っていた。
+行った状態が継続していて、彼はその時そこにいなかった。)

ex6.過去進行形
He was going to school.
(彼は学校に行っていた。
+その途中だった。)

今回、「行くgo」という継続動詞(読む、書く、笑うetc)を例に挙げたが、それは、継続動詞の場合、完了形に加えて進行形の形も取れるからだ。「知るknow」や「失くすlose」などの瞬間動詞の場合、進行形の形はとれない。

I have lost my way.(道に迷っている。)
I have known you.(あなたを知っている。)

とは言えても、

I am losing my way.(道に迷っている。)
I am knowing you.(あなたを知っている。)

とは言えない。


ちなみに、日本語では「て」と「い(行)っている」を補うことで、「迷ってい(行)っている」「知ってい(行)っている」と表現できる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?