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[降圧DCDC基礎]インダクタンス値の決定の具体的手順

いざ降圧スイッチングレギュレーターを動かそうとしたときに立ちはだかる問題として、周辺部品をどう設定したらいいの?というのがあると思います。

もしくは上司、先輩に「この部品の定数は何でこの値なの?」と聞かれ「いや、あの、前からこの定数なんす」と答えて、数時間説教を喰らった方もおられるのではないでしょうか?(私です。)

今回はそんな方向けに、降圧スイッチングレギュレーターのコイルのインダクタンス値に絞って、具体的にどうやって決めたらいいのか?を解説します。

この記事を読み終わったら、ドヤ顔で上司に「は?こういう理由で決めましたけど。なんすか?」と言いましょう。

インダクタンス値(L値)決定の具体的手順

①入力電圧範囲、出力電圧値、出力電流範囲、スイッチング周波数の動作条件を書き出します。
②出力電流最小のときの連続モード動作するL値を計算します。
③計算したL値で出力電流最大のときの最大ピーク電流値を計算します。
④それが電源ICの過電流保護値に対して十分マージンがあるかをチェックします。十分マージンがあれば、一旦これで決定します。ギリギリならL値を1段階大きくして、再計算です。これで終わりです。

L値決定の考え方

よくメーカーのデータシートを見ると「出力リップル電流の目安は出力電流値の約30%になるくらいがちょうどよい大きさとなります。」と書いてあります。これを見て昔の私はこう思ってました。
「出力電流値のmin〜max値まで取るけど、、、Typ値で計算したらいいの?約30%ってなんだよ。15%だとダメなの?45%だとダメなの?約ってなんだよ?マジふざけんなよ。」

ICメーカーは目安を提示してくれていますが、判断基準は自分で決めなければいけません。あくまでの私の考え方を提示します。
私は結局安定して動いてたらインダクタンス値が出力電流の15%だろうと45%だろうと問題ないと思っています。

私が思うインダクタンス値の決定に当たって、「安定動作」に対して気をつける点は以下の2点だと考えています。
・不連続モードに入るとノイズに悪影響が出る可能性があるので、動作範囲内では不連続モードに入らないこと。
・過電流保護に当たるとパルス制限されて出力電圧を維持出来ないので、出力電流最大時のピーク電流値が過電流保護しきい値に対してマージンがあること。

その他にも「電流モード制御の場合、ある程度リップル電流がないと安定性に影響がある」、「リップル電流が大きいと、出力リップル電圧に影響ある」など考えられますが、だいたい出力コンデンサや位相補償回路の定数によって調整出来ます。もしどうしても無理そうなら、インダクタンス値を変えればよいので、上記の考え方で決めれば良いのではと私は考えています。

この考え方を手順化すると上記の通りとなります。

具体例で考えてみましょう

以下の動作条件でL値を決定してみましょう。

入力電圧範囲[V]:min8 typ12 max16
出力電圧[V]:5
出力電流範囲[A]:min0.1 typ 0.5 max1
スイッチング周波数[kHz]:500

手順①はこれで書けているので、手順②に行きましょう。

不連続モードの境界条件は以下式になります。
(不連続モードの境界条件ついてはこの記事を参照ください。)

Io - 1/2×ΔIL = 0
ΔIL = (Vin - Vo) / L × Vo / (Vin × fsw)
L =  (Vin - Vo) / ΔIL × Vo / (Vin × fsw)

この式に手順①の動作条件を入れて計算してLを求めましょう。
最小出力電流値は0.1Aなので、

0.1 - 1/2×ΔIL = 0
ΔIL = 0.2[A]
L =  (Vin - 5) / 0.2[A] × 5[V] / (Vin × 500×10^3[Hz])

Vinがmin/typ/maxのどれで計算すればよいでしょうか?

これはΔILがでかくなるのがワーストなので、そうなるVinで計算しましょう。ここでtypだけ計算してしまうと、上司先輩の「中間の条件で動いとったらいいの?min値でおかしくなったらどうするの?そんなことくらい考えられないの?」と言うスキを与えてしまいます。細かい指摘をされないように、面倒ですがワーストで計算しましょう。

私はパット見でわからないので、VinminとVinmax両方計算します。

Vin = 8[V]
L =  (8[V] - 5[V]) / 0.2[A] × 5[V] / (8[V] × 500×10^3[Hz])
  =  18.75[uH]

Vin = 16[V]
L =  (16[V] - 5[V]) / 0.2[A] × 5[V] / (16[V] × 500×10^3[Hz])
  =  34.375[uH]

はい。L値はでかいほどΔILは小さくなるので、Vin=16Vがワーストですね。

34.375[uH]に近い実際に存在するL値を選んでおきます。今回は33uHを選択しておきます。(コイルは1uH,1.5uH,2.2uH,3.3uH,4.7uH,6.8uH,10uH,15uH...という値が存在します。)

これで決定したL値で最大出力電流時のピーク電流値を計算します。

Ipeak = Iomax × 1/2ΔIL
      = 1[A] × 1/2ΔIL 
      
ΔIL = (16 - 5) / 33u × 5 / (16 × 500k)
    = 0.2083[A]

Ipeak = 1 + 0.2083 = 1.2083[A]

計算通りΔIL=0.2A付近ですね。あとは1.2083AがICの保護機能しきい値より小さいかをチェックして終わりです。

本記事は以上です。理解のちょっとした一助となれば、幸いです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。


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