見出し画像

A都市計画制度 5-地域地区②



今回は、21種類ある地域地区について、前回述べた用途地域以外の残る20地区を紹介します。()内の数字は2023年3月時点での事例数です。

特別用途地区(841)

特別用途地区は、用途地域内の一定の地区における当該地区の特性にふさわしい土地利用の増進、環境の保護等の特別の目的の実現を図るため当該用途地域の指定を補完して定める地区とする。

都市計画法第9条14 

用途地域の規制だけでは目指す地区の将来像に辿り着かない場合に、各自治体が条例として適切な規制・緩和を行うことで望ましい都市構造を実現するものです。ピンポイントで行われることも多いため、用途地域よりも地区の実情に合わせた規制誘導がしやすいともいえます。
 具体的には特別工業地区(274)・文教地区(35)・特別業務地区(80)など多数あります。建築物の細かいルールは自治体ごとに異なります。例えば特別工業地区では、(工業系の)用途地域の制限に対して建築物の規制・緩和が行われます。文教地区は学校の周りに適応されることが多く、風俗店など学校の周囲に配置することが適切でない施設を規制することがあります。

特定用途制限地域(93)

特定用途制限地域は、用途地域が定められていない土地の区域(市街化調整区域を除く。)内において、その良好な環境の形成又は保持のため当該地域の特性に応じて合理的な土地利用が行われるよう、制限すべき特定の建築物等の用途の概要を定める地域とする。

都市計画法第9条15

用途地域が設定されていない非線引き都市計画区域(白地地域)・準都市計画区域内において、特に高速道路のIC付近では規制が緩めだったため、結果的に大規模店舗、工場や風俗施設が乱立する結果となりました。そうした施設がこれ以上建てられないように自治体が制限する仕組みが特定用途地域です。つまり特別用途地区が用途地域内のエリアの都市計画を修正するのに対して、特定用途制限地域は(市街化調整区域以外の都市計画区域のうち)用途地域がないエリアの都市計画を修正するものです。以前登場した新城長篠準都市計画区域も特定用途制限地域であって、風俗営業施設・危険物の製造工場などが規制されています。

特例容積率適用地区(2)

一部の用途地域内にて、容積率を移転できる制度です。つまり、金銭と容積率をトレードできる地区になります。用途地域等で指定される容積率に満たない建物が存在したときに、それを(適用地区内の)他の建物の容積率UPに利用できるのです。有名なのが東京駅です。赤レンガの駅舎は高さが低く、容積率(900%)が有り余っています。それを丸の内の超高層ビルの容積率割り増しに売却して、その費用で駅舎復元の予算を捻出したらしいです。もう一つの事例は2023年にLRTが開業した宇都宮駅東口です。容積率の移転は地区計画でも可能なため、わざわざこの制度を使うこともないようです。

東京駅の西側、丸の内。駅舎の容積率が丸の内のビル群に売却された

高層住居誘導地区(2)

高層住居を誘導して、都心の人口密度を高めることを目的とした制度です。この地区では容積率・斜線制限が緩和され、日影規制が除外されます。適用対象は一部の用途地域で元の容積率が400%or500%の部分と限定的です。(東京の)都心回帰を進めるために行なった措置なので、実施された2件(芝浦アイランド地区・東雲一丁目地区)はいずれも東京の臨海部です(容積率600%)。現在は都心回帰が進んだ、というか進みすぎたため、これ以上実施されることは考えにくいです。

東雲一丁目地区。中央の高層マンション群は東雲キャナルコート

高度地区(997)

人口・交通量や都市機能に応じた、適切な土地利用を実現するため建築物の高さ制限が加わった地区です。最高高さ制限最低高さ制限の2通りがあります(準都市計画区域内では最高高さ制限のみ)。最低高さ制限が設けられているのは主に都心部で、高密度な土地利用が求められるためです。絶対高さ制限に加え、(北側)斜線制限が設けられる場合も多数あります。住宅地でも用いられることがあります。

高度利用地区(1181)

容積率の制限、建蔽率の制限が加わった地区です。指定されると小規模建築の抑制が求められます。特に、最低の容積率と建蔽率の制限が加わります。さらに道路に対する壁面位置の制限も加わる場合が多いです。高度利用地区というものは土地の高度利用・都市機能の更新のための制度なので、適用される地区は中心的なエリアにあり、用途地域では商業地域が多いです。壁面位置の制限とは、道路の端から建物までの距離の最低ラインを定めるものですが、このことで圧迫感がなく整然とした街並みが形成されます。日本橋、銀座でも適用されています。

特定街区(112)

特定街区は、市街地の整備改善を図るため街区の整備又は造成が行われる地区について、その街区内における建築物の容積率並びに建築物の高さの最高限度及び壁面の位置の制限を定める街区とする。

都市計画法第9条20

容積率の緩和・高さ制限の緩和・壁面位置の制限を加えた地域地区です。大規模プロジェクト向けで、その多く(65件)が東京23区に集中します。複数の隣接する特定街区間では一体的に開発する場合に容積率が移転できます。比較的古くからの制度のため、初期の高層・超高層ビルでもよく用いられます(この制度により超高層ビルが建築できるようになった)。西新宿のビル群もこの制度を適用したものが多いです。逆に2005年以降は減りました(都市再生特別地区の影響も←次で紹介)。特定「街区」ということから区画が整理されている場所でよく用いられます。特定街区では、オープンスペースとしてのしての利用が期待されており、街区一体を一般に公共に開放するような設計(緑地帯/ベンチの設置・通り抜け等)が求められます。

日本初の超高層ビル、霞ヶ関ビルディング。特定街区を適用し、高さが147mに緩和

都市再生特別地区(123)

都市再生緊急整備地域のうち、都市の再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図る特別の用途、容積、高さ、配列等の建築物の建築を誘導する必要があると認められる区域については、都市計画に、都市再生特別地区を定めることができる。

都市再生特別措置法 第36条

都市再生特別措置法(2002年)に基づく地域地区で、用途地域による規制・容積率制限・斜線制限・高さ制限(高度地区内)・日影規制等が適用除外となります(容積率の最高限度は400%以上にする)。都心の都市再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図ることを目的とした地域地区です。条文中に登場する都市再生緊急整備地域(52)とは、「都市の再生の拠点として、都市開発事業等を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として政令で定める地域」(都市再生特別措置法第2条)のことで、その中でも特に緊急性が高い地域が特定都市再生緊急整備地域(15)です。これらの地域では民間企業への税制支援が手厚いです(特に後者)。
 都市再生特別地区は特定街区と似ていますが、こちらは都道府県が指定します(特定街区は規模により指定者が異なる)。また、特定街区が事業に対して容積率割り増し等のインセンティブを与える形式(に実態としてなっているの)に対し、都市再生特別措置法は理念として国際競争力強化・都市再生のための制度なので、緩和を受けることで魅力的な都市づくりの実施が求められます。なので事業のほとんどが都心部で、公共性・都市機能の向上(防災など)が強く求められます。一例に麻布台ヒルズ・あべのハルカス・大名古屋ビルヂングがあり、近年の都心再開発事業の根幹の制度になっていることがわかります。

日本橋一丁目中地区(コレド日本橋など)における実例。

以下の3つは立地適正化計画に関連した地区です。立地適正化計画は以下の記事で述べました。

居住調整地域(1)

市街化区域内・非線引き都市計画区域内に対して、市街化調整区域扱いをして住宅地の立地を規制する地区です。居住誘導区域の逆で、要は立地適正化計画に則ってコンパクト化を進めるための措置です。あまり活用されておらず、唯一の事例は青森県むつ市です。むつ市は線引きがされておらず、居住調整地域は特定用途制限地域内の中でも開発圧力が高いと想定される地区に設定されています。

居住環境向上用途誘導地区(0)

用途地域が設定された居住誘導区域のうち、住宅と共に日常の生活に必要な施設(=居住環境向上施設。診療所、日用品の販売店etc.)が集まる地区です。都市機能誘導区域ほど商業が集まらないにせよ、居住誘導区域内での日常生活が不便にならないようにする制度だといえます。容積率は通常より緩和され、代わりの容積率制限と場合によっては建蔽率制限・高さ制限・壁面位置制限が必要になります。

特定用途誘導地区(8)

用途地域が設定された都市機能誘導区域のうち、誘導施設の建築が必要と判断される地区です。ここでの誘導施設とは、規模の大きい医療・福祉・商業・文化施設などです。狙いはコンパクト化したい中心地の再開発にあるようです。指定されると容積率が通常より緩和され、代わりの容積率と場合によっては容積率・建築面積の最低限度と高さ制限が設定されます。誘導施設に対しては容積率ボーナスがかなり手厚いです。用途が限定的である代わりにオープンスペースの整備等再開発事業のための手間が不要なことです。事例としては名古屋市が都心部のかなり広範囲(863.1ha)で指定しています。

ここまでが、都市そのものの枠組みを指定する類いの地域地区でした。以下の用途地域は防災、景観など別の視点から設定されたものが中心です。

防火地域/準防火地域(不明)

防火地域又は準防火地域は、市街地における火災の危険を防除するため定める地域とする。

都市計画法第9条21

防火地域/準防火地域に指定されると、建築物の材料に対する規制が発生します。規制がより厳しいのは防火地域です。防火地域は中心部の高密度な市街地が、準防火地域は防火地域周辺や幹線道路沿いに指定される傾向があり、火災発生時の延焼を防ぐように指定されます。工業系の用途地域は防火地域/準防火地域から外される傾向にあります。
  では防火地域/準防火地域以外の地域では火災対策の制度は皆無なのでしょうか?ここで登場するのが22条区域と呼ばれるものです。こちらは建築基準法第22条で定められたもので、防火地域/準防火地域以外の市街地(≒都市計画区域内)に対して、一部例外を除いて屋根を防火に資した技術的基準に適合することを求めます。

札幌市の防火地域/準防火地域。札幌市では残りの地域は全て22条区域に指定

特定防災街区整備地区(12)

前述の防火地域/準防火地域のうち、木造建築物が集中する密集市街地にあって防災都市計画施設と一体に整備するべき地区です。火災リスクが特に高いため規制が加わっています。この地区が存在するのは東京都・大阪府・兵庫県のみです。建築物の最低敷地面積と場合によっては壁面位置の制限・間口率(ここでは、建物の間口÷防災都市計画施設に接する敷地長さ)の最低限度・高さ制限がかかります。防災都市計画施設とは、主に道路のことです(都市計画施設の話は後日しようと思います)が、延焼防止のために原則6m以上、最低でも4mの幅員が必要です。

景観地区(61)

景観法(2004年)に基づく、市街地の良好な景観の形成を図るための地域地区です。将来の景観向上を目的としても使われます。神奈川県鎌倉市・京都といった古都や広島県廿日市の宮島口のような歴史ある地区にもよく見られます。景観地区では建築物の意匠・形態の制限があります。例えば京都市の景観地区では屋根は勾配屋根にする必要があり、色彩についてもRGB形式などで細かく指定されます。京都のコンビニの色が独特だという有名な話がありますが、これも景観地区に起因します。この他、建築物の高さ制限・壁面位置の制限・敷地面積の最低基準も任意で定められます。準都市計画区域でも適用できる地区です(ニセコ・倶知安)。

風致地区(751)

都市において自然的な要素に富んだ土地における良好な自然的景観を保全するための地域地区です。規模は住宅団地単位で、地区ごとの特性に応じて裁定できます。風致地区ではグリーンインフラとしての活用が期待されており、樹木や土壌の保全も重要視されます。風致地区に指定されると直接規制がかかるというよりかは、建築物に対して厳しめの許可が必要になります。風致地区も準都市計画区域で適用できます。

緑地保全地域(0)/特別緑地保全地区(683)

これらは都市緑地法で定められた地域地区です。都市化に伴う無秩序な市街地拡大の抑制(いわゆるグリーンベルト。日本では構想こそあったがほぼ実現せず)や、グリーンインフラ、生態系の保全等を目的に設定されます。緑地保全地域では建築にあたって自治体からの許可が必要になり、特別緑地保全地区では原則として建築が認められません。特別緑地保全地区は都市内の寺社の周囲に設定されるケースも目立ちます。これらは場合によっては市街化調整区域や非線引き都市計画区域にも適用が推奨されます、またこれらの地域の指定によって生じる私的な損失は補償されることになっています。

緑化地域(4)

緑化地域も都市緑地法で定められた地域地区です。指定されると、一定規模以上の施設に対して緑化率の最低限度を定める必要があります。緑化率とは、敷地面積に対する緑化施設の面積割合のことで、緑化施設とは植栽や花壇のことです。設定している自治体は世田谷区・横浜市・名古屋市・豊田市です。ちなみに世田谷区と横浜市は都市計画に対して早い段階から熱心に取り組んでいた自治体として界隈では有名です。また、名古屋市は都市緑化に力を入れているようで、市街化区域全域(市の面積の約9割)が緑化地域に指定されています(名古屋市はさらに市街化調整区域も条例によって緑化率の最低限度が定まっています)。

駐車場整備地区(172)

駐車場法に基づく地域地区です。主に駅前の商業地域、近隣商業地域で車の交通量が多く、うろつき交通(駐車場を探す車)を減らして、円滑な交通を促すために用いられます。駐車場整備地区内では①駐車場整備計画を自治体が定めることが義務付けられ、②新築/増築の建物に対して附置義務駐車場の設置を自治体の裁量で義務付けられることができます。駐車場整備計画とは駐車場について、将来の需給バランスを見据えた路上駐車場・路外駐車場の配置計画で、都道府県といった広域的な自治体との協議のうえで決まります。附置義務駐車場は大型施設に対して条例で敷地内の設置が義務付けられるものです。台数は規模によって異なりますが、駐車場整備地区内では多めに設定されます。

臨港地区(450)

港湾を運営管理するための地区です。重要性が高いものは都道府県が指定します。いわゆる埠頭・マリーナ・漁港・商港などが含まれる地区です。臨港地区内では、条例に応じて特有の土地利用規制が課されます。

その他の地域地区

分量を節約するため、以下の制度は箇条書きで説明します。

  • 歴史的風土特別保全地区:鎌倉・奈良・京都など、古都の歴史的風土の保全のために規制がされている地区

  • 第一種歴史的風土保存地区/第二種歴史的風土保存地区:奈良県明日香村(歴史的風土が区域全体で良好に維持)にて上記の規定を厳格にしたもの

  • 伝統的建造物群保存地区:文化財にあたる建造物を保全するための地区。川越など、旧宿場町に多い

  • 流通業務地区:物流の拠点となる地区。付近の交通の円滑化のため、用途の制限が課される

  • 航空機騒音障害防止地区/航空機騒音障害防止特別地区:付近に空港があるため、建物の防音設備に規定がある地区。成田空港の周辺のみ

これで全て紹介したと思います!地域地区は用途地区を補完する役割を果たすとともに、事業者側が注目するべきポイントになります。これだけでもかなり複雑ですが、実は地域地区だけでも都市計画制度や日本の都市構造を全て説明したことにはなりません。とにかくややこしいです。個人的にはこのややこしさに大いなる問題があると感じています。

参考文献

  • 都市計画法

  • 建築基準法

  • 密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律

  • 令和5年都市計画現況調査

  • 大内田史郎. (2011). 東京駅丸の内駅舎保存・復原 2010 年 (第 28 回) 電気設備学会全国大会特別講演. 電気設備学会誌, 31(1), 63-70.

  • 国土交通省 高層住居誘導地区

  • 国土交通省 第12版都市計画運用指針

  • 札幌市

  • むつ市

  • 国土交通省 居住調整地域の設定による市街地拡散の抑制

  • 樗木武.(2023).都市計画学

  • 国土交通省 特定用途誘導地区

  • 名古屋市 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?