第24章 「小学校の算数の教育カリキュラムに対する批判はだいたい的はずれ説」
「学問こそが最高の娯楽である」シリーズの第24章。このシリーズは毎週土曜日18時前後にアップします。
なんか、最近のTwitterのTLで「さくらんぼ計算」なるものが批判にさらされているようです。
相も変わらず小学校の算数に反射的にイチャモンつける人が多いなあと思ったので、今回はその話です。
1. 公立の小・中学校の意義
日本には「子供に教育を受けさせる義務(いわゆる義務教育)」というのがあって、公立の小中学校はみんな無償です。
勉強なんてものは個々人がやればいい話だし、そのための教材も世の中にはあふれています。
じゃあ、なんで学校が必要なのかというと、子供一人一人の家庭環境も違うし、各家庭に任せていると、とてつもない落差が生じてしまう可能性が高いからですよね。
子供たちが学問の基礎的な部分を標準的なカリキュラムで受けられる学校というシステムはそのために存在しているはずです。
標準的なレベルから逸脱したような進歩的な内容というのは、本来は公立学校の範疇ではないはずです。
まず、これは前提ですね。
2. 算数の特殊性
小学校のカリキュラムでよく槍玉にあがるのが算数です。
算数のかけ算の順番問題(乗法の交換法則の否定)なんかが有名ですね。
3×5と5×3は、数学的には全く同じ演算です。
ですが、小学校の算数の文章題では、かけ算の順番を重視して教えるんだそうです。(今でもやってるかどうか知りませんが)
3×5と書くべきところを5×3と書いたら減点!
みたいな話です。
おかしいやろ!
ってね。
まあ、乗法の交換法則を知っている人なら皆思うかもしれません。
でも、学習段階にあわせたカリキュラムってありますからね。
文科省の学習指導要領がどういうふうに決定されているのか私は知りませんけど、それなりにエビデンスにそって学習効果の高いカリキュラムになってるんちゃいますかね?
例えばですが、わり算。
3÷2
これは、最初は「われない」と教わります。
次に、「1あまり1」と教わりますよね。
そんで、小数が出てくると「1.5」になり
分数を習うようになると「2分の3」という風に習います。
「われない」ってのは数学的には間違いですよね。
でも、こうやって順序立てて学習することで、子供たちはわり算に親しんでいくわけです。
ちょっとまえに、小数の足し算をひっ算で解かせる問題で
答えが9.0となったところを
「.0」を「\」で消して、「9」と答えないと減点という教育をしているケースについて、Twitterで炎上しているのを見たことがあります。
つい、笑ってしまったのが
「有効数字を考えたら、むしろ9.0の方が正しい」
とかいう意見があったんですよね。
これ、たぶん冗談だと思うんですが、もし冗談じゃなくて本気で言ってるとしたらただのアホですからね。
数学的には9と9.0は全く同じ意味なので、9.0の方が正しいなんてことはありません。
小学校の算数からやり直してください。以上。
はい、次。
「9と9.0は全く同じ意味だから、9でも9.0でもどっちも正解でいいじゃないか」
という意見もありました。
この意見はまあ、さっきのおバカさんよりはまともな意見ですが、個人的にはちょっと的外れじゃないかと思います。
なぜなら、まず問題の解答には「望ましい答え」「望ましい書き方」というものが存在します。
9.0は9と答えるのが望ましいのです。
9という答えを9.0と答えてもよいことにすると
9.00でも
2分の18でも
どんな書き方でも正解になってしまいます。
極端な話、3.9+5.1という問題に対して
3.9+5.1 = 3.9+5.1
と書いても正解ってことになってしまいます。
数学の定義としては間違っていませんからね。
それでは問題になりませんので、算数には「望ましい答えの書き方」が存在するんですよ。
この場合は9.0は9と書くのが望ましいのです。
ちなみに、数学者の森重文先生のこの件に関する見解は「『できるだけ簡潔に答えよ』との条件が明示されていれば別だが、そうでなければ減点は適切ではない」ということらしいです。
数学者らしい、厳密に正しい見解です。
しかし、数学界の大先生に物申す感じになって恐縮ですが・・・
算数の計算問題なんて「できるだけ簡潔に答える」ことが大前提ですよね。
5+3は8と答えるというのは大前提です。
不文律ってやつです。
それに、重要な前提として、小数のたし算の問題が出題されているということは、子供たちは小数を習っている段階ということです。
相手は「数学語」に精通した高校生以上の学生ではありません。
まだ算数を習い始めて日の浅い子供たちに、9.0は9と同じと教え込まなければなりません。
そういうとき、「9.0と書いても正解」にするか
「9.0を9に直させる」か、どっちが学習効果があると思いますかね?
たぶん後者ですよね。
分数の約分(やくぶん)もおなじです。
9分の6は、3分の2に直させる。
こういう訓練をつむことで、「9分の6=3分の2」というのが身につくんですよ。
人は、自転車に乗れるようになると乗れなかった頃の感覚を忘れがちですが、忘れているだけで、最初は皆乗れません。
段階をふんで反復練習させることはとても大事なのです。
皆が皆、天才とはちがうんですから。
3. 厳密には間違っていること
それでも、数学的に考えて厳密には間違っていることを教えるのはダメだ!
という意見もあります。
言いたいことはわからなくもないんですが
そんなこと言い出したら、理科だって間違ったこと散々教えていますよ。
それでも、そういう「厳密には正しくないこと」を勉強して理科を好きになって、高校、大学と進んでいくうちに、正しく学び直していくのが普通です。
中学の理科で、「酸化物から酸素を奪うことを還元という」って習いますよね?
あれ嘘やから。
酸化鉄に塩酸をかけると、鉄から酸素が奪われますが、別に鉄は還元されません。
高校で学ぶニュートン力学も、厳密に言えばあれ嘘やしね。
でも、学習のとっかかりの部分では、そうやって厳密な部分に目をつぶって、わかりやすく教える方が学習効果は高い場合が多いと思うんです。
まあ、私は教育学は専門ではないし、特にエビデンスを持っているわけではありませんが、かつて塾講師バイトをやっていたときの実感として語っています。
4. 先取り学習について
最後に、子供に先取り学習をさせている家庭について。
自分の子供の習熟度に合わせて、先取り学習をさせるのは、別に悪いことではないと思うんです。
周りのペースに合わせる必要もないですしね。
そういえば先日、小学5年生で数検1級をとった子(史上最年少らしい)がニュースに上がってました。
http://news.livedoor.com/article/detail/15599901/
凄いですよね。
どれだけ凄いことなのか、イマイチわからんレベルで凄いです。
こういう子はどんどんやらせたらええと思います。
でも、先取りで知ってるからって、学校のカリキュラムに文句つけたらあかんというのが私の見解です。
かけ算習ってないのに、テストでかけ算使ったらあかん。
だってそれがルールやん。
中学の剣道は「突き」が禁止されてますが、俺はちゃんと「突き」を使いこなせるから使わせろって理屈は通りませんよね。
それが嫌なら、極端な話、公立の学校行かせなければいいんですよ。
個別にハイレベルな教育を施せる環境があるなら、わざわざ標準的な教育の現場に乗り込んでイキりたおす必要なんてないでしょ?
・・・とまあ、今回はちょっとタイトルを煽り気味にしてみたんですが
要するに、公立小学校の教育カリキュラムについては、本来の目的と効果が一致していればよいので、批判するならそれなりのエビデンスを示した方がよろしいのではないか、というお話でした。
小学生の教育に関しては、小学校の先生が専門家なわけですから、専門家の職場にド素人が土足で乗り込んであれこれ注文つけるのはちゃうんちゃうかな、と思うわけです。
もちろん、現行の教育プログラムを盲目的に信じろと言っているわけではないですよ。
「なんでこんな教え方するんやろ?」と素朴な疑問を抱いて、考えることは大事です。
でも、「間違っている」という先入観でもって一方的に批判するのは教育の発展のためにも、あまり良くないことではないですかね?
以上です。
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