【創作小説】狗たちの一生(前編)
受話器を取った瞬間、向こう側に別れた妻がいるのだと分かった。だから私は言った。
「蓉子なのか?」
彼女は一瞬沈黙し、そして自嘲気味に小さく笑った。
「そうよ、私。あなた、相変わらず鋭いのね。鼻がよく利くというか、何というか」
「鼻は君らと変わらないじゃないか」
とっさに答えてしまってから、私は口をつぐんだ。彼女が苛立っているのが分かった。そうよ、あなたはいつも何かに怯えて身構えているせいで、冗談の一つも理解する余裕がないのよ、と。
私たちは十五年前に別れたきり一度も