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フィラデルフィアのWhole Foodsで働いているが、まるで徴兵された気分だ。

Amazon傘下のオーガニック食料品店で働くメーガン・マーレイは、コロナウィルス対策下での自らの従業経験を発信している。2020年4月14日にthe Counterに掲載されたサム・ブロックによる電話インタビューを日本語訳した。
原文: https://tinyurl.com/y7z9kw6y

朝は駐車場の仮設テントでの検温から始まる。
こんなはずじゃなかったのに。

メーガン・マーレイ氏はフィラデルフィアのWhole Foods Marketで、裏方ではない店内従業員として働いている。Covid-19の感染が流行し続けるなかで、職場での状況を発信し続けている。もともとは買い物用のカートや陳列棚の整理、食料品の袋詰め作業担当だったが、いまは清掃をしているという。
看護師、医師、救急救命士は、最も職場感染リスクの高い仕事だ。しかしマーレイ氏のように、米国の食料品店で働く300万人の多くは、自分たちもいずれコロナウィルスに感染して病気になると感じている。スーパーマーケットは不可欠(エッセンシャル)なビジネスと見なされており、今でも外出先として許される数少ない場所の1つだ。しかし店内で社会的距離を保つことは難しく、スーパーでの安全性は緊急課題だ。これまで少なくとも41人の食料品店従業員がCovid-19で死亡し、さらに数千人が陽性反応を示している。先週月曜に、国際食料品店従業員労働組合(※1)は、食料品店が「ウィルス感染拡大のホットスポットになっている」とし、従業員の保護を強化するよう求めた。
労働者と労働組合、そして政治家からの圧力を受け、Whole Foodsとその親会社のAmazonは安全対策を強化した。従業員は出勤する前に体温を測るようになった。シフトの間は手袋とマスクを着用し、レジにはプラスチックのスクリーンが設置され、客とレジの間にある程度の距離を作っている。同社はウイルス検査で陽性反応が出た従業員と、隔離された従業員には2週間有給病気休暇を約束し、危険手当の請求に応じて、時給2ドルを上乗せしている。
マーレイ氏 (22歳) のような労働者にとって、こうした保護は不可欠だが、職場で起こりうるすべての危険を回避するには不十分だ。Whole Foodsで働くことは、仕事というよりも戦争に行くようだ、と電話インタビューで語ってくれた。(サム・ブロック)

メーガン・マーレイ: 規制前(※2)は、近所の人で1日に2、3回来るお客様もいて、カフェコーナーで朝ごはんを食べて、新聞を読んだりして過ごしていました。家のない人たちは、食べ物を電子レンジで温めにきたり、少し体を休めるために来ていました。現在は安全上の理由で、カフェコーナーは閉鎖中です。テーブルと椅子をすべて撤去し、Amazonプライムの会員向けサービス(※3)で注文のあったものを、配達員が梱包するエリアに変えました。

3月の前半の2週間でパンデミックの影響がでたので、まず朝7時から夜10時まで営業していた店の時間調整です。朝7時から8時までは店の従業員と60歳以上のお客様が買い物をする時間とし、8時以降は一般のお客様を入れるようにしました。でも、ふたを開けてみたら、アマゾンのオンライン注文への対応が忙しくなってしまい、本当なら高齢者に安心してお買い物をしてもらうための時間なのに、うまく機能していないです。

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清掃や除菌をする余裕があるだけまし。
気休めにはなるから。

店では一時間毎の定期清掃の手順が決められています。レジ前に商品を流すためのベルトコンベア、カードを読み取る機械や打点キー、出退勤管理のタイムレコーダーや、休憩所の給水器などを全部拭き掃除をしなければなりません。Tuff-Job Wipeという紙製の手拭きも店の中に設置しました。玄関口でカートが返却されるたびに、私が除菌スプレーをしています。買い物の品数が少ない人のための急行レジの列も、いまは掃除エリアに改造して、戻ってきた買い物かごすべてを拭いています。私が店でしている仕事はカートと買い物かごのそうじだけですね。

ただの気休めであっても、こうして掃除ができる事自体で、かなりホッとします。気持ちが不安定になりすぎないから。仕事していると、どこか他人の判断に身を委ねるようなところがあります。お客様がマスクなしで来店することを選択しても、私たちが、そのことに意見したり、なにかを強制することはできません。社会的距離などお構いなしに、90センチメートル以内に近づいて、私たちに話しかけてくるかもしれません。ほとんどの時間を掃除に費やすことで、少しでも店の安全性を守れたら、と祈るような気持ちです。

私が働いているのはとても小さくて狭い店舗なので、コロナウィルスが流行る前は、「一日の七割はお客様の通せんぼをするのが私の仕事です」などと冗談を言ったものです。いまのところ店内への入場制限は一度に50人までとしています。しかし、この数はお客様だけを数えたときの入場制限です。従業員は含まれていません。一般に言われている2メートルの社会的距離という制限は、ここではあまり守れません。

冷凍食品、ペーパータオル、トイレットペーパーなどが入荷すると、長期保存できるものを目当てにお客様が来店します。でも全く重要でないものを買いにくる方もいて、レジで働く同僚にとっては、頭痛の種です。たとえばお花でブーケを2つ作ってほしい、などと注文されると、レジでの作業を中断して他の担当に電話をかけないといけません。時間がかかることにお客様がいらいらして怒ったりもします。そんなこともあるので、店内の人数を制限して、余裕をもたせるようにしているのですが、それでも毎日買い物に来る方はいます。

従業員には今マスク着用の義務があります。私は自分用で顔のサイズに合うものを持参しますが、8時間もつけっぱなしだと、さすがにいい気分ではいられません。紙袋はまとめると約18キログラムで、これを持って階段を上り下りして汗をかくので、マスクの中も湿気て不快です。コロナウイルスにかかったらもっと不快になるよ、と自分に言い聞かせてマスクを着け続けています。

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先週から従業員の体温チェックを開始しました。駐車場に仮設の医療テントのようなものを設置して、額から2、3センチ離して測れる非接触型の体温計を使っています。測ってくれるのは同僚です。私が最初に測ったときは36度でした。次の日は33度と表示され、低体温症かなと思い、もう一度測ったら35度、3度目にはついに温度表示さえ出ませんでした。こんな測り方じゃだめじゃないかな、と一瞬思うのですが、熱がなければ大丈夫だと思うしかありません。私自身はしっかり熱ぐらい測ってわかっておきたいです。「正確にはわからないけど、とりあえず働けます」という程度の体温測定だとわかったら、お客様だっていい気分ではないでしょう。いちおう測定はしているというアピールにはなります。体調管理や測定の仕方を変えるかもしれないという話もちらほら流れきますが、今のところ、それで間に合わせています。

陽性診断か隔離と言われない限り、有給休暇はなし。
熱があったら早退させられるだけ。

会社側には、私たちの仕事場を安全にする手段は沢山あると思います。たとえば予防的な有給休暇の提供です。いまのところ、検査で陽性反応が出るとか、隔離をすすめられたりしない限りは、有給休暇はとれません。熱が出ていても、ただ家に帰されるだけです。私たちは、少なくとも今の2倍の危険手当を受け取るべきだと思います。Whole Foodsの幹部を含め、自宅で仕事をしている人たちのほうが、いまごろもっと稼いでいるだろうと、従業員だって感じてるのです。

仕事を始めたときは、まさかこんなことになるとは誰も思っていませんでした。ある意味で、私たちは徴兵されて戦争に引きずり込まれているような気がします。危険手当として2ドル上乗せすると、時給17ドルになります。でも私たち従業員は—食料品店の従業員が死んでいく話を聞きながら—時給17ドルぐらいで命を危険に晒すなんてありえないと感じてます。この近くのWawa(※4)に働いている人で陽性患者が出ました。Acme(※5)からもそういう噂を聞いています。私たちにとっても、これはもう時間の問題ではないでしょうか。

※1 The United Food and Commercial Workers International Union (UFCW)の代表のMarc Perroneは、食料品店などに働く従業員にマスクや手袋などの基本的防護用品を支給すべきだと全米の州政府に訴えた。
https://www.politico.com/newsletters/morning-agriculture/2020/04/14/farm-bureau-food-banks-seek-new-voucher-program-786834

※2 規制: 2020年3月16日にニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州が三州でコロナウィルス流行に伴う規制を行うと発表。これをうけて、同日ペンシルヴァニア州も3日後の19日から規制を設けると発表した。https://www.globest.com/2020/03/19/pennsylvania-joins-ny-nj-and-ct-in-imposing-covid-19-restrictions/?slreturn=20200316062514

※3: Amazon Prime Now: アマゾンプライムの会員向けのサービス
※4 Wawa: 米国のコンビニのチェーン
※5 Acme: 米国のスーパーのチェーン
写真の解説
・ヘッダー画像: メーガン・マーレイ
・テントの写真: 店舗敷地内に建てられた簡易テントで、従業員は体温測定を行う。
・テントの内部: 簡易テントの内部。非接触型の体温計を、他の従業員に額から2、3センチ離して測ってもらう。あまり正確に検温はできていない

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