劇団イキウメ『人魂を届けに』
過去作を映像で観たことはあったけれど今回がイキウメ初観劇。ちなみにシアタートラムも初めてで、椅子の固さに驚く。
幸運なことにセンター最前列が取れ、間近でがっつりお芝居を堪能できた。銃乱射のシーンは近すぎて緊迫感が強く、本当に飛び上がってしまった。
刑が執行された死刑囚の体から飛び出した「魂」が入った箱を母親に届けにいく刑務官。森の奥で暮らす母親。社会の中で魂を削られ弱りきって森にたどり着いた人達。
魂を売る・買う話、語りかける人魂、少しずつ魂が削られ胸にすきま風がふく人、魂について色々な言い回しで語られる。
全てを受け入れてくれる「母親」と共に、自然の中でその日食べるもののことだけ考える暮らしは、欠けた魂を埋めてくれそうで、癒す行為にも見える。が、ちょっとした表情の変化や言葉のはしばしに、実はもっと別なナニカがあるのでは...と不穏な気持ちがわいてくる。と思ったところで明かされる新たな要素。素朴で穏やかな暮らしとテロや無差別殺人との落差にクラクラする。色々削ぎ落とされて、純化された魂の叫びがこれなのか、と。
はっきりしたことは最後まで語られず、リアルと不思議の間をいったりきたりする物語だった。
回想シーンではそこにいた人が過去の人物をそのまま演じており、瞬時に別人になるのを目の前で見てその演技に驚きっぱなしだった。語り終えると魂が抜けたように崩れ落ちる演出も印象的。文楽の人形のようだった。
篠井英介さんの圧倒的な母が素晴らしい。聖も邪もあわせ持ち、この世の最期まで見続けるような強さがある。
観終えて劇場を出た後、自分の削られた魂について考えてしまった。欠けたままなのか、なにかで埋められているのか。そして自覚せず誰かの魂を削ることに加担してはいないか、自分を疑い始めている。
シアタートラム
2023/5某日 B13
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