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顔のポッチ

顔にぽちっとアイツが現れると、私はいつも爪でガリガリと傷つけてしまう。

ニキビと呼ぶのか、吹出物と呼ぶのか、どちらか迷うけれど、とにかくあの油っぽいポッチが現れたとき、私はまず傷をつける。

そして、ギュウっと潰して、痛々しい血を何度も出す。血を出して、ティッシュで拭って、また出して、拭って、を繰り返すと、いつしか血は出なくなる。ポッチもちょっと目立たなくなったように思える。

強く何度もギュウギュウ潰し続けると、今度はポッチの周りに広く内出血が起こる。痛々しい跡は何日か残り続けて、忘れた頃にスウっと消えていく。

触らなければ綺麗に治るのに。大人しく薬を塗ればいいのに。私は無意識のうちに、わざわざ傷をつけて、より大きくなった傷跡を長い間残してしまう。



「思い出し笑い」というものがあるけれど、私は「思い出し叫び」をしがちである。ちょっとしくじったり、恥ずかしかったり傷ついたりした、もう二度と戻りたくない瞬間をふと思い出して、脳内で再現してしまう。そうすると心がゾワゾワして、ギャアと声をあげたくなる。吐きそうになる。

思い出さなきゃいいのに。
痛いんだから、血が出るんだから、これ以上傷つけなきゃいいのに。
傷つけたぶんだけ跡に残るんだから、触らない方がいいのに。余計痛々しい跡が広がるだけなのに。

けど、そうして何度も傷つけて、何度も血という名の叫び声を出さないと、消化しきれない記憶って人生に沢山ある。思い出すたびに傷跡はどんどん広がっていくけれど、時間が経てばやがて薄く消えていく。こうして叫びたくなるような瞬間を沢山経験していくことで、私という人間はまた少し強くなる。

深く傷つけすぎるのは良くないけれど、悪い血は全部出し切って、時間をかけて、傷跡を薄くしていく。

傷だらけの私の心は、何度も何度も傷を負い続けるうちに、どんどん強くなっていく。

肌も同じようにだんだん強くなってくれたらいいんだけど、そうもいかないので、また明日くらいにはたぶん顔にポッチを見つけるんだろう。

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