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首位に立つリーガの神盾・新生アトレティコマドリード

これまでの442スタイルから変更し、531+スアレスを用いて今季圧倒的な強さで首位を爆走するアトレティコマドリード。新システムによって昨シーズン以上に堅固な守備と新たに手に入れた高い攻撃力は、欧州での復権へのカギになるか。年明けからのアトレティコマドリードの実戦を通して、CL決勝ラウンドの注目点を探っていきます。

エイバル戦

今シーズン無類の強さを誇るアトレティコに、エイバルはしっかり守備を組んできます。高い位置からゾーンでミドルプレスをかけ、アトレティコに前進を許しません。

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ハイラインを保ちつつ中に絞り、WGもWBについていかずに放置して遠巻きに監視。もしWGBへ出た場合はSBがタイトに行き、アンカーのアルバレスが裏をカバーします。サイドの三角形は乾と武藤の両ウイングに抑えさせ、インテリオール2枚にはインテリオール2枚をバチっと当てます。Kガルシアにはサウールへのコースを切りつつ3CB、特にその中央へ制限をかけるタスクを。

それによって、序盤からアトレティコの狙いは大外のWGBに。しかしそこへのボールはあまり精度がなく、アトレティコの攻撃が形になりませんでした。

このように、3バックでビルドアップしてくる相手にどうプレスしていけばよいか、メンディリバルはよく理解して433で当たっていきました。特にアトレティコはキーパーが参加できる低い位置でも後ろが三枚でビルドアップをするので、キーパーを活かして数的優位を作れないこともあり、ボールはもたせてもハイサード(押し込んだ位置)で試合を進められていました。

何故なら、エイバルは中央を3枚で完全に封鎖出来るからです。例えば、フェリペがビルドアップ役の中央をオブラクに任せ、サウールを見るKガルシアの脇に構える方法があります。

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そうすると、中央封鎖の3枚に対して数的優位を作れ(部分部分で2対1を作れる)、ボールの出口ができやすくなります。

このように押し込んだ位置でのサッカーを保ったエイバルは武藤・乾の両WGには守備の立ち位置のまま3CBの脇、WGBの裏を狙わせ、見事武藤がPKを勝ち取りました。

しかしアトレティコもやられっぱなしではありません。前半のうちにインテリオールのレマルとマルコス・ジョレンテの役割分担を明確化することでエイバルの守備に対抗し始めます。

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サウールが中央にとどまらずにKガルシアのマークから逃げるようになり、マルコス・ジョレンテが相手の動きに応じてサウールの役割も担いに降りてきます。バルサでいうデヨングのような感じですね。反してレマルは前線に。明確にライン間を取りに行き、ハーフスペースで待ちます。

逆側のハーフスペースもコレアが陣取り、5レーンを整理。これによってWBが明確に空き、ボールが前進しやすくなりました。

そして後半、この修正を人を変えることで補強。レマルをよりセカンドストライカータイプのジョアンフェリックスに、コレアをボランチトレイラに変えてMジョレンテをシャドーに上げます。

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これによって各々の仕事を明確化し、適所に選手を配置。コレア・サウールが適宜バックラインに落ちて急造4バックになり、数的優位を作って3枚のプレスに対応しつつ、ジョレンテ・フェリックスにスアレスの両脇のスペースを突かせます。

最後は結局攻め残りスアレスの一発個人技でPKからの逆転でしたが、アトレティコが勝つべくして勝った試合でした。エイバルの先制点もとるべくして取り、対応したアトレティコも逆転するだけのことをしていたという面白い試合でした。

バレンシア戦:見えてきた攻略法

ここまで流れの中からまともなチャンスをほぼ作らせてこなかったアトレティコ。ここにきて、バレンシアがようやくその弱点を見つけます。

アトレティコの守備は、先制点を取るまでは532から大外をウイングバックにタイトに行かせることで疑似的な442を作ります。その段階でのアトレティコの守備陣形の崩し方は442と同じですが、442よりも各々の担当がハッキリしていません。つまり、各々が個別に対応を繰り返した結果、致命的な弱点があらわになるリスクがあります。

バレンシアの先制シーンもそのような形でした。532は中盤が3枚なので、中盤が何らかの理由で収縮した時に、両脇が空きやすくなります。ラシッチはその弁慶の泣き所に横パスを通します。

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ブルサリコが数的不利になると困るので、ジョレンテは大急ぎでスライド。チェリシェフはサイドのガヤにボールを流し、大外に出て来たガヤに流します。

クロスを妨害するためにブルサリコはガヤに詰め、サヴィッチも一旦はそれに合わせてスライドしましたが、中に3枚入ってきたのを見て慌てて数的優位を作りに戻ります。大きく空いたスペースを狙ってチェリシェフがインナーラップ。

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当然ジョレンテはまたまた慌ててチェリシェフに対応しますから、バックラインに吸収されました。

こんどはチェリシェフの空けたスペースをソレールが狙います。フェリックスは当然ついてきますが、チェリシェフが大外から戻ってくるのを見たガヤが素晴らしい判断で切り込みます。泡を食ったようにジョレンテ、コケが対応に行きますが、距離が遠いので時間がたっぷりありました。

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今度はチェリシェフが空けた内側のスペースをソレールが狙います。ガヤが自由にボールを出せる状況なのでフェリックスとしては放っておくわけにはいきませんので、当然ついていきました。

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こうして中央がぱっかり空きました。ラシッチのシュートはスーパーでしたが、波状攻撃で断続的に崩した結果です。アトレティコの守備をここまでグチャグチャに崩せたチームは今のところいなかったように思います。

しかしながら、今期のアトレティコマドリードは崩すのが大変なのにもかかわらず、リーグ2番目の得点力を誇ります。バレンシアの442に対して上手くボールを持ちました。ずっと低い位置で攻撃を受け続けると442はいつか瓦解するので、前からプレスをかけるもかみ合いません。

ターゲットのスアレス、それをサポートする推進力のフェリックスとジョレンテにハイラインを突かれ、逆転されてしまいました。

このように、アトレティコの選手は撤退の意識が強すぎるために最終ラインの人数が増えすぎ、手前のスペースを空けてしまうという現象が多々あります。当然 CLの相手はここから仕留められるチームばかりですので、改善の必要があるでしょう。

カディス戦

ここまで強豪チームをバッタバッタとなぎ倒す旋風を巻き起こす昇格組カディス。その実力は組織的な堅い守備がベースですが、それはディフェンシブサードだけでなくミドル、アタッキングサードでも発揮されます。ただ引いてカウンターというようなチームではありません。

そして、カディスは冒頭からいきなり見せ場を作ります。試合に応じて4141と442を使い分けられるカディスですが、この試合は442を採用。

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 キックオフ直後から、アトレティコは後ろに人数をためて532のブロックを形成。2トップが2ボランチを抑え、相手のSBにはIHが出ていく形。結構中盤がスカスカですね。本当ならばそこはWBが対応しに行きたい場所ですが、カディスは両WGを高い位置に上げてWBをピン止めします。CBの守備は数的優位をルールにしているアトレティコは3枚のCBを2トップにつけておかざるを得ず、WBが出ていけないのです。

そのままサイドに誘導し、連携のミスから奪うことができました。しかしここからがカディス式442の本領発揮です。

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高い位置2トップの片方をボールに、もう片方は中央のCBを消させることでアトレティコのビルドアップを効果的に潰せるんですね。というのも、ボールホルダーのエルモソにしてみればネグレド1人にオブラク、ヒメネス、サビッチの3人を消されており、蹴るしかないわけです。

この守備はハイサードに442ブロックを敷くというビルバオと同じ発想ですが、こちらは4141から変えて相手に合わせてやっています。明らかにアトレティコ式352の弱点を意図的に見てますね。これがカディスの強さの秘訣でもありますが、カウンターを撃つ時のことを考えて逆算している守備をしているんです。

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味方がボールを持った際に相手のSHの背中側を取るWBにWGがついていかず、あくまでサイドの守備をゾーンに保ちます。これによってボールを奪取した際にフリーでカウンターの起点となる、もしくはWBの裏を突くことができます。このシーンも実際そのようにシュートまで持っていかれました。

しかし、アトレティコはそこから素早く修正。エイバル戦と同様に、攻撃時のIHの役割を明確化することでボールの前進を可能にします。

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フェリックスに加えてレマルをシャドー化して大外へのマークを阻止するとともに、トレイラとコケの2ボランチでビルドアップをサポート。トレイラが必要に応じて4バックを形成します。これによってサイドでゾーンをつくる役割だったカディスWGを完全に浮かせ、無効化。2トップのサポートをすることもできず、WBについていかざるを得なくなり簡単に前進を許しました。それだけでなく、カディスはWGが押し込まれたことでカウンターの危険性も激減してしまいました。

CL展望:守備陣形

ここまで、1月のアトレティコのリーガでの戦い方を見てきましたが、まとめるとアトレティコのサッカーはこんな感じでしょう。

攻撃は3142よりも343の時の方がうまくいく。最近の試合では3421がはめられている時の対応が早く、343で押し勝っている。(マドリードダービーは直す前に先制されてしまったので負けた。)343になった時の2シャドーの馬力を活かしたインナーラップから生まれるオートマティズモがアクセントになっており、ゴール前にスペースを生む。しかし、ビルドアップ時にキーパーとCB中央が重なり、そこを抑えられると危険。

一方守備では541の形になると付け入るスキがなく、鉄壁。しかし3CBの中央を固める意識が強く、出て行ったWBの裏や出てこれなかった場合にスカスカになった中盤を突かれると脆いです。

さて、ラウンド16の相手はランパードの電撃解任が記憶に新しいチェルシーです。昨年度のファイナリストを率いた名将トゥヘルを招聘したかと思えば意外にも3バックを常用。アトレティコとは異なって343を採用しています。お互いにケガやCOVIDなど不確定要素が多いですが、おそらく352対343という構図に大きな変化はないでしょう。

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チェルシーはミドルサード以上では3バックから直接シャドーへの楔を通したり、プレス耐性が高くて運べる中盤2枚に起点を押し上げたりなどチーム全体が機能的な11人を作り上げてきている印象です。タレント的に見てもサリーダ・デ・バロンの完成度から見ても恐らくチェルシーがボールを握る展開になるでしょう。2トップで前線が数的不利ですが耐えてる間に先制点を奪う、もしくは最初から343でいくかという決断をしなければアトレティコにとっては厳しい展開になるでしょう。

アトレティコは押し込まれた場合にペナルティーエリア内で数的優位を作ろうとしますので、WBの内側をインナーラップされたときにIHをカバーに行かせることが多くあります。そうすると残りは中盤が2枚なので、スカスカになるんですね。チェルシーはこのようなランニングをしっかりしてくるチームなので、バレンシア戦のようなやられ方には要注意です。

なので最初から数的不利で回されるならということで1トップで541の守り方をした方が良いように思えます。541で固めたときの堅さはセビージャ戦で十分証明されてますね。

CL展望:ビルドアップ

そしてもう一つ、ディフェンシブサードでのサリーダ・デ・バロンの問題

まだ試合数が少ないので根拠はありませんが、トゥヘルならアトレティコのビルドアップの問題を見抜いてしっかりプレスを構築できると思います。仕掛けてこなければ別に何らかの意図があるとみるべきでしょう。

というのも、システム的にアトレティコのビルドアップのボールの待避所である大外はWBでガッツリみれますし、オブラクとヒメネスは重なっています。更にアトレティコが352で来た場合には1人でアンカーまで消せるので行かないのは正直もったいないです。

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343できた場合でもやはりバッチリ嵌められますし、CBのプレス回避能力もそこまで高くないのでプレスははめやすいでしょう。

逆に、チェルシーのビルドアップシチュエーション。

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低い位置で中央のCBヒメネスがオブラクの前に立ち続けるアトレティコとは対照的に、チェルシー3CBの真ん中チアゴ・シウバは右側に角度を取ります。すると中央があくのでジョルジーニョが降りてきたり、そこが付かれた場合には脇にコバチッチが下りてきたりなど非常に捕まえづらいです。加えてスアレスという弱点を抱えるアトレティコが捕まえるのは困難に思えます。

しかし弱点もあります。メンディがリーガのGK達ほどワイドへのボールがあまり得意でないことです。アトレティコの守り方はボールサイドのWBがワイドはタイトにアタックし、逆のWBが絞って中を4枚で守るというものですが、この場合必要なのは大外を捨てる勇気でしょう。リバプールのようにCBとワイドの間に立つやり方でもいいでしょうし、兎に角532は不向きであるということです。後ろを4枚にして大外を遠巻きに監視し、その分中を固めて2CBと中盤2枚にしっかり制限をかけられる守り方を仕込まなければいいようにやられてしまうでしょう。

適当ですが例えばこんな感じ。

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このように、ボールの前進というファクターで両者には大きな実力の隔たりがあります。現状ではチェルシー有利と見ざるを得ないですが、どのように選手たちとアトレティコ首脳陣の工夫が見られるか注目ですね。

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