推しが卒業を発表した日


人生で初めて推しの卒業発表を経験した。

あぁ、これが推しの卒業か_____



その日、私は仕事のストレスで体調を崩し、しばらくお休みをいただいていた。尊敬する上司が自宅の最寄りまで来てくれて、2時間ほど話を聞いてもらい、月曜日からまた頑張ろうと、少し前を向けた日だった。図ったように。狙ったように。


帰り道で何となくスマホを開くと、オタクからのLINEが目に飛び込んできた。

「生きてる?」
「まめさん大丈夫ですか?」

何のことだろう。最近またTwitterに浮上してなかったからその生存確認だろうか。次に目に入ったのは乃木坂46公式の通知だった。


" 齋藤飛鳥 ブログ更新 "


頭の中に『卒業』の二文字がよぎった瞬間、呼吸の仕方を忘れたように息が苦しくなった。酸素がどんどん薄くなっていくような、周りの空気を奪われていくような。最寄りから家までの10分の道を、あんなにも遠いと感じたのは初めてだった。

家に着いて鞄も下ろさずにブログを開く。いや、その前に何か飲んでおいた方がいいだろうか。スマホをタップする指が尋常じゃなく震えているのに反して、やけに冷静な頭に少し可笑しくなる。

ブログタイトル、短いなぁ。


だけど、自分が思っていたよりも覚悟ができていたのかもしれません。

初めは動揺して、飛鳥ちゃんの書く文章がこんなにも頭に入ってこないこと、これまでにあっただろうかと思うくらい、同じ行を何度も読んでいたけれど、気がつけば、そうか、よくがんばったね、と穏やかな気持ちでブログを読み進められている自分がいた。


それでも涙は溢れるもので。

悲しみや寂しさから来る涙なのか、それとも感謝や労いの涙なのか、もっと違った何かなのか。ただ、これまでメンバーの卒業を受けた際に溢れた涙とは違う、形容しがたい愛おしさがあった。



しばらくの間、宙を見つめてボーッとした後、仲の良い飛鳥ちゃん推しに連絡をした。

「ご飯行きませんか」

しかし予定があったらしく、金曜日の夜だもんな〜と、休みの日の前日にお知らせしてくれたのはオタク心を配慮したやさしさだろうか、などと考えていると再び通知が鳴って。

『やっぱり断った。××駅行く』


20分後には合流して、楽しかったよね~なんて言って飲みながら、これからどうするよ...って頭抱えて。オタクしてなかったら知れなかったことが沢山あったねって、あ〜なんか今泣きそうだわなんて言って笑って。でもなんか清々しいかもなんて話しながら夜道を歩いて。ゲームセンターでUFOキャッチャーして。最後やり切ろうねと拳を合わせて。

ちゃんと好きだったんだなって思った。
少し、嬉しかった。


帰りに何故かキウイをもらった。これから私はキウイを見るたびにこの日のことを思い出すんだろうなと思う。キウイだけじゃない。きっと、この時の居酒屋に行くと、いい推しの日になると、寒い日、増えてきたぁと感じると、好きな人を追いかけた日々を思い出して、愛おしい気持ちになるのだろうと思う。



ありがとうしかない、ありがとうしかないんだよ。


あの時どん底から救ってくれたのも、毎日に彩りを与えてくれたのも、しんどい時に元気をくれるのも、今でも支えになる言葉をくれたのも、年齢も性別も住むところもバラバラの、大切な人たちに出会わせてくれたのも、全部全部飛鳥ちゃんだから。

前に「同期の卒業が相次ぐ中、乃木坂で完全燃焼したいと今なお先頭に立ち続ける推しメンが、卒業するときに今日まで続けて良かったと思えるグループであってほしい。それだけです」と書いたことがある。今そうだといいなぁと思う。


きっと目を瞑ったらその時はもう目の前まで来てしまうのだろうな。そのくらい、卒業カウントダウンが始まってからの時の流れが早いことは知ってる。みんな知ってる。だからこそ、これから沢山の愛に包まれて前へ進む飛鳥ちゃんに置いていかれないように、最後まで笑って駆け抜けたいと思います。


最後の日、きっと今の私じゃ想像もつかないくらいキラキラと輝いているであろう彼女を前に、目を背けないで済むように。真っ直ぐ彼女の目を見て「おめでとう」と言える自分でいられるように。



2022年11月4日。

推しが卒業を発表した日。

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