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【狩り】より【蜘蛛の巣】を張ること

狩りではなく蜘蛛の巣を張る
新しい事業をはじめる際の”気づき”

チーム1_YASUMI:小川 剛矢

自分は今まで【狩り】をしていた

「新規事業案募集」

どんな仕事をしていても、突然このような言葉が空から降ってくることがあります。「つかみどころがなく」「まっしろで」いろんな角度から見ると別物に見えて、その日によって形が変わります。

今の自分はくさび式足場のレンタル、という幼稚園の娘に言ってもいまいちピンと来ないお仕事をしています。そして一見、急激な変化を必要としなさそうで、安定してそうと思われる側面と、2013年の創業からくさび式足場に特化したレンタルで次々と拠点を増やし、全国展開を急速に進めようとしているベンチャー的側面、この2点を持つASNOVAに惹かれ、2019年に入社しました。

ASNOVAは人材教育に力を入れる社風で、ビジネスマナー教育やリベラルアーツからはじまり、リカレント教育や資格取得の補助など、会社がヒトの成長をサポートしてくれています。

その中に「AMP!」があります。あるプリキュアも「メタモルフォーゼ!」と言って変身してましたが、自分を変身、変容させる学びのプログラムです。なぜ自分が「メタモルフォーゼ!」したかったのか、それは新規事業を社内で提案できるような人間になりたかったからです。

実はこれまでも何度も挑戦してきたことがあります。20代前半の時は仕事が終わってからもなにか良いアイデアがないかとブラブラしたこともありました。偉くなったらいくつものアイデアを実現してやるぞー!と具体性0の日々でした。

新規事業を考えるときはいつも、ノーヒントでスタートしていました。今流行りの物を調べては、形を変えて事業化できないか考えてみたり、近くで発生した問題点を解決するモノを考えてみたり。周りを見渡したら、社内の人材もカツカツで相談相手もほとんどいなく孤独な状態、まずはゴールを形作ってそこに向かうプロセスを作って、その中に様々な予算を組み込んで計算して、初めてプレゼン。というのが常でした。

今思えば【狩り】みたいだった。

新しいことを考える時はワクワクする。だから無限の可能性を模索しちゃう。ゴールを設定したら狙い撃ち。外れたら仕方ないか、また別の標的を見つけるだけ。そもそも当たるかどうかも怪しいし、時間もかかる。ダメだしの連続で当初考えたものからどんどん路線がズレてくと嫌になったり。

今回AMP!に参加したのは、新規事業を1から作り出すヒントを知って、今までの自分から変容したいと思ったからです。『京都1泊2日、”気づき”を得よう!』と聞いて、頭の中では「?」だらけだったけど、ひさしぶりに久しぶりに通常業務を外れてワクワク、キラキラが出てきた。

実際にフィールドワークを行い、様々なヒトにたくさんのお話を伺うと、今まで自分が蓄積してきたモノの見方やヒトとの関わり方と異なる、気づきや、そのきっかけに出会えました。京都で事業に挑戦しているみなさんからお話を伺い、特に強く感じたのは、「【狩り】ではなく【蜘蛛の巣】を張っている」ということでした。

京都で出会った、新しいことに挑戦し続ける人たち

面白いヒト集め 糸を張る点

最初にお話を伺ったのは、株式会社川端組の川端さん。不動産の仲介やプロデューサー業をされている川端さんは、『SHIKIAMI CONCON』の中心人物です。

拠点にしているこの場所は、共創自治区をテーマに、コンテナ19基と長屋3棟からなる建物には、テナントが1業種も被ることがないようにされています。

驚いたのは、入居者も様々で、デザイナー、企画・デザイン、介護、イラスト、飲食、WEB、カメラマンなど多種多様の集まりであることでした。
川端さん曰く

レオ=レオニの『スイミー』のように、小さな小魚の集まりが離れ離れにならないようくっついて、大きな魚に見立てて自由にいろんな魚の形になって、自分たちでいろいろな問題を解決していく。

「そんな集まりになれたら面白い」と。

ヒトが集まり、みんなで問題を解決していく、1人では出来ない事も、皆でならどうにかなる。

自分はこの言葉に川端さんが集約されていて、一番感動したところです。今まで自分でなんとかする、そう教えられてそう過ごしてきたので、いろんなヒトが集まった時に出来上がる可能性って1人で想像するよりも大きいものなんだなと感じました。

今までに川端さんが手がけてきた物件はどれも個性的で、いい意味で一貫性がありません。

住む人をみる 張った線を太く

川端さんは、現在進められている主なプロジェクトの1つ『A HAMLET』についてこう話します。「古くなった建物って、全てをまっさらにして、コインパーキングやマンションを建てるほうが収益も出るだろうし、簡単。今の時代、集落ってめんどくさいイメージが付いてしまっているが、間違った方向へ進んでいることをアップデートして、本来の在り方を取り戻す。そこに住む人と一緒に寝食を共にしながら、作業して、そこに住む人の思いを乗せる。そのお手伝いをしたい。」

気づいたのは、川端さんのモチベーションはとにかく面白いヒトらと面白いコトをしたいということにあり、そこにかける熱量がとても大きいということです。また、モノの完成形≪ゴール≫に拘らずに、そこに関わるヒトを大事に深~く関わることで、方向性をいくらでも修正して、みんなで作り上げていく。失敗を恐れずにいくらでも形を変えられる、そこにヒト・モノの両面に蜘蛛の巣が見えました。

 歴史を感じる長屋と、無骨なコンテナのコラボレーション。
通りからだと見えないが、1歩足を踏み入れると異質さに圧倒される。

川端さんのご活動の詳細はこちらをご参考ください。
KAWABATA channel 


多様性と寛容 場所を選ばずに巣を張る

次にお話を伺ったのは、株式会社中藏で顧問の山口一剛さん。

前職では、京都信用金庫の支店長、役員として、様々な事業者の方、街の悩み、課題を解決されてきました。

今までに数多の創業、開業の相談を受けてきた方だけあり、緊張している私の話もよく聞いてくださり、相談にも乗っていただきました。私が一番気になったのは、「どうして安定した仕事を辞めたのか?」ということでした。山口さんは真っ先に笑いながら「安定してないよ(笑)」とおっしゃり、今までの自分の仕事をこのように振り返られたのが印象的でした。

「自分でいろんなこと考えたりとか、京都の特性で起業家の方とかこれから会社を起こそうって人が多いし、全国から【京都】っていうブランドで来て……でも人脈とかないし、いらいらしている人も多くて。そういうひとたちを地元の人たちと繋げて行ったり、というのが面白いかなという気持ちだけ。そういうことばかりをやっていて、あまり金融業はやってなかったような気がするね。(笑)」

さらに、印象に残ったのは、山口さん自身が「アメリカで1番住みたい街」に選ばれているポートランドへ視察に行かれた際のお話です。

『ポートランドは環境意識が高く、人種に対して多様で寛容、さまざまな選択肢があります。店舗ではワークショップや工房が併設されている所が多く、そこで製造しているモノの「作り手」を知ることができ、またそこに参加し、自らが「作り手」になることもできる。なにかあれば自分で学んだ技術で修理することもできるようになるし、相談しにくることに対しても大らか。そこには提供側のプライドと、お互いを尊重しあう文化がある。
知性を磨く」とか「人との違いを楽しむ」そういう育む土壌がある』
ということでした。

「多様性と寛容」「人との違いを楽しむ」それは日本人にとっても自分にとっても、とても難しい課題かもしれません。そういう教育を受けてきてしまったので。しかし今までの人生で同じ価値観の方との会話は「だよねー」というだけで、新しい何かに進む会話って少なかったなと振り返ることができました。

自分と異なるヒト・モノというのは恐怖があったり関心がもてなかったりするもの。そこを認めて人間力を高めることで、巣を張る時に強い線を張れる魅力的な人間になれるのかなと、そう受け取りました。


知性を磨くこと 
切れてしまったらアップデートしてまた張ればいい

山口さんが何度もおっしゃっていた言葉があります。
それは「知性を磨く」ということです。

「京都をそんな街(ポートランド)にしたい、面白いヒトたちが集まって面白いことをしたい。そのために社外のヒトと繋がりを持って会話をすることが大事。」

「社内は”知っている話”ばかりになってしまうこともあるし、”いいことしか言わない部下”は信用しにくい、刺激も無い。だからこそ、社外のヒトとたくさん話して知性を磨いておく。知識はいつかAIにとって変わっていくかもしれない、だから知性を磨くことが大事。」

「異質なものと対峙する、他流試合で磨かれるのであって、同じツボの中で同じ人と話しているだけでは磨かれないし、自分と異なる人と話すこと、それがとても大事です」

自分が社会にとって、ヒトとして有益性を発揮するには知識だけではダメだし、AIよりも進化しつづけること、色々なモノと交わり、未だ見ぬモノを想像し、創造することが大事だと”気づき”ました。

仕入れは会って、話して、見て 巣を張った店舗

清水焼の工房だった所を改装し店舗にしたセレクトショップ『oud.』(ウード)

oud.kyotoの代表、岡部さん。大正時代からの工房ということで、煤が壁一面に焼き付いている状態だったり、電気焼き窯を店舗のアクセントとして残されていて、歴史を感じられる部分を残しつつ、リノベーションでは、使える梁や屋根は残しつつ、補強した部分を塗装することなくアクセントとして残し、この先の歴史を刻んでいく建物として2面性が面白いなと感じました。店舗の一角では、岡部さんが仕入れてきた古家具を修理したり、製作するスペースがあり、商品のモノの裏側や人となりが垣間見える素敵な空間でした。

店舗の一角で修理補修をしている。完成形をイメージできるのも楽しい。

古家具や古着、修理して使えるモノだったり、岡部さんが出会ったアーティストの作品を販売しています。岡部さん自身が気に入ったものなので、モノについて尋ねると熱量のあるお話が聞け、大量消費の”物”とは違う、”モノ”の裏にあるストーリーが付加価値になり、唯一無二のものとなっているのだと気づきました。購入された方が、モノに付いてるヒトの話をすることで、また新しい繋がりができ、店舗に訪れる人が増える。看板も小さく店舗の場所もわかりづらいですが、それがここの個性を際立たせていると感じます。

ヒトとの繋がりから仕入れたお香。

私が初めてのお香と知ると、香立てをサービスしてくれました。嗅ぐとこの出会いを思い出し、またこれを買ったきっかけを土産話として話し、次のヒトへ繋がっていきます。

2日目の最後に訪れた岡部さんのお店こそ、”気づき”の集大成のように感じました。ヒトとの繋がりで土地を紹介され、過去の遺産を利用しながら改装して未来に繋げる、店舗に置いている商品(モノ)はヒトで決め、思いに共感されるお客様が来店されて。そこは岡部さんが張った巣が形になった場所で、最高に心地いい時間を過ごせました。


蜘蛛の巣を張る ―”気づき”のこたえ―

今回のフィールドワークを経て、新しいことに挑戦するということのイメージが【狩り】から【蜘蛛の巣を張る】ことへ変わりました。蜘蛛の巣を張るためには大事な4つのポイントがあると思いました。

  1. 待つのではなく自分から糸を出す
    自分で何かをしようと思うと、いつも自分だけで考えることが多かった。でも自分1人でできることは本当に限られたことしかなく、自分からいろいろなヒト、場所へ出て行ってたくさんの価値観に触れることが大事だと気づいた。それは蜘蛛が糸を出すようにいろんな接点を持つことだった。

     

  2. 何を捕まえるかではなく、誰と捕まえるか
    ゴールを決めてから行動を起こすことが当たり前だったので、ゴールをするためのメンバーを決めたり、適役がいなければ自分でする、それとは真逆で、誰としたいか、誰としたらその過程が面白くなるか、が大事。もしかしたら最初に考えたゴールよりもその先に進める可能性があるのではないか、と気づいた。

     

  3. 違う価値観があるからいろんな巣を張れる
    【狩りをする】ということは自分の価値観が主体となって動くため、いつも同じモノ、同じルートになる可能性が高い。でも、いろいろなヒトと出会って、色々な形の巣ができることで、異なる価値観・新しい価値観に気づくチャンスが増える。イノベーションを起こすためには、自分と日頃接点をもたないヒトこそ大事かもしれない。

     

  4. 一発勝負ではなく、作り続ける
    【蜘蛛の巣を張る】意識をもっておくと、もし線が1本切れてしまったとしても、他の線が繋がっていれば違う形に変化して、新しいことへ繋がる。失敗しても常にアップデートして次のチャンスへ繋げることができる。


あとがき

フィールドワーク仲間をご紹介

チーム:YASUMI
「休み」って大事。自分がインプットするための余白を空けておくことを大事にしようという思い。(フィールドワーク中に熱中症になるかと思うくらいしんどかった思いも乗せて・・・)

小川 剛矢 [ASNOVA] / 稲田 ズイキ [クリエイター] / 圓城 史也 [ロフトワーク]

★稲田さん
誉め上手。フリースタイルな僧侶。

★圓城さん
誉め上手。京都はお任せ。

初めての土地でわからないことだらけ、2人にいろいろ提案して頂き、自分は決めるだけでした。ただチョイスが絶妙で刺激しかない。京都という場所だけじゃない、2人が提案してくれた場所が素敵なところでした。そして日頃からいろんなアンテナを張って、面白いヒトと出会っている蜘蛛の巣が2人にも見えました。なので実は最初に会った時に回答は出てたのかも。

3人揃うと時間にルーズ。集合時間ギリギリまでフィールドワークに出ていた。それだけ集中していたってことで。とにかく楽しい時間を過ごせました。初対面のヒトと同じ時間を過ごすうえで大事なルールがあることを教えていただきました。


否定のワードは使わない

日常でついつい出ちゃう時あります。けど意識してポジティブでい続けると本当に楽しい。このコントロールは大事だなと”気づき”ました。このルールは職場でも使っていこうと決めました。
この場を借りて、ありがとうございました。


クリエイター:稲田さんからコメント

※チームに参加したクリエイターから、ASNOVA参加者からの依頼をもとに、プログラムの最終日にコメントをいただきました。

Q:小川からの質問
「気づき」を欲していない人に成長してもらうにはどうする??

自分もこの歳になるまで、だらだらゲームしたり、上司とゴルフばっかりしたり、アニメばっかり見たり、すべてが無駄とは思いませんが、もっと自分を成長させる時間がいっぱいあったなと思うことばかりです。部下が成長すれば上司としてもちろん嬉しいです。社長もそうでした。けど、自分で問題定義しない限り変容はしないと思います。人って追い込まれて自分事になるまで、何もやらない、そういう人が多い(自分も)と実感しているので、そこの"「気づき」を欲する状態"にもっていくヒントや行動があれば、コメント頂きたいです!

A:稲田さんからの回答
「変容」の前段階に、「気づき」があって、さらにその前に「気づきを欲する状態」があるけど、なかなかその状態に入ってくれないということですよね。そのもどかしさ、痛いほどにわかります。お気持ちを勝手に察するに、今回のフィールドワークで小川さんご自身は猛烈にエンジンがかかったものの、いざ実生活に戻って周りを見渡したときに「誰もかかった奴がいねぇ……」と、困惑されているのかなと思いました。

たしかに、自己変容の先の「実践」を射程に入れるなら、そこのプランも記事の中に落とし込まれていると、さらに決意のみなぎったいい記事になりそうです。

で、「『気づき』を欲していない人に成長してもらうにはどうする??」という質問ですが、自分みたいな若輩者がお答えするのは本当に申し訳ないのですが、あくまで自分の経験から語らせてもらいますと、この日本の社会で「成長したい」というモチベで働いている人は、まじでごくごくわずかだと思います。生存本能的なもので、基本的に人は「変わりたくない」という欲求を常に持っていて、それを脅かす存在は敵と認識するのだそう。だから、小川さんがおっしゃっているように、命の危機ってくらい追い込まれ、自分事として思えてはじめて、人は「変わる」んだと思います。

じゃあどうすんの?という話なのですが、自分でも他人でもそうなのですが、最初から「状態=be」の変容を目指すのではなく、まずは「行為=do」をする/させるというのが大事かなと思います。めっちゃ当たり前のことを言いますけど、よくビジネスのシーンでいう「巻き込む」というのはそういうことかなと。すなわち、まずは簡単な形の「do」をきっかけに参加してもらって、徐々に数や質をあげていって関わり方を濃くしていくというイメージですね。その過程の中にしか「be」の変容みたいなものはないんじゃないかと思います。なので、簡単にいうと「変われ!」と言うのではなく「これ助けてくれない?」とお願いしていくスタイルっていう感じでしょうか。

そのお願いにもコツがあると思っていて。相手にとって何かしらのメリットがないと、なかなか「do」もしてくれないです。メリットというと、対価でお金を払ったり、ご褒美をあげるといった「報酬」が思いつくかもしれないですが、個人的にはあまりその手法は使いません。大事だと思うのが、doに対する「社会的意義」「個人的意義」をちゃんと共有するということです。
「社会的意義」というのは、自分が今やろうとしている行為がどれだけ社会(会社)の役に立つのかということ。「個人的意義」とは、難しい言葉を使ってますが、すなわち「めっちゃ困ってます😭助けてくれたら、ほんまにありがたい😭」と、自分にとっていかに今やろうとしているdoが大事なのか、という期待の共有です。ゲスいことを言うと、人は尊ばれたい生き物なので、実は「ありがとう」と言われたがっていて、そういう意味では「助けて案件」は「ありがとうの余白案件」でもあると言えるのかも。とある作家が「優しさを受け取るのも優しさ」と書いていましたが、まさにその通りやなと思うことがたびたびあります。

というわけで、巻き込み上手とは、ビジョンがありつつ、お願い上手(=泣きつき上手😭)なんじゃないかなと思います。自分の周りの巻き込み上手さんの顔を思い返してみると、だいたいいつも困ってて、いつも誰かに助けられているという印象があります。蜘蛛の巣でいえば、それが心地よい巣作りということなのかもしれませんね。

質問の意図に応えられたか不安ですが、とにかく周囲の人に対して「成長」を求めるよりも、まず些細なことでもいいから「何かをしてもらうこと」が大事なんじゃないかと思います。そして、そのためには自分がこうしたい、こうあるべきだというビジョンがあって、その上でめっちゃ「困り」を表現するということですね。自分でなんとかしようという驕りとかエゴを捨てるってことでもあり、つまり、困りは悟り……(終)