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2.多義性(一巻15章)〈アリストテレス『トポス論』岩波新版 第一巻 51-60頁 読書録7〉

※未完成、とりあえず形にしただけ。加筆修正中1.13.21.1:17

0.多義性とは、本稿における簡便な表現

勇気(徳(アレテー)に属する)と健康的なものは、別々の意味において「善い」と言われる(「勇気は善い」のときの「善い」と「健康的なものは善い」のときの「善い」は意味が異なるということ)。前者はそれ自体ある性質であることによって善く、後者は何かを作り出しうることによって善い。

本稿では簡便を期して、「善いgood」の頭文字Gをとり、一つの関数に見立て、「xは善い」と言われるときの「善い」の意味(値)を

G(x)

と表現することにする。
すると、先ほどの例は、

G(勇気)≠G(健康的なもの)

を主張することで「善い」の多義性を主張していると整理できる。
ちなみに、もしこのとき「善い」が一義的なら、先程の例において、

G(勇気)=G(健康的なもの)

が成立しなければならない。

1.ある事柄が種の上で多義的か一義的か

i.反対のものが、種の上で異なり、名称の点でも異なる

ex1.「鋭いsharp」
S(音)↔︎重い
S(物体)↔︎鈍い

ex2.「重いheavy」
H(音)↔︎鋭い
H(物体)↔︎軽い

ex3.「美しいbeautiful」
B(動物)↔︎醜い
B(家)↔︎劣悪な

ii.反対のものが、種の上で異なり、名称の点では同じ

ex4.「明るいbright」
B(音)↔︎暗い
B(色)↔︎暗い

ex5.「鋭いsharp」
S(味)↔︎鈍い
S(物体)↔︎鈍い

2.一方に対しては何か反対のものがあるのに対して、他方に対しては全く何一つない

ex6.飲む乾く、対角線と辺が整数比で表せないことについて

3.一方の反対のもの同士の中間には何かあるが、他方の反対のもの同士の中間には何もない、あるいは両者ともに何か中間的なものがあるが同じものではない

ex7.「愛するlove」
L(思い)↔︎憎む
L(身体的な活動)↔︎???

ex8.「明るいbright」
B(色)↔︎灰色の↔︎暗い
B(音)↔︎???(しわがれた)↔︎暗い

4.一方の反対のものには中間のものが複数あるが、他方の反対のものには一つしかない

ex9.「明るいbright」
B(色)↔︎灰色の(複数)↔︎暗い
B(音)↔︎しわがれた(一つ)↔︎暗い

5.矛盾する仕方で対置されるものの場合に、それが複数の意味で語られている

ex10.「見えないinvisible」「見えるvisible」
I(A)↔︎V(A)
(=視力をもたない↔︎視力をもつ)
I(B)↔︎V(B)
(=視力をはたらかせていない↔︎視力をはたらかせている)
→I(A)≠I(B)
(「見えない」は多義的)

6.欠如と具有にもとづいて語られるもの

ex11.「感覚するsensible」「無感覚であるinsensible」
S(魂)≠S(身体)
I(魂)≠I(身体)
S(魂)↔︎I(魂)
S(身体)↔︎I(身体)

7.語形変化

ex12.「正しくcorrectly」「正しいcorrect」
Cly(A)≠Cly(B)
(「正しく」は多義的である)
なら
C(A)≠Cly(B)
(「正しい」は多義的である)
が成立する。

ex13.「健康的にhealthily」「健康的なhealthy」
Hly(A)≠Hly(B)≠Hly(C)
なら
H(A)≠H(B)≠H(C)
が成立する。
※具体的な意味を与えるなら、H(A):健康を作り出し得る、H(B):健康を維持し得る、H(C):健康を表示し得る等々が挙げられる

8.その名称に対応する述語づけの類(カテゴリー)についても、それが全てのものの場合に同じ

ex14.「善いgood」
G(食物):快楽を作り出し得る
G(医術):健康を作り出し得る
G(魂):ある性質(勇敢、節制的etc)である
G(人間):ある性質(勇敢、節度etc)をもっている

ex15.「明るいbright」
B(物体):白色
B(音):聞きやすい

ex16.「鋭いsharp」
S(音):速い(※数にもとづいて音階を論じる人たちによると)
S(剣):鋭い角をもつ
S(角):直角より小さい

9.同じ名称をもとにあるものの類のことも、それらが異なっていて相互に上下関係にない

ex17.「ロバ(オノスονος)」
O(動物という類):ある性質の動物、驢馬
O(装置という類):ある性質の装置、巻き上げ機winch

ex18.「カラスcrow」
C(動物という類):ある性質の動物
C(鳥という類或は種):ある性質の鳥、二足の有翼動物

10.当のものについて、それの類が異なっているか、またお互いに上下関係にないだけでなく、当のものの反対のものについて、それの類が異なっている

11.組み合わされたものに成立する定義式に目を向けることも有益。なぜなら、そのそれぞれに固有のものが取り去られるなら、同じ説明規定が残るはずだから。しかるに多義的なものの場合には、そのことが起こらない。

ex19.「明るい物体」「明るい音」
B(物体):白色をもつ
B(音):聞こえやすい
でより簡便に表現可能

12.説明規定の中に多義的なものが付随しているのが見過ごされることがしばしばある。その為、説明規定にも考察を加えねばならない。

ex20.「健康に対して適合している」
健康を表示し得る
健康を生み出し得る
身体の状態がどのようであるかを示すような性質
健康を作り出すことができるほどの量

13.「より多く」とか、同程度にとかいった仕方で比較できない

ex21.「鋭いsharp」
S(物体):物体の一種差
S(音):物体の一種差

14.類が異なっていて、上下関係にない場合、その種差も種の点で異なっているので、同じ名称のもとにあるものが、互いに異なっていて上下関係にない類の種差である

ex22.

15.同じ名称のもとにあるもの自体の種差が異なる

ex23.「色color」
C(物体):視覚を拡散(或は収縮)させることができるもの(という種差)
C(旋律):C(物体)とは別の、旋律における種差

16.種は何ものの種差でもないのだから、同じ名称のもとにあるもののうち、一方は種で、他方は種差である

ex24.「明るいbright」
B(物体):白(という色の一種)
B(音):聞きやすい(という音の種差)

cf.単称(この)と特称(いくつかの)の関係は、特定の一種と種差の関係に似ている。

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