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創作小説『狗たちの一生』

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約1万文字の創作短編小説。2022年、ある文学賞に応募するために書いたものです。
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2024年1月の記事一覧

【創作小説】狗たちの一生(前編)

 受話器を取った瞬間、向こう側に別れた妻がいるのだと分かった。だから私は言った。 「蓉子なのか?」  彼女は一瞬沈黙し、そして自嘲気味に小さく笑った。 「そうよ、私。あなた、相変わらず鋭いのね。鼻がよく利くというか、何というか」 「鼻は君らと変わらないじゃないか」  とっさに答えてしまってから、私は口をつぐんだ。彼女が苛立っているのが分かった。そうよ、あなたはいつも何かに怯えて身構えているせいで、冗談の一つも理解する余裕がないのよ、と。  私たちは十五年前に別れたきり一度も