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【ビタミン小説】キッチン

私の好きなポッドキャスト番組のひとつ,「本と学びと私の時間。」を聴いてから,私にとってのビタミン小説について書きたいなあとずっと思っていた。

「本と学びと私の時間。」は,自然豊かな田舎で暮らしているみきさんが,読書や日常生活を通して感じたこと,考えたことをゆったりとお話されている番組。鳥や虫の声,波音と共に届くみきさんの柔らかい声がとても心地よくて大好きです。

このポッドキャスト番組の中で,「ビタミン小説」のお話をされていた回がある。番組では柚木麻子さんの「ランチのアッコちゃん」が紹介されていた。私も気になって読んでみて,まさに「ビタミン小説」だ,と感じた。
「効果てきめん!すぐに明るく元気になれる特効薬!」という感じではない。でも,押しつけがましくなく,「明日も頑張ろうかな」とちょっと前向きにさせてくれるような,そんな小説だった。

学生の私が読んでもビタミン効果を感じることができたけれど,登場人物が働く大人たちだということもあって,働き始めてから読むともっと心に響くことがあるんじゃないかなと思った。また読み返したい1冊です。紹介してくださってありがとうございます。

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心のエネルギーが枯渇している時に,そっと背中を押して,ちょっと前向きにさせてくれる。
そんな私にとってのビタミン小説ってなんだろう。

そう考えたときに浮かんだのは,よしもとばななさんの「キッチン」だった。

どんなに悲しくてつらいことがあっても、それでも明日は来るし誰も何も待ってはくれない。

その事実を示してくれるこの物語は,厳しいようでいてすごく優しい。

八方ふさがりで光なんて一筋も見えない暗闇の中にいるような絶望を感じることがあっても,毎日は続いていく。だから,私たちがすべきことは,日々を懸命に生きること。ただそれだけでいい。その積み重ねが,必ず明日につながっていく。
この本を読めばいつも,そう思える。

人はみんな,道はたくさんあって,自分で選ぶことができると思っている。選ぶ瞬間を夢見ている,と言ったほうが近いのかもしれない。私も,そうだった。しかし今,知った。はっきりと言葉にして知ったのだ。決して運命論的な意味ではなくて,道はいつもきまっている。毎日の呼吸が,まなざしが,くりかえす日々が自然と決めてしまうのだ。

吉本ばなな「キッチン」p.131


自分が歩んできた道を振り返ると,そこにはいろんな自分がいる。

道に迷って悩んで。
進むべき道を見失って途方に暮れて。
足がすくんで次の一歩が踏み出せなくて。
歩き疲れてしゃがみこんで。
自分が歩んできた道に確信が持てなくて。

でも,そんな自分がいて,今,私はこの道を歩いている。

誰もがそうだ。振り返れば,現在地まで歩みを進めてきた自分が確かに存在する。

だからきっと,これからも大丈夫だ。
今,自分が何をすべきかを,目をこらして耳を澄まして,神経を研ぎ澄まして考える。踏み出した一歩が例え間違いだったとしても,間違いだったということがわかったのだからそれは確実に前進していると言える。無理して力んで大きな一歩をキメようとしなくてもいい。少しだけ,一歩だけ。毎日積み重ねれば,それはきっと明日に続く道になる。

ただ,「キッチン」は,登場人物たちの大切な人々が亡くなってしまう物語だ。残念ながら「ランチのアッコちゃん」のように,万人にとってのビタミン小説とは言えない。でも私にとっては大切なビタミン小説です。

あなたにとってのビタミン小説は何ですか?

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