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黄昏鰤 第58話

103日目 「再会!橋を渡りたい化け物」

 歩いて歩いて角に浴びた返り血が乾くころ、見覚えのある怪物に出会った。川にかかる橋の前で立ち尽くしている、七本足の怪物だ。おれが歩み寄ると、後頭部の目でそれに気がついたようで、顔を向けた。おれは一定の距離を保って立ち止まった。

「こんにちは」

「こんにちは」

 おれがこの町に来て初めて殺されたのは彼にだった。ずいぶん遠い記憶になってしまったそれは、もはやあの時の恐怖も驚愕も擦り切れて、いっそ懐かしく胸を締め付ける。彼にもらった獣耳がまだ残っていたら、また違っていただろうか。

「橋は渡れた?」おれは尋ねた。

「橋?渡ってない。橋を渡ると元の場所に帰れるんだって。知ってた?」

彼はおれを覚えていないらしい。

「知ってるけど、この橋じゃないよ」と教えてあげた。

「ここじゃないの?」

「鳥居のむこうだよ」

「そっか。じゃあそこに行かなくちゃ」

「行けるといいね」

「ああ、けどこの格好で、お母さん、僕のこと分かるかなあ」

 そう言って怪物はぴこぴこと三角耳を動かした。おれに分け与えたあの耳だ。健在だった。

「きっと分かるよ。話もできるんだし。会えるといいね」

「ありがとう」

 彼は橋を渡って去った。橋の先はまた黄昏の町だ。

 さて、おれも猫を探さなくては。別方向に歩き出して、ふと思った。あの黒猫は、こんな格好で、おれのこと分かるだろうか。


【魂17/力13/探索2】
『猫目、角、火玉、竜尾、鬼腕』『名前前半喪失』『感情:楽喪失』

(つづく)

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