個人的にこの百合漫画が好き!2022

 去年に引き続き、自身の1年間を総括する気持ちも込めて、恐縮ながら10作品選ばせていただきました。どうぞお付き合いください。

書いた人のプロフィール:百合ファン歴14年。聖書は『青い花』と『乙女ケーキ』、『終電にはかえします』。ここ数年の作品では『わたなれ』『きたかわ』『上伊那ぼたん』が好き。本性はきらら系ファン。去年の反省を活かして早めに原稿に取り掛かったものの……。

・2021/12/06〜2022/12/05(この原稿を書き始めた時点)に1巻または単巻が発売された漫画作品が対象。アンソロジーを除く。
・以下、ストーリーの仔細に触れるほどのネタバレはなし。
・以下、敬称略、順不同。
・タイトルはwebコミック(ない場合は出版社の作品ページ)へのリンクになっています。


お姉さまと巨人(わたし) ~お嬢さまが異世界転生~/Be-con

 突然ですが、『マリみて』か、あるいはそれに強い影響を受けた作品を1つ思い出してみてください。思い出せましたか? ちなみに私は『お願い神サマ!』を思い出しました。あなたの思い出した作品には、必ず「義理の姉妹」が出てくることと思います。『マリみて』以来――もしかしたら、エス文学以来――百合ジャンルの一角を占め続ける、王道中の王道、代表的な関係性の1つですね。ところで、「義理の関係」が非常に重視されるジャンルが、もう1つあるのをご存知でしょうか。そう、任侠映画です。任侠映画にもまた、盃を交わしあった義理の親子や兄弟が登場します。彼らの義理人情だったり反目だったりが見どころの1つなわけです。だいたい百合作品と同じですね。つまり、義理姉妹モノと任侠モノは相性がいい。そのことを指摘したのが本作です。急に広島弁で喋りだしたり、ケジメだなんだと言い出した時には驚きましたが、意外にハマるんだなこれが。
 ……本当です。もしかしてタイトルだけ見て「まーた異世界転生か。しかもネタ切れだからって巨人なんてイロモノを入れてきちゃってさ……」とか思った人はいませんか? いませんね? そんなひねくれちゃった人は去年の私で最後にしてください。だいたい巨人はイロモノではない。巨大感情女がいるなら巨大女だっているんですよ。あと百合のオタクの皆さんは身長差好きじゃないですか。巨大女と通常女性。すごい身長差でいいですよね。
 異世界転生してきたお嬢様・ヒナコ(精神が超強い)と巨人族のエイリス(戦闘力が超強い)との間にある深い信頼とか、過去の激重因縁(当然女が関与する。百合漫画なので)とかが魅力のダークファンタジー百合です。食わず嫌いせず、まず1話だけでもどうですか。見出しにリンク貼ってあります。ほらほら。……なんや、ワシのオススメが読めへんゆうのか。ええ度胸しとるな。

 にしても、最近流行ってるんですかね、巨人……。


どうしたら幼馴染♀の彼女になれますか!?/矢坂しゅう

 今や百合界隈で、いやラノベ界隈で知らぬ者なき作家・みかみてれんが提唱する1ジャンル”ガールズ・ラブ・コメディ”、通称ガルコメ、ガールズラブコメ。どちらかといえば重めだったりしっとりめな作品が多い百合ジャンル内で、ラブコメ的軽さを持ち、かつ妥協なき同性愛を描いた作品群は、一大潮流となって2020年代の百合界隈で圧倒的存在感を放っています。
 本作も、ガルコメと称される作品の1つ。表紙左側、いかにも垢抜けてる女子高生・未波と小動物系マイペースガール・柚子は小学生以来の幼馴染。寝る時と部活・バイト時以外だいたい一緒、なんならときどき一緒に寝てるから24時間一緒、それくらい距離の距離の近い”親友”だった2人ですが、柚子がどこぞの馬の骨に告白されてから未波の抱く感情が一転。恋だと気づいてしまってからは、目線が合わせられなくなるし、距離感は相変わらず近すぎるし、柚子のふとした仕草でなおさら好きになってしまうし……とてんやわんや。まるで変化しない関係性にやきもきしつつも、未波の心情に共感したり、恋する女の子ってかわいいなあと思える作品です。

(それにしても序盤も序盤で彼シャツならぬ彼(カノ)フリースやるのズルじゃん……。)


少女たちの痕にくちづけを/春花あや

 吸血鬼。百合というジャンルを語るならば避けては通れないキャラクターの一人で、『吸血鬼カーミラ』に始まり、アニメ化された『となりの吸血鬼さん』、長期連載となっている『ヴァンピアーズ』など、吸血鬼がメインキャラとして登場する作品は枚挙に暇がありません。そしていずれもが、人間と(成熟した)吸血鬼の関係を描くものでした。
 本作は少々毛色が異なります。まず、表紙に描かれている2人は、どちらも吸血鬼です。しかも、左側のいかにも後輩といった雰囲気の子は、血を吸ったことがありません。方法さえ知らぬのです。ゆえにその手段を、生きていくための手段を、先輩たる姉から学んでゆくことになります。少なくとも百合界隈で、こういった設定は珍しいのではないでしょうか。
 内容はかなり王道の義理姉妹モノ、学園モノで、少女漫画らしい繊細な表現、美しいモノローグが好ましく、読んでいて懐かしい気持ちになりました。こういったジャンルが目新しい着眼点と共に蘇ってくるのは、なんだか、嬉しい気がします。

(吸血鬼ばかり出てくる作品、日常モノとしては『道割草物語』があることを後で思い出しました)


今日はカノジョがいないから/岩見樹代子


 みんな大好き浮気百合。大好きですよね? 女が女の女を寝取るんですよ。
 この表紙のスマホ持ってる方の人物の名前は”ゆに”と言いますが、それはもうたいそうめんどくさい人で、承認欲求が強く、独占欲もそこそこあり、そのくせ自分のことしか考えておらず、SNSの裏垢には彼女の愚痴と自撮りを垂れ流す(しかも鍵垢じゃない)、そういう人間です。しかしそういう人間だからこそ魅力的なんですかね。どこか寂しさを身体に纏っているところがあるから、人を引き付ける。彼女(※七瀬と言う。バレー一筋)はゆにのことを大事にしたいと思っているし、風羽子(※表紙右側の人物)は搦手を使ってゆにを落としにかかるという……。
 そうそう、この風羽子という人物もなかなかの傑物です。ゆにが抱える寂しさにつけ込んで、ほとんど他人みたいな距離から一気に詰め寄ると、共感を誘い一定のポジションを得ます。さらに陰のある一面を見せたと思ったら可愛げに振る舞い、甘言で翻弄して……と、天然でやってるのか計算高いのか、後者なら狡猾にもほどがある。こんなことされたら浮気してもしょうがないんですよ。すまんな、七瀬……。
 今後は、七瀬のことも深く描かれて行くのだと思います(思いたい)。主要キャラクターたちに強い魅力を感じる作品です。


イベリスの花嫁/秋山はる

「運命の出会い」というのは突然やってきて、心を打ち抜いたり雷みたいに落ちてきたり隕石のように降ってきたりして、そしたらもう抗えないものです。ロマンティックな単語ではありますが、同時に不可避にして不可抗力という厄介な側面も持っているような気がします。
 そんな厄介な方の運命の出会いを果たしてしまったのがこの作品の主人公、柏井美月です。彼女はウェディングプランナーとしてのキャリアを積み上げつつあり、顧客からの信頼厚く、また私生活ではパートナーと結婚の予定を立てているなど、客観的に見て順風満帆の人生を過ごしていました。
 ところが都築七海という女性に出会ってしまい、揺れる心、徐々に崩れ行く足元、やがて転げ落ちて……行くのだろうか? それはまだ分かりません。この七海が悪い人間ならまだ救いがあるのかもしれませんが、ちょっと倫理観に問題(※)はあるにせよ、基本的に自分に正直に生きているだけというのがまた……。
 どうなってしまうんだ……助けてくれ……悪いようにはしないでくれ……と祈りながら2巻発売日(1月12日)を待っていま(した。読んだら感想文の内容が変わりそうなので、まだ読んでいません。1月12日までに書き上げたかった……)。
 なお本作は、オールド百合ファンにはおなじみ『オクターヴ』の著者の新作です。という理解で間違いないか念のため検索したところ、『オクターヴ』が10年以上前の作品という事実を突きつけられました。つらいね。

(※ ポリアモリー自体のことを指しているのではありません。念のため)


はなものがたり/schwinn

 百合というジャンルは老人をも描くことができます。この作品が証明です。
 ……太古の昔に百合漫画には学生しか出てこないという批判を受けて、いや社会人百合もあるが?ぐらいのことを思ったことがありますが、それにしたって比較的若年のキャラクターが多いのは間違いないわけで、百合漫画において、高齢者という存在は不可視な存在になっている印象があります(別に百合漫画に限ったことではない気もしますが)。本作は、そういった状況に対する回答の1つだと読み取ってもいいでしょう。
 タイトルの『はなものがたり』は吉屋信子の『花物語』からの引用です。時代背景故に悲恋めいた展開が多かった花物語とは対照的に、美容という行為を通して、自立だとか自由だとか、そういった希望が描かれています。もはや彼女たちはなににも抑圧されるべきでなく、ありたいようにある。現代を舞台にした花物語は、まさしくかくあるべし、と思います。


SAL/Sal Jiang

 2022年に社会人百合漫画と言ったら、おそらく誰もがSal Jiangの名前を上げるでしょう。2018~2019年頃の同人誌やアンソロ掲載作をまとめた短編集です。『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』の番外編も載っていますが、全体的には商業デビュー前~デビュー直後の作品ということになります。
 この先生の社会人百合の好みなところは、(学生との対比としての)社会人を描こうとする気負いみたいなのを感じないところです。いわゆる大人と称される人間、なんか、こんな感じだよな。という。別に成熟しきっているわけじゃないし、かといって子供のままというわけでもないし、なんとなく達観してるというかサバけているような印象があるかと思えば、妙に割り切れないところもあり…と、実際の人間ってこういう多面性があるよな、という感じでしょうか。自然さ、と言ってもいいのかも。社会人百合なので労働の描写を避けては通れないのですが、そこもプライベートなシーンとのバランスが良いというか。たぶん、シナリオの技法的な面でも、シリアスな部分とコミカルな部分の塩梅がちょうどいいのだと思います。詳しくないのでよくわかりませんが……。
 ということで(?)本作もすべて社会人百合です。悪い女に騙される女や女性との出会いにより抑圧から開放される女性、などなど、バリエーションに富んだ作品集です。先に述べたように彩香ちゃんの番外編が5篇掲載されていますから、こちらの作品のファンは必携でしょう。
 
 ……あ、そうだ。ぽっちゃり女子の百合漫画、お待ちしております。


奇譚花物語/作画:星期一回収日 原作:楊双子 翻訳:黒木夏兒

(※電子書籍版は公式サイトのみで販売されています)

 言語の壁を超え、台湾の百合漫画がやってきました。

 上記の記事を読んで以来、台湾の百合漫画に興味を持っていたのですが、なにぶん言語の壁を超えられず(台湾のことばってどうやって学べばいいんでしょうね?)、悶々としていたところ、クラウドファンディングにより本作の翻訳を行うとの一報を聞き、一切の迷いなく即入金。過日、無事に発行され、日本中に台湾の百合漫画が知れ渡ったというわけです。めでたし、めでたし。
 さて本作、掲載された4作中3作は日本統治時代の台湾を舞台にしています。日本統治時代ということは、1945年以前ということです。その時代を舞台に、リアリズムを持って、女性同士の話を制作するとどうなるか分かりますか。多くの場合、悲恋になります。つらいね。つらい。
 たとえば1作目「地上的天國」は女の子と幽霊の掛け合いから始まって、本の表紙から幽霊が顔だけ突き出しているようなシーンが出てくるなどもあり、コメディなのかな?と認識していましたが、背景にある女の子の想いを知ると、うおお、思い出したら涙が止まらねえ。助けてくれ。2作目「昨夜閑潭夢落花」も3作目「庭院深深華麗島」もなにかしらの哀しさがあります。しかしこの感じ……どこか、懐かしくないか? 昔の百合姫を読んでいるような、あるいは、ひらり、コミックスのような……。
 一方、残る4作目の「無可名狀之物」は現代を舞台にしています。果たして、この作品も悲恋なのでしょうか。それはぜひ実際に読んで確認してみてください。読後感は良かったです。
 なお本作は時代考証のしっかりした伝奇ものなので、台湾(特に日本統治時代)についての予備知識があればあるほど読みやすくなるかと思いますが、解説はついていますので、内容を理解する分には困りませんでした。また、日本の漫画文化の影響を強く受けているのだろうとは思いますが、どこか文法が違うような気もして、面白く感じました。
 ……台湾には、まだ多くの百合漫画があると聞きます。ぜひ翻訳の第2弾、第3弾をお願いしたいところです。

(完全に余談ですが、上に取り上げた記事内に、『ひらり、』や百合霊さん界隈でお見かけしたお名前があって、今は母国で活躍されているんだな、と嬉しくなりました)


推しVが教え子で私がママで!?/晩野

 最近の百合漫画界はラブコメが大流行りですが、本作もその1つです。大学生の佳月は、教育実習先でやたらと壺崎ミミという生徒に絡まれ、ただでさえ慣れぬことをしているのに、疲労困憊の日々。彼女のことを正直苦手だなあと思っていた矢先、彼女が自身の推しVTuber・つぼみの「魂」だと明かされる。しかもなぜだか自分が絵師であることさえバレている。活動を手伝ってと頼まれて、多忙な日々ながらもそんな首根っこ掴まれた状態では断れるわけもなく、推しの活動に巻き込まれていく……というわけで、性格が悪い女子に振り回される女子……いいよな。いい……。
 この作品の面白いのは、話が進むごとに壺崎さんの方の感情がどんどん大きくなっていくのですが、あくまでも作品中の主たる視点は佳月にあるというところです(特に、1巻の前半)。壺崎さん視点ならいくらでも話が作れそうなエピソードがあっさり流れていったりして、感情の大きさのアンバランスさを感じたり感じなかったりします。それは読み過ぎだとしても、百合漫画的には壺崎さんの方を主人公に置くのが普通なところ、一方的に好かれている方の佳月が主人公なのは面白いなあという印象です。
 ……ラブコメの感想なのに妙に固くなってしまいました。上記の感想は無視して、普通にラブコメを楽しむ気持ちで読んで下さい。


ほぐして、癒衣さん。/ミナミト

 もう皆さんはとっくにお気づきかと思いますが、もうきらら系だからって女と女の間の関係性に深く立ち入らない時代は終わっています。わずかな会話や所作を取り上げて、作者さえ予期せぬ意味を付け加え、100倍にも5000兆倍にも拡大する必要はありません。現代のきらら系は、"百合漫画"をやっています。
 まず表紙をご覧ください。長身の、いかにも仕事のできそうな女性(癒衣さん)が、椅子に座っているなんかもちゃっとした女性(カワグチ)の肩を揉んでいます。まあ気持ちよさそうな顔をしていますが、マッサージを受けていますから自然っちゃ自然ですね。そこで改めてマッサージしている側の女性の表情を見てください。微笑んでいらっしゃいますが……なにか感じませんか? 気分が良くて何より、というだけの感情ではなくて、こう、「カワちゃんかわいいなあ」というか、「カワちゃんは私の虜だぜ」というか……あれ? 結局細部を読み取る感じになっちゃってますね?
 でも、本編の内容はだいたいそんな感じです。帯にも「残業中の、ふたりのひととき。」(※実際の帯では、下線は波線)と書いてあります。「ふたりのひととき。」と強調されています。これが百合漫画の帯じゃなかったら、この世界はなにかがおかしい。
 ふたりのひととき、とは言いながら、癒衣さんに並々ならぬ恋情をお持ちの女性や、カワグチを奪い去ろう(語弊がある表現)とする女性なども登場します。いいですね。
 マッサージをテーマにしている以上、唐突に脱いだりしますが、そういうのが苦手でなければ、ぜひ。


 以上、2022年の個人的百合漫画ベスト10でした。
 あまり意識せずとも、自然にさまざまなジャンルから選ぶことができました。昨年に引き続き百合界隈が活発で、創意工夫のこらされた作品が多数出版されたからだと思います。願わくは、この活気が永遠に続きますように。
 そういうわけで2023年です。ちょっと間に合いませんでしたが四捨五入すれば許容範囲内ですね。今年も百合本のために生きていきま……あ、はい、まずは積みゲーや積みアニメを消化します……。今年の目標はCS版が出る前にエヴァーメイデンをクリアすることです。


-おまけ-
上記以外のよかった百合漫画(五十音順)

○コメディ系
・甘えさせて雛森さん!/tsuke
・ULTIMATE-MAMA/林家志弦
・アンドロイドは経験人数に入りますか??/焼肉定食
・ケイヤクシマイ/ヒジキ
・スケバンと転校生/ふじちか
・どれが恋かがわからない/奥たまむし
・忍者と殺し屋のふたりぐらし/ハンバーガー
・蜂も刺さずばうたれまい/るりえ
・ばっどがーる/肉丸
・ひきこまり吸血姫の悶々/原作:小林湖底(GA文庫/SBクリエイティブ刊) キャラクター原案・漫画:りいちゅ
・ポンポコタヌキとへっぽこ王子/桜Qり
・毎月庭つき大家つき/ヨドカワ

○シリアス系
・悪役令嬢と愛のためならなんでもする女 姉井戸・百合作品集/姉井戸
・あなたが私を照らすから。/むく
・姉の親友、私の恋人。/藤松盟
・同じ所で眠るまで待って/秋60
・君としらない夏になる/きぃやん
・君の為だけの首輪/あおと響
・恋と呼ぶには青すぎる/真くん
・〆切前には百合が捗る/原作:平坂 読(GA文庫/SBクリエイティブ刊) 作画:さきだ咲紀 構成:鈴木マナツ キャラクター原案:U35
・スターイーター 模造クリスタル作品集/模造クリスタル
・スピカをつかまえて/織日ちひろ
・デバヤシ・フロム・ユニバース/神崎タタミ
・花は咲く、修羅の如く/原作:武田綾乃 漫画:むっしゅ
・ゆらめきラグーン/花宮みぃ
・リリィ・リリィ・ラ・ラ・ランド/守姫武士
・リリカお嬢様に振り回される!/メイス
・ワケあって社長令嬢に拾われました/灯

○エッセイ
・女×女のうまくいかない恋愛エッセイ parlor/藤生


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