【創作小説】狗たちの一生(後編)
とはいえ、ここへ来るのにずいぶんと勇気がいった。ようやく息子が通う高校にたどり着いたというのに、私は当の息子を見つけられずにいた。
待ち合わせ時間が迫ってきて、私はいっこうに落ち着かず弱気に笑ってみせたり校舎の方をうかがったりしていたが、上手いとは言いがたい管楽器の音色が流れてくるばかりで、息子らしい少年は現れない。
無理もなかった。私はこの十五年間、一度も息子に会ったことはない。蓉子と臨に関わらないことは唯一の離婚の条件で、むろん私は経済的な援助を申し出たが、それは